第137話 トレーナ会戦 中編 8
「前哨からの報告です!敵先行渡河部隊、半数は渡河を終えております!」
「よし、作戦通り2個連隊は準備を完了しておるか?」
「はい。左馬防柵に配置したケクラン大佐の51騎兵連隊は配置を完了しておりますが、右馬防柵のコンスタン大佐の58騎兵連隊は8割ほどの準備状況かと思われ、完全に配置を完了しておりません。」
「よし、突撃させよ。」
「はい?まだ配置を終えておりませんが・・・。」
通信兵はヴェルティエ中将の言葉に自分の耳を疑った。配置が完了していないと言うのにヴェルティエ中将は突撃の命令を出したのである。
「貴様、耳が聞こえんのか?突撃を命令せよ。」
「しかし、閣下、まだ準備を終えておりません。両部隊の足並みが揃いませんと・・・。」
「ああん?貴様!お前は俺より偉いのか?俺は誰だ?」
「は、はい。ヴェルティエ中将閣下であります!」
「では、ケクランとコンスタンの両名に突撃を命令せよ。」
「承知致しました!」
通信兵からのヴェルティエ中将の命令を受けると、最初に準備の整っていたケクラン大佐の第51騎兵連隊が、続いてまだ準備の整っていないコンスタン大佐の第58騎兵連隊が、準備をそこそこに次々と突撃を開始した。
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キスリング支隊は陣地構築、予備陣地構築、砲撃準備を完了すると、マイトランドは、ランズベルク、キスリング大佐、と共に後方に支隊司令部を開設、計画を話し合った。
「大佐、大佐の連隊の砲班測距手はどれも優秀とお聞きしましたが?」
「ああ、私の部隊はかなり優秀だぞ。ウェスバリアで一番といっても過言ではないな。」
「そうですか。今回は試射を陣地後方に、修正射を実施した後、効力射を転移射にて実施したいと思います。どうですか?」
転移射とは、試射結果を利用して、転移限界内の目標に対し修正射を行うことなく効力射を行う射撃のことを示すが、当然のことながら180度反対方向への転移者は全くと言っていいほど存在しない。
キスリングは、マイトランドの提案に腕を組み難しい顔をすると答えた。
「理論上は可能であるが、実施したことは無い。」
「出来るだけ位置を秘匿したく思います。ですので予備陣地も含め、試射、修正射共にランズベルク隊の諸元を利用したいと思います。1つの陣地で実施する効力射は2度まで、その間に第3、第4陣地の構築をゲルマー少尉指揮下のハーゼ大隊に任せたいと思います。」
「わかった。全隊への周知を徹底しよう。」
「それと、射弾の観測は自分と、前進観測班として、試射を終えたランズベルクとポエルが実施します。砲撃中の部隊の警戒についてはアツネイサ、トーマスに実施させます。よろしいですか?」
「ああ、それで構わない。それと先ほど敵に空戦部隊がどうのと言っていたな。」
「はい。規模はおそらく6~7個中隊ほど。1個集団に8~10匹ほどの2名乗りの飛龍を確認しています。これはおそらく1個小隊と思って良いでしょう。その集団が30以上おりましたので、各砲班に上空への偽装と、対空警戒を厳にさせてください。」
「全く。恐ろしい2等兵だな。わかった。先程の砲撃の件と併せて全砲班に徹底させよう。」
「よろしくお願いします。」
マイトランドは、キスリング大佐に頭を下げると、振り返り、ランズベルク隊と共に最初の砲陣地に向かった。
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「閣下!なぜ敵の戦闘準備を待つ必要があるのですか!直ちに全軍をもって敵に攻撃を仕掛けるべきです!」
そう怒りの声をあげるのは第11騎兵師団長イヴォン・トゥルニェ少将である。
対して、これ受けるツェッペリン大将は、己の騎士道精神の為か、飄々としていた。
「敵の戦闘準備中に攻撃するというのはなぁ。こちらは既に使者を放っているしなぁ。もう少しばかり待たんか。」
「閣下!そんな悠長な事を仰って。これは戦争ですぞ?それに敵は空戦中隊6個中隊からを増員しているのです。対策はあるのですか?」
「そんなものは砲兵旅団に任せればいいだろう。たかが6個中隊であろうが。旅団前には手も足も出なくて逃げ出すであろうよ。」
トゥルニエ少将は頭を抱えると、それ以上発言するのをやめ、ツェッペリン大将に頭を下げると、総司令部を後にし、ヴァイトリングの指揮する、第72魔導砲兵旅団司令部へと向かった。
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