第148話 新たなる戦線 1

 1月11日午前。

 ウェスバリア議会へ緊急かつ速やかに齎された情報は、議会に参加する全員の表情を凍りつかせた。

 

”イドリアナ連合王国、ウェスバリアに対し宣戦を布告せり。”


 第2軍のカルドナ王国侵攻に対し、既にハイデンベルグ帝国へと宣戦を布告しており、現在交戦中にあるイドリアナ連合王国が、同盟国であるカルドナ王国と共謀しウェスバリアに対し宣戦を布告した知らせであった。


「フルブライト、我が第3軍の準備状況はどうであるか?」


 そう口を開いたのは、エドゥアルト・フォン・グレッテ、マイトランド達が所属していた新兵教育隊のフリオニールの叔父である。

 フリオニールの叔父と旧知の仲であるウェスバリア軍参謀総長フルブライト・フォン・グリルファウスト大将は現状を語った。


「帝国軍の情報によれば、イドリアナは現在の所、赤服共を準備しておるらしい。その規模は2個師団から3個師団程と予想される。それ以外にも多くの兵が海峡を渡るようだ。」


 赤服。それは、イドリアナ連合王国国王エドワード3世直属の王国兵であり精強な部隊としても知られている。

 1月11日の宣戦布告から、翌日には船により海を渡り、ウェスバリアへ攻め込み、ウェスバリア第3軍を叩き、第2軍の進軍を阻止しようという狙いである。


「フルブライト、こちらも船で戦うと言う事は出来ないのか?」


そう尋ねたグレッテに、グリルファウスト大将は眉をひそめると答えた。


「船か、我々の船と言っても、漁船であれば数日で集まろう。しかし、イドリアナはガレー船やガリオン船などの軍艦だぞ?海上は帝国に任せて、我々は沿岸で迎え撃つ他なかろう。」


 実の所、ウェスバリアには海軍は存在しない。イドリアナはこれに対し海洋国家であるため、軍船を多数所持している。

 ここで困惑する両者の間に、割って入った者があった。ロンメル家現当主マンフレート・フォン・ロンメルその人である。


「新たに徴兵して戦えば良いではないか。徴兵できる下限の年齢も15歳にし、上は40まで上げ、軍を増やして戦えば済む話だ。どうかな?」


 グリルファウスト大将はその発言に、更に眉をしかめると、会議机が割れんばかりに叩き答えた。


「ロンメル卿。軍事費について理解できておりますかな?兵士が増えればそれだけ軍事費が増えるということだ。軍人の私が言うのも可笑しな話だが、我が国がこれ以上兵士を増やせば、国民への負担が大きくなりますぞ!」


「軍人は戦争の事にしか頭が回らんらしいな。正解をくれてやろう。ただ税を増やせば良いではないか。」


 ロンメルが大声を上げ笑い出すと、フリオニールの叔父と、父テオドール・フォン・グレッテがグリルファウスト大将に助け船を出した。


「我が国は現在3つの敵を抱えている。そんな事をすれば、戦争終結前に国が滅んでしまう。ロンメル卿はわかっているのか?」


「これはグレッテ卿、異なことを申される。こんな状況だからこそだ。周辺国でウェスバリアは一番人口が多い。だからこそこんなに困窮しているではないか。戦争をして、勝って国民が減るなら残された者の為にも、それが良いではないか。」


「戦争に勝っても、働き盛りの男が減って、女子供老人だけが残されて何になる?」


 軍への武器、衣類、糧食、雑貨の卸しを行っている業者の多い、主戦論派であるロンメル一派は戦争をすることににより莫大な富を得る。

 ロンメルは反論するグレッテを意に介さずに、周囲の大多数であるタカ派議員に同意を求めた。


 父の教えが良かったのであろう、フリオニールの思考からもわかる通り、父テオドールはハト派である。主戦論者であるロンメルに対し、グレッテはハト派議員に同意を求めた。


「何にしても、徴兵するほかあるまいて。」


 ロンメルはそう言うと、満面の笑みで議会全員の多数決を取った。


 3日後、ウェスバリアは、徴兵令を布告。新たに徴兵された兵士に教育を施すことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る