第147話 トレーナ会戦 後編 5

 ウェスバリア軍第2軍第17歩兵師団長であるフォルマン中将は、自身の師団が攻勢する隊列の内、奇数列にラウンドシールドを両手に一枚ずつ左右の手に持たせると、鋼鉄槍を2本遇数列に構えさせ、2人一組で行動することを命令すると、第22歩兵師団の各列が作った間隙を進行させ、素早く第22歩兵師団の前面へと抜け出した。


 奇数列の兵士は、盾を上下に構え、第7重装歩兵師団の前列兵の様に盾に角度を付けさせながら全力で前進、その陰に隠れる格好で鋼鉄槍を2条構えながら、いつでも奇数列兵と共に突撃できる体勢で前進した。


 第7重装歩兵師団右翼第3重装歩兵師団は、その右翼である第21歩兵師団の前進速度が絶え間なく続く敵の銃撃により上がらないことから、その前進を一時停止、第2軍司令部へ正面第9銃歩兵師団へと支援砲撃を求めた。


 敵魔導砲兵連隊との砲撃合戦を続ける第72魔導砲兵旅団は、ヴァイトリング准将自らが采配を振るい、2個大隊を前進する歩兵師団の直協として敵第9銃歩兵師団へと支援砲撃を開始、更に、敵第18銃歩兵師団の左2個連隊に対し2個大隊に砲撃を開始させた。


 第2軍司令部は左翼ジュシュー中将旗下の第24歩兵師団に対し即時前進を命令。第73魔導砲兵旅団に対し、第24歩兵師団の前進援護を続けて命令した。


 戦線最左翼第9騎兵師団の先遣隊である第109騎兵連隊は、師団の中では比較的重装備である、したがって敵2個弓騎兵連隊の矢をもろともせずに前進するが、敵の弓騎兵連隊も騎乗しているため、戦場を引きずり回される状況であった。

 思うように敵を捕らえられないことで、士気が下がる第109騎兵連隊に、敵の魔導砲撃兵連隊の内1個大隊が、砲撃を随時加えることにより追い打ちをかけ、その数を徐々に減らすことになっていた。


 その2個弓騎兵連隊は、第109騎兵連隊に追われながら、随所で離散、追われている数を1個連隊に調整すると、離散した1個連隊はアンプロージョ少将からの別命を受け第72騎兵師団の援護へと向かっていた。


 敵の突撃、並びに銃撃の前に苦境に立たされ、数を2000程失った第9騎兵師団長シャルパンティエ少将は、連隊規模の矢による攻撃に敵弓騎兵連隊の存在に気付くと、弓騎兵連隊に対し第73魔導砲兵旅団へ再度の援護砲撃要求、及び爆撃を受け立ち往生中の第2歩兵師団へ対し、早期の援軍要請を行った。

 しかし、第2歩兵師団の到着までに、当初1万6585名であった第9騎兵師団は、第109騎兵連隊と合算しても、1万に届くかどうかというところまでその数を減らすと、第2歩兵師団の到来と共に、再び後退を開始する敵部隊をただ眺めていることしかできなかった。


 ウェスバリア第2軍司令官であるツェッペリン大将は、戦線最左翼での敗北を知ると、前進を続ける為遊兵となっていた、第7重装歩兵師団の後方で前進するブロイ中将旗下の第13弓兵師団を、戦場中央から最左翼第9騎兵師団の後方へと移動させた。


 一方で最左翼とは異なり、戦線最右翼である第11騎兵師団は、第5重装騎兵師団を撃破し壊走に至らしめると、その目標を敵第5重装騎兵師団と隣接し味方の第7重装歩兵師団並びに、第21歩兵師団の進行を阻害する第18銃歩兵師団へと変えた。


「敵の銃歩兵師団へと突撃を敢行する。シャンタル大佐の連隊は負傷者を纏め、後方へ下がらせよ!11、81、83連隊は突撃準備をせよ!」

 

 トゥルニエ少将は、第11騎兵師団全軍に下命すると、カルドナ王国軍第18銃歩兵師団の左翼に対し、第72魔導砲兵旅団へと突撃支援射撃を要請した。


 カルドナ王国軍第5重装騎兵師団は、その数を4000程まで減らすと、壊走したかに見せかけたが、これはアンプロージョ少将の戦闘当初からの計画であり、左側面の森へと逃げ込むと、追っ手が来ない事を確認し、再度の突撃準備の為、各隊を再編成していた。


 1月11日の夜が明けようとしていた頃の主戦場の戦況である。

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