第146話 トレーナ会戦 後編 4

「閣下、部隊先頭は小官が。閣下は危ないので、第4大隊後方にお下がりください。閣下にもしものことがあれば、この11師団全体の士気に関わります。」


 第87騎兵連隊連隊長ロラン・シャンタル大佐は、連隊先頭に出ようとするトゥルニエ少将に後方に下がれと伝えると、トゥルニエ少将は焦るアダムスを引き連れ、しぶしぶその指示に従った。


 第87騎兵連隊は、第81騎兵連隊、第83騎兵連隊が粗同時に突撃し、敵カルドナ王国軍第5重装騎兵師団の中央に穴を開けると、その左側小集団へと突撃を敢行、左側集団を壊滅に至らしめた。


 その左側集団が壊滅すると、今度は第11騎兵師団に向け、敵7個空戦中隊が手ごろな岩を落とし、小規模な爆撃を加えようと、空中から接近していた。


 第11騎兵師団トゥルニエ少将は、この空戦中隊の接近をキスリング支隊前進観測班より受け取ると、直協である2個魔導砲兵大隊へと対空迎撃を下命。

 2個魔導砲兵大隊は迫りくる空戦中隊へと、各砲班より対空手を集め、対空砲撃を実施、師団は何度かの爆撃を受けるも、損害軽微、逆に敵7個空戦中隊の内、1個空戦中隊、1個小隊を撃墜に成功した。


 残った約5個空戦中隊3個小隊は、そのまま砲撃のあったとみられるキスリング支隊の潜む森へと偵察を実施後、暗がりであった森で、既に陣地変換を済ませ、灯火管制を実施しているキスリングを支隊を見つけることが出来ず、大した戦果を上げずにカルドナ王国軍第4軍司令部へと帰投した。


 混戦となっている最右翼、最左翼とは違い、暗がりの中一向に距離の詰まらない戦線中央に、両軍から何度かの照明弾が続けて上がると、距離を詰める第7重装歩兵師団が中央部分で突出していた。

 右翼である第3重装歩兵師団は、グロージャン中将の命令で、度重なる銃撃の為損害を出し、遅れてしまう第21歩兵師団との間を埋めるため、少し下がる形で敵との距離を詰めていた。

 左翼に展開するオートゥイユ中将旗下の第22歩兵師団も、度重なる銃撃の為損害を出すと、かなり下がった位置で前進を続けていた。


 第3重装歩兵師団を指揮するヴェルドナット中将は、足の遅い重装歩兵が突出していることに強い憤りを覚えると、即座に第2軍司令部へと通信。両翼の即時前進を訴えた。

 第2軍司令部は、ツェッペリン大将が全軍の即時前進を命令すると、第22歩兵師団のオートゥイユ中将は、歩兵師団の前進が敵の苛烈な銃撃の為、非常に困難な旨を司令部に報告、後方に控えるフォルマン中将指揮下の第17歩兵師団との師団の入れ替えを進言した。

 総司令官であるツェッペリン大将は自身の判断でこれを承諾。第22歩兵師団の前進命令を解除すると、第17歩兵師団を前面へと移動させた。


 この動きをカルドナ王国軍第4軍司令官アンプロージョ少将は見過ごさなかった。ウェスバリア第22歩兵師団が後退の為その場で停止すると、弓形状に後退する全軍の内、右翼第18銃歩兵師団の1個連隊と第9銃歩兵師団、第16銃歩兵師団、左翼第18銃歩兵師団の2個連隊の銃口を、突出して前進するウェスバリア第7重装歩兵師団へと向けさせると、十字砲火を放った。

 

 第3重装歩兵師団は、正面に対する防御は戦術の一部として盾を傾けるなどして防いでいたものの、左右の防御に関しては計画にない。その為十字砲火を浴びると、右翼、左翼などに損害を出し、その前進速度を一気に落とした。


「総司令部!こちらは第7重装歩兵師団ヴェルドナットだ!両翼の前進が極めて遅い為、敵に十字砲火を受け立ち往生している。このままでは敵との距離が一向に詰まらん!両翼をもっと早く上げさせろ!」


 ヴェルドナット中将は、行き場のない怒りを司令部にぶつけると、7重装歩兵師団全軍に3面防御を告げ、最右列、最左列にも外側に盾を構えさせると、その前進を止めた。


 アンプロージョ少将は、カルドナ王国軍第4軍全軍に下命、動きを止めたウェスバリア第7重装歩兵師団の両翼が上がりきるまで、第7重装歩兵師団に魔導砲撃、矢の雨を降らせると、第16銃歩兵師団と第9銃歩兵師団に対し、両翼歩兵の進軍妨害を命令した。

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