第54話 策謀 3

 続けざまにマイトランドはポンっと手を叩き、ライナー調略の作戦を説明する。


「いいか、ライナーの悪い噂を流せ。どんなことでもいい。こちらの意図を悟られないように、ヤツの信用を地の底に落とせ。これは延々と模擬戦前日まで続けるんだ。」


「はあ?なんで味方にするのに悪い噂を流すんだ?」


「ああ、アイツは前回の模擬戦で全く活躍できなくて、悪い噂があれば、防衛戦では重要なポジションに付けられないだろ。すると、戦功上位に入れないと危機を感じるライナーの不満が溜まってくると言う訳だ。不満がピークに達したところで、負け戦に乗らないで、戦功上位をやるからこっちに付けと言ったら、どうなる?」


「はああああ、良く考えてんなぁ。さすがマイトランド!相変わらず気持ち悪いぜ。そんなんじゃ、俺もどこかで操られてるって思っちまうぞ?」


「お前に限っては、操る必要がないだろ。作戦の内、1を伝えれば、10を理解してくれるからな。それにお前に関しては、操らなくても勝手に動いてくれるしな。」


「まあ確かに。言われてみれば・・・。でもよ、他はどうするんだ?」


 ランズベルクが聞き返すと、マイトランドは少し考えて答える。


「うん、新貴族3班のヨーゼフ・アルファイマーっていただろ。あいつがこっちに付くんじゃないかと思ってる。」


「なんでだ?」


「あいつさぁ、一回目の模擬戦の時は、何もしないで終わってるんだよな。前回はクリスト達と、戦いもせずに降伏していただろ?あの場面で、クリスト隊を足止めされていたら、もう少し戦闘は長引いたと思うんだよ。」


「つまり?」


「会ってみる必要があるってことだ。フレデリカ、ヨーゼフと会えるか?」


 マイトランドは、話の途中で急にフレデリカに話を振ると、フレデリカはそれまで話に参加できていなかった為か、苦笑いで答えた。


「難しいだろう。彼は独特な空気を持っている男だ。私自身はおろかグレッテ卿ですらも喋ったことが無いだろう。」


「うん、次から休日は外出が出来るんだったな。フレデリカ、ヨーゼフをデートにでも誘ってみてくれ。」


「あ、は、わ、私がか?」


「ああ、フレデリカ、気付いていないかもしれないが、お前はどこからどう見ても絶世の美女だ。お前が無理なら他の誰でも無理だろう。なあフリオニール、そう思わないか?」


 マイトランドに話を振られたフリオニールは即答する。


「ああ、マイトランドの言は正しい。フレデリカ嬢は世間一般で言う美女だ。好みはあると思うが、アルファイマーもそう思うだろう。」


「なんだ、調略は悪くて、色仕掛けはいいのか。変な奴だな。」


 マイトランドは自分が振っておいて、フリオニールが否定しないことに複雑な顔をしながら答える。


「私が・・・。美女・・・。マイトランド、それは本当か?」


「ああ、本当だ。お前は黙ってさえいれば、間違いなく美女だ。」


「そうかそうか。美女か。うんうん。話の後半は聞かなかったことにしよう。ならばアルファイマーの事、見事に連れ出してみよう!」


「ああ、頼む。そこには後から俺も行くようにする。」


 フレデリカはマイトランドに美女と言われたことが嬉しかったのか、頬を赤らめ、満面の笑みを浮かべると、二つ返事で了承した。


「後は、うじゃうじゃいる平民班を。どうするかだな。」


「何か策はあるのか?」


 フリオニールが尋ねると、マイトランドは答える。


「完全な遊兵にしてしまえばいいと思ってな。火薬は用意できるか?金がかかるが、門を吹き飛ばせるくらいの量があればいいな。通れればいいからな。酒樽一個分ってところか。できなければ、他の策を考える。」


「酒樽一個分か、できないこともない。」


「銃があればいいんだがな。軍機となっている以上、使えば班長達に止められる可能性がある。装薬である火薬であれば使っても問題にならないだろう。」


 フリオニールは“銃”と言う言葉が平民であるマイトランドの口から出たことに驚きを隠せず尋ねる。


「マイトランド、銃を知っているのか?」


「ああ、フリオニールが銃を知るかなり前にな、俺とランズベルクは銃を見ている。」


「そうか、それで先日騎兵の時代が終わると・・・。」


「うん、そうだな。でもまだ騎兵の時代は終わらないぞ。銃歩兵の戦術が確立するまではな。丸い弾だ、重装騎兵であれば、弾くこともできるだろ?まあ、その話はおいおいな。」


「ああ、わかった。後ほどゆっくりと聞かせてくれ。」


 マイトランドは頷くと、フレデリカに向かって、


「とにかく次はヨーゼフ・アルファイマーだ。次の休日は頼んだぞ。」


「ああ、任せてくれ!見事期待に応えよう!」


 フレデリカはそう言って無い胸を叩くと、服を選びに自室へ向かって走り出した。

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