第55話 策謀 4

 次の休日になると、フレデリカはアルファイマー調略作戦を実行に移す為部屋を出た。


「フレデリカ様!今日はどちらへ行かれるのですか?」


 そっと部屋を出たフレデリカに声をかけるのは、フレデリカの副官で、あまり出番のないクレアであった。


「あ、ああ、あ、ああ、ああ、せっかくの休日だ、今日は買い物に行こうと思ってな。」


「軍服を着ずに、ロングドレスを着て買い物ですか?まさかあの平民と?どこかに出かけるのではありませんか?」


 まるで監視員の様に、クレアに質問されるフレデリカは、はぁ、とため息を一つつき答えた。


「そうだったら私も嬉しいのだがな・・・。違うのだ。」


「怪しいですわね。違うのでしたら、私もご一緒しても?」


「いや、いや、いい。私だけで行くから来ないでくれ。」


 動揺するフレデリカを、クレアは流し目で見ると、


「わかりました。そう言う事であれば。」


 と言ってクレアは自室に戻って行った。クレアが諦めたことに、ほっと胸をなでおろすフレデリカは、そのまま階段を下り、エントランスへ到着すると、周囲を確認し、馬車に乗り込んだ。


「ウェリステートの中央広場へ向かってくれ。」


 馭者にそう伝えると、馬車はウェスバリアの首都ウェリステートへと向かった。


 一方、部屋に戻ったクレアは、クローゼットに吊るしてあった軍服に、着せ替え人形の如く即座に着替えると、急いで隊舎裏に走り、その足で馬に乗る。


「甘いですわね。フレデリカ様、諦めたと思ったのでしょうが、そうは参りませんわ。」


 そう呟くと馬の腹に拍車を当て、全速力でフレデリカの馬車を追いかけた。


 新兵の教育が実施されている教育隊基地から、首都ウェリステートまでは馬車で小一時間と言ったところだろう。首都までの間に森が存在するが、ほぼ一直線に伸びたその道は、モンスターもおらず、これと言った危険もない。


 森の中を、クレアが馬を進めていると、当然作戦の為、フレデリカを追っていたマイトランド、ランズベルクの両名と出会うことになる。クレアは馬を止めると二人の進行を妨げた。


「ああ、なんだ、クレアか、すごい勢いでフレデリカを追っているから誰かと思ったぜ。馬に乗れるようになったんだな。」


「ふん、平民とのデートではなさそうね。よかったわ。」


 クレアは一言そう言うと、馬を進めようとするので、マイトランドがその馬の頭を押さえる。


「すまんが邪魔をしないでくれ。」


「どういう事?」


「今は作戦中なんだ。」


「作戦?フレデリカ様を使って?平民の考えることは分らないけど、まあいいわ。あなた達が場所を知っているのね。なら気持ちの悪いのを我慢して、一緒に行動させてもらうわ。」


「邪魔をしなければ、勝手についてこい。」


 こうしてクレアはマイトランド達と合流することとなった。


 3人はフレデリカの待ち合わせ場所である、ウェリステート中央の広場に到着すると、ランズベルクの魔法で気配を消し、植木の陰に潜んだ。


 フレデリカがベンチに座って待っていると、燕尾服を着た男がフレデリカに寄って来た。


「フレデリカ嬢、お待たせいたしました。今日はどのようなご用件ですか?」


「今日はあれだ!アルファイマー殿とデートがしたくてな!」


「本当にデートをしたい者が、そのように言うとは思えませんが?他に理由が存在するのでは?」


 アルファイマーにそう言われると、フレデリカは黙ってしまった。


「ねぇ、ちょっと、フレデリカ様と一緒にいるの、アルファイマーじゃない。作戦ってこういうこと?」


「ああ、そうだ。」


「ふざけないでよ!フレデリカ様はあんな男が好きなんじゃないわ!」


「うるさい。少し黙ってろ。」


 マイトランドが黙れと言ってクレアは黙る様な女ではない。


 ギャーギャー、ギャーギャー、ピーチクパーチク、とフレデリカの恋について大声で叫んでいると、それはやがてフレデリカ達の耳にも届くところとなった。


 アルファイマーは何かを察したのか、声のする方を見ると、


「なるほど。そういうことですか。おかしいとは思ったのですよ。」


 そう言って、腕を組むと、今度は大声で続けた。


「マイトランド君、そこにいるんでしょう?出てきてもらえますか?」


 アルファイマーの声に、マイトランドは、ランズベルクに隠蔽を解かせると、アルファイマーの前まで進み出た。


「良くわかったな。どの辺りからだ?」


「そうですね。最初からです。フレデリカ嬢がデートの誘いを、あんまりにもしつこくするものですから、誰かにやらされているのだろうと、考えました。」


「実際棒読みだったしな。予想外の事が起こるとすぐ黙る。」


「え、ええ、そうですね。私がこのような愚策を見抜けぬとでも?」


「いや、誘い出す口実は何でもよかったんだ。実際来てくれただろ?お前と話せさえすれば何でも良いって感じだ。」


「フフフ、面白い人ですね。父の友人から変な平民がいるとは聞いていましてね、マイトランド君の事だとすぐにわかりましたよ。で?私を調略しに来たのでしょう?」


「話が早くて助かるよ。乗ってくれるか?」


「ええ、いいですよ。ただし、条件があります。」


「なんだ?」


「私は学者か発明家になって新兵器の開発をするのが、夢でした。それが今は徴兵制度の為に軍人です。なんとかしてくれますか?」


「それは俺だけでは決められない。俺にできるとも思わないしな。」


「できますよ。あなたは人を引き付ける何かがあるのでしょう。作戦も毎回君が考えているのでしょう?それだけ約束してもらえば、一生君の下に付きますよ。」


「それはフリオニールになんとかできる話か?」


「グレッテ卿ですか、無理でしょう。彼にそんな力はありません。軍にもっと影響力のある人物でないと。」


「そうか、ちょっと考えさせてくれ。」


 アルファイマーは微笑むと、マイトランドの返答を待った。

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