第139話 トレーナ会戦 中編 10

「51騎兵連隊と58騎兵連隊の残存兵はいかほどか?併せて敵の動きも報告せよ。」


「はっ。報告によりますと、2個連隊合計で500名程が陣地に帰還できた模様。敵は現在その半数以上が渡河を完了。陣地前面で密集体系にて戦闘準備中。」


「砲兵でもおれば一気に叩けるのだが・・・。」


 ヴェルティエ中将は、第2軍団を足の速い騎兵だけで構成したことを悔やんだ。


「第2軍主力に増援要請をしろ!」


「了解!」


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 1月9日。帝国軍第18軍団は、敵カルドナ王国軍第8銃歩兵師団の陣地フェニス台を完全に占拠すると、戦線正面に第53師団、第18師団の両師団、後方は第30師団に守らせ、カルドナ王国軍第12軍団司令部のあるヴァンサンへとその歩みを進めた。


 ここで指揮官ガーランド少将は、ヴェルネーナという高地に砦を築く帝国軍第17軍団軍団長、ヘルマン・フォン・クラウゼン中将に連絡を取った。


「我、第18軍団は1月4日ヴェラン砦を進発。1月9日、敵第8銃歩兵師団の陣地フェニスを占領。敵カルドナ王国軍12軍団騎兵1個師団、銃歩兵1個大隊を撃破。こちらの損害は軽微。計画通り、本日夕刻より敵第12軍団に向け侵攻を開始する。」


 クラウゼン中将はこの報告を即座に本営、参謀本部に報告、自身の第17軍団全軍に戦闘準備を告げた。


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 ウェスバリア第2軍主力は、ツェッペリン大将の進軍の命令を受けると、隊列維持し、敵カルドナ王国軍第4軍へとじわりじわりと歩み寄った。


 これにカルドナ王国軍第4軍司令官アンプロージョ少将は数的劣勢を補うべく、ウェスバリ軍正面7個師団に対し、第13銃歩兵師団、第16銃歩兵師団、第25銃歩兵師団、第18銃歩兵師団を前面に横隊陣形で展開、最左翼に第5重装騎兵師団、最右翼に第72騎兵師団を配置、各銃歩兵師団の後方に、1個重装歩兵連隊、1個弓兵連隊を配置、弓騎兵師団と増援の7個空戦中隊を司令部後方に隠すと、じわりじわりと詰め寄るウェスバリア軍をけん制しつつ緩やかに後退の命令を出した。


「両翼の騎兵の後退速度を下げさせろ。」


「閣下、両翼の騎兵師団は敵の両翼に比べ半数ほどしかおりません。接近するのは危険かと思われます。」


「敵の両翼騎兵も戦線中央の歩兵と足並みを揃えておる、敵と接触しない程度に後退させよ。」


 アンプロージョ少将はウェスバリア正面に銃歩兵がいないことから、勝利を確信していた。


「魔導砲兵師団、砲撃開始!」


 アンプロージョ少将がそう命令すると、空を埋め尽くすような、大量の魔力火球がウェスバリア軍に降り注いだ。


「敵が射程内に入り次第、銃歩兵師団1列目から3列目により斉射3連。」


アンプロージョ少将は銃歩兵師団に命令すると、戦線正面を見張った。


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「閣下!敵の砲撃です!」


「安心せんか!ヴァイトリングとドルベルガーの旅団が魔法障壁を展開しているではないか。」


 第72魔導砲兵旅団と第73魔導砲兵旅団は、各旅団長の命令で敵の砲撃に即座に魔法障壁を展開、敵の砲撃を全弾防いでみせた。


「こちらも砲撃を開始せよ!」


 ツェッペリン大将は反撃の砲撃を命令すると、両旅団は直ちに砲撃を開始。敵の魔導砲兵もまたこの砲撃を防いでみせた。


「前線歩兵はどうか?」


「は、敵正面銃歩兵師団が緩やかに後退しているとの事です。」


「距離を詰めさせよ。」


 ツェッペリン大将はある不安を抱えながら命令した。


 その戦線正面第7重装歩兵師団長マティアス=レイモン・ド・ヴェルドナット中将は、自身が重装歩兵師団の中ほどに立つと、大きなハンマーを持ち、それを振り降ろすと、命令を飛ばした。


「1列目!対銃の構え!疾風前進!2列目、3列目も続け!」


 ヴェルドナット中将の命令を受け、第7重装歩兵師団一列目を飾る第52重装歩兵連隊は、身を屈めると、左手に保持するタワーシールドを、敵に向け上方に45度ほどに構え、その歩みを速めた。

 突出する第7重装歩兵師団と共に、両翼の歩兵、重装歩兵も同じ速度で前進すると、敵将アンプロージョ少将の斉射攻撃を受けることとなった。


パパパパパパパパーン。


 カルドナ王国軍第4軍の正面銃歩兵の、乾いた銃声が戦場に響き渡った。

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