第140話 トレーナ会戦 中編 11
その数時間前。
「なぁ、俺達の出番はまだないのか?」
「敵は後退しているからな。まだ前線も敵と接触すらないだろう?だからまだ今のところは無いな。それより試射は終わったのか?」
「ああ、それなら終わったぜ!いつでも砲撃準備完了だぜ。」
「他の砲班に諸元は伝えたのか?」
「ああ、もちろん大丈夫だぜ!」
ランズベルクが胸を張って答えると、マイトランドはキスリング魔導砲兵連隊の前進観測班を編成した。
前進観測班とは、魔導砲兵の様に直接相手を視認しないで行われる間接照準において、その威力を遺憾なく発揮するため、敵に近い位置から、目視により射弾の観測及び修正を行う部隊の事を指す。
「ランズベルク、ポエルは自身を隠蔽し、隠密行動にて前進観測班として、敵第4軍の側面まで移動。射弾の観測及び修正をしてくれ。」
「オッケーだぜ。連絡は08型でいいな?持って行くぜ。」
マイトランドは頷くと、ランズベルク、ポエルに進発の指示を出した。.
「アツネイサ、トーマスは砲陣地の防衛を頼む。敵の接近を知らせてくれ。」
「ワカタ。」
アツネイサ、トーマスに指示を出し終えると、冒険者部隊を引き連れたディアナがマイトランドに尋ねる。
「おい、私達は何をしたらいいんだ?合流してから何もしていないぞ?」
「冒険者で編成された部隊は、基本敵第4軍にしっかり定時報告をしてほしい。後は魔法の使える者に陣地の対空防御をしっかりさせてくれ。詳細はレフに伝えてある。面識があるレフからなら聞きやすいだろう?聞いてくれたらいい。」
「わかった。」
マイトランドは、ディアナが頷き部隊へ戻って行くのを確認すると、続けてレフを呼び出した。
「用かい?」
「トレーナで会ったディアナは知っているだろう?」
「知ってるさ。ヘテロクロミアのディアナさ。」
「ああ、そうだ。さっきも伝えた通り、ディアナと一緒に冒険者中隊を引き連れて、隠密スキルのある者はアツネイサ組に合流。魔法が使える者は対空警戒に付かせてくれ。」
「了解さ!」
レフはマイトランドの指示通り、ディアナに合流すると、その鑑定スキルで、冒険者中隊を3組に分けた。
冒険者中隊195名の内、弓や、銃の様な飛び道具、魔法を使える者50名をディアナに指揮させると、砲陣地へ移動させ、対空警戒に付かせた。
残りの145名の内、隠密スキルの所持者3名はアツネイサ組に合流させると、部隊の全体の警戒を任せた。
最終的に残った142名は第3、第4の陣地を構築中の帝国軍人ヘルムート指揮するハーゼ大隊に合流、騎兵のみで構成された、ハーゼ大隊804名の4個中隊それぞれに均等に冒険者歩兵142名を加えて、ハーゼ大隊は946名の編成となった。
レフは新たな編成を終えると、イーグルアイ+で戦場を監視するマイトランドの元へと急いだ。
「マイトランド。今戻ったさ。」
昨晩から一睡もすることなく、戦場の監視と部隊の編成を考えていたマイトランドはレフに答えた。
「レフ、ありがとう。俺はしばらく休みたい。ランズベルクから配置完了の連絡が来るか、砲撃音がしたら教えてくれ。」
「わかったさ。ゆっくりしてほしいさ。」
レフの返事を確認すると、マイトランドは背後の木にもたれかかり、束の間の休息を取った。
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「マイトランド!敵の砲兵師団の砲撃が始まったぞ!」
アダムスからの念話を受け、イブラヒムが休憩中のマイトランドをゆすり起こすと、マイトランドは飛び跳ねる様にその体を起こした。
「状況は?敵の砲撃?こっちの被害は?」
「マイトランド!落ち着けよ!アダムからの念話だ。俺達への砲撃じゃない!」
イブラヒムは、寝ぼけ眼で混乱したマイトランドの右頬を平手で叩き、夢の中から引きずり出した。
「なんだ。ややこしいな。攻撃されたかと思ったぞ。わかった。今から戦場を確認する。」
マイトランドは右頬をさすりながら状況を把握すると、イーグルアイを発動し、戦場の監視に向かった。
イーグルアイで見た戦況は、ウェスバリア第2軍が砲撃を終えると、前面歩兵が一気に敵に詰め寄るところであった。
パパパパパパパパーン。
敵の銃歩兵が斉射を開始すると、上空からわかる程度に味方歩兵が倒れる。
ウェスバリア第1軍の戦闘以来、見ることがなかった大規模な戦場、今度は見るだけでなく自身がその戦場に関わっている。
若干16歳の少年の心は、一気に舞い上がった。
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