第56話 策謀 5

「じゃあ今回だけ手を貸してくれるってのはどうだ?その間に考えておくからさ。」


「マイトランド君らしくないですね。それではダメです。しっかりと答えを出して下さい。」


「うーん。俺の地位が上がってからのことか?」


「そうではありません。そうですね。今から3年以内に可能でしょう。」


 実に、どちらが貴族かわからなくなるような会話である。中々回答にたどり着くことができないマイトランドに、アルファイマーは、


「では一つヒントです。マイトランド君は、新兵教育を追えたらどうするのですか?」


 そう言ってマイトランドを見る。

 マイトランドは少し考えると、答える。


「全くわからん。降参だ。」


「そうですか、では回答です。マイトランド君は私の予定では、部隊に配属されてすぐに、士官学校に行くのですよ。そこで首席になれば中尉に任官です。そうなれば、私を、私の部隊を専属の技術部隊として組み込むことができる様になるはずです。そうなったら私は晴れて学者でも発明家でもなれますしね。」


「う、うん。アルファイマー家は代々預言者の家系だったりするか?」


「そうではありません。私のスキルの事は?知ってますか?」


「知らん。全くわからん。貴族のスキルを、平民が知れることはないだろう?」


「私のスキルは開発、看破それと、中級魔法を3属性使えます。」


「開発か、レアスキルだな。それとどういう関係があるんだ?」


「マイトランド君のそれには負けますがね。それとは別にもう一つ、予知夢と言うスキルがあるんです。これは発動が2年に1回で、なんとも使い勝手の悪いスキルなんですが、その分効果は凄まじく、1年以内の居の周りに起こる事を、予知夢として見ることができます。」


「当然俺のもその予知夢に登場したって訳だ。」


「そうですね。夢は長く見ることができないので、大半は予想になりますがね。」


「だから模擬戦で戦闘に参加していなかったのか?」


「ははっ。そうではありません。買いかぶりすぎですよ。君と敵になったので勝てないと踏んでいただけです。勝てないと分かれば、何もしたくなくなりますよ。」


「そうか、あまり気分の良いスキルではないな。自分の未来は自分で切り開くものだ。俺はそうしてきたし、これからもその予定だ。」


「ええ、ですから、こうしてお願いしてるのです。私を君の部隊に加えてくれますか?そうすれば私の部隊はあなたに忠誠を誓いましょう。」


「なんかでかい話になったな。まあいい、力を貸してくれるなら、それもやむなしだ。忠誠と言う形でなく、仲間として、これからよろしく頼む。ヨーゼフ。」


「はい。こちらこそ。」


 アルファイマーはそう言うと、片膝をつき、マイトランドに臣下の礼を取った。


「お前なぁ、貴族が平民にこんなことして大丈夫なのか?」


「ええ、私は貴族では無く、新貴族ですからね。これからの主君に、臣下の礼を取るのは当然でしょう。」


「あ、ああ、ちょっと言っている意味が解らない。」


「今は解らなくて大丈夫ですよ。」


 2人の話が終わると、フレデリカが待ってましたと、マイトランドに声をかける。


「マイトランド、私はどうすればいいのだ?ずっと待っていたのだが。」


 フレデリカの声に気付くと、マイトランドは驚いた様に、後ろにのけぞって答える。


「ああ、なんだ、まだいたのか。帰っていいぞ。もう用件は済んだ。作戦終了だ。」


「こ、こんな格好までさせられて、もう帰れだと。ふざけるな!さっきお前は言っていたではないか。理由など何でも良いと。別に私でなくてもアルファイマーはここに来ていたと!」


 フレデリカはマイトランドの言葉に急に怒り出し、それを聞きつけたクレアも参戦してきた。


「このド平民!フレデリカ様をまるで道具の様に扱って!」


 道具と言う言葉に反応してか、フレデリカは急に泣き出す。


「わたじ、まいとらんどが、びじんっでいっでぐれだがら・・・。どうぐだったなんで・・・。」


「お前、忙しい奴だな。怒ったり泣いたり。貴族の尊厳なんてあったもんじゃないな。これで涙を拭け。」


 マイトランドは横目で、ランズベルクに助けを求めるが、ランズベルクはどこ吹く風と口笛を吹いて聞こえないフリをする。仕方がないので、すっとハンカチを懐から取り出し、フレデリカに差し出すと、すっと横からそれをクレアが取って発言する。


「ド平民!こんなボロ布をフレデリカ様に渡すとは!ふざけけているにも程があるぞ!」


 平民にとってハンカチであっても、貴族にとってはボロ布なのであろう。


「さっきからド平民とか意味が解らんが、それしかないんだ、貴族の様に立派なハンカチは持っていない。」


 マイトランドがそう言うと、クレアからアルファイマーがボロ布を奪い、フレデリカに渡すと、耳打ちする。


「フレデリカ嬢、これはマイトランド君のいつも肌身離さずに持っている物ですよ。別に返さなくてもいいのです。それに私の予知夢ではフレデリカ嬢とマイトランド君は結ばれる運命なのです。これで涙をお拭きなさい。」


 アルファイマーが耳打ちを終えると、フレデリカは急に元気になり、そのボロ布で涙を拭いて、鞄に入れた。


「クレアもういいんだ。今日はもう帰ろう。首都に来れてよかったではないか。」


「フレデリカ様がそう仰るのなら。ド平民、次はないぞ。斬って捨てるからな。」


「ああ、わかったよ。すまんな。ところでヨーゼフは何を言ったんだ?」


 マイトランドが尋ねると、アルファイマーは笑顔でマイトランドに耳打ちする。


「かわいそうだとは思ったのですが、少し嘘をつきました。もっとも嘘になるかはわかりませんがね。」


「悪いヤツだな。まあフレデリカの機嫌がなおったならそれでいい。ヨーゼフこれからよろしく頼む。とりあえずは戦闘開始まではそっちにいてくれ。」


「わかりました。お任せを。」


 マイトランドはヨーゼフと握手を交わすと、かすかに見えた勝利も現実のものになったと確信した。

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