第138話 トレーナ会戦 中編 9
「ヴァイトリング准将、我が騎兵師団に1個大隊をお借りしたい。」
「うむ。どの様な理由からですかな?」
「敵は空戦中隊6~8個中隊を増員したと報告を受けました。ですが我が師団には対空要員はおりません。多少の魔法を使える者がいても、中隊規模の空戦部隊になす術無く損害が出る事でしょう。」
「それはそうじゃな。」
「ですから老公の部隊から大隊規模の部隊をお借りできれば、中隊規模の敵には対等に戦えるはずです。」
「大将の許可は?」
「残念ながら、たかが6個中隊とあしらわれてしまいました。」
「そうか。敵は大隊規模と言っていたな。2個大隊500名程出そう。その大隊は貸すのではなく直協部隊として少将の指揮下に入れると良い。であればなんの問題もない。」
「感謝します。この借りは必ずお返しいたしますゆえ。」
「そんなに固くなることもない。トゥルニエ少将の方が立場が上ではないか。」
ヴァイトリング准将、トゥルニエ少将の二人は、その後マイトランドについて少し談笑すると、トゥルニエ少将は2個大隊を引き連れ自身の師団へと引き返した。
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同じ頃、ヴェルティエ中将指揮下の第2軍別働隊第2軍団司令部は大混乱に陥っていた。
ケクラン大佐率いる第51騎兵連隊は、命令に従い、陣地左側の馬防柵から出て、渡河の終った敵先行銃歩兵連隊に突撃を仕掛けた。
ところがこの突撃を予期していた敵指揮官はこれに応戦、苛烈な銃撃を51騎兵連隊に浴びせると、後から渡河し終わった歩兵連隊が次々と渡河を完了、第51騎兵連隊の突撃をその長槍により阻んだ。
更に後続の弓兵連隊も51連隊に河中から弓を斉射、歩兵連隊により突撃の勢いが落ちたところに降り注ぐ大量の矢と、装填の終った銃歩兵からの大量の銃弾により、ケクラン大佐は戦死、その指揮系統は乱れた。
さらに不運は続く。
後発のコンスタン大佐指揮する第58騎兵連隊も、陣地右側の馬防柵から出ると、突撃を敢行。
これには敵も予期できていなかった様子で、戦闘の銃歩兵連隊は多数の損害を出しながらも後続の歩兵連隊と協力し逆撃を開始。弓兵連隊の支援もあり、コンスタン大佐を討ち取ると、第51騎兵連隊と第58騎兵連隊の掃討に移行した。
「閣下!ケクラン大佐、戦死!コンスタン大佐、戦死!51騎兵連隊と58騎兵連隊は恐慌状態に陥っています!次席指揮官からは援軍要請!」
この報告に、ヴェルティエは混乱し、指揮所の机を蹴り上げると、通信兵に怒号を飛ばした。
「援軍?そうか!まだ兵はいる。負けたわけではないな。ヴィルヌーヴの59騎兵連隊に突撃させよ!」
「閣下。59騎兵連隊は突撃どころか、戦闘準備が完了しておりません。」
「なに?では51連隊と58連隊はどうすれば良いのだ?」
「ですからそれを聞いているのです!閣下。采配を。」
ヴェルティエは少しの間黙り込むと、思い出したようにクロワザ少将、ギルマン中将に連絡を取らせる。
「クロワザ少将、ギルマン中将の師団に増援を求めよ!」
「了解!」
通信兵は即座に第19騎兵師団、第36騎兵師団に連絡を付けると、クロワザ少将、ギルマン中将の両名からの返答は無情そのものであった。
「なんと言っていた?」
「我、計画に基づき、突撃準備中。余剰戦力無し。現有戦力のみで対応されたい。」
ヴェルティエは報告を聞くと、その場で崩れ落ち、覇気のない声で第51騎兵連隊、第58騎兵連隊に撤退を命令した。
「撤退できる者は、速やかに陣地まで撤退させよ。」
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ウェスバリア第2軍主力にもその不運は伝染した。
「敵は少ないに越したことは無い。1個中隊を前進させ、あの前時代的な使者を撃ち殺せ。我らの国土を守るのだ!」
敵将アンプロージョ少将の命令で、カルドナ王国軍の使者を待っていた、ツェッペリン大将が貴族精神から放った使者10名に、準備を終えたカルドナ王国軍第4軍から前進した1個中隊がこの使者に銃撃を加えた。
当然この銃撃に、ウェスバリア軍の使者は全員があえなく戦死した。
「閣下!使者10名が敵の銃撃を受け戦死致しました!」
「なに!?騎士道精神も知らぬ野蛮人が!!全軍に直ちに攻撃を命令せよ!」
「了解しました!」
「各師団、各旅団は隊列を維持し前進!一気呵成に敵を撃ち滅ぼせ!」
ツェッペリン大将は怒りのあまり我を失いかけると、全軍に攻撃命令を出した。
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