第136話 トレーナ会戦 中編 7
「敵は騎兵のみで陣地を死守するつもりだ。前面の銃歩兵連隊、デ・ボーノ少将の師団の銃歩兵連隊を渡河させよ!」
第125混成団指揮官ジョヴァンニ・メッセ少将は、前面の部隊にチェニスキー河の渡河を命じた。
「渡河中渡河後は、敵の襲撃に備え、密集体系を維持、敵接近と共に、発砲を各連隊長の指揮で許可する。」
メッセ少将の命令が部隊に行き渡ると、先行して2連隊が渡河を開始した。
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「閣下、敵の2個連隊ほどが渡河を開始しました。攻勢に出る模様です。」
「何?2個連隊?」
「はい。前哨からの報告によりますと、敵前面の2個銃歩兵連隊と推測されます。」
「渡河後の2個連隊であれば、私の師団だけで攻略できそうではあるな。」
ヴェルティエ中将は、敵部隊渡河の報を受け取ると、クロワザ少将、ギルマン中将との陣地防御の約束を放棄することを決意した。
「クロワザ、ギルマンなどに手柄を取られてなるものか。渡河後の敵を襲う!2個連隊程、左右の馬防柵の内側で待機させよ。」
「はっ。畏まりました。」
これに、これまでのヴェルティエ中将の発言に業を煮やした首席参謀コッセル大佐が反論する。
「閣下。恐れながら、クロワザ少将、ギルマン中将との計画では、我が師団は中央を死守、敵を釘づけている間に両閣下の部隊が側面攻撃をかける手はずではありませんか?」
ヴェルティエ中将は、このコッセル大佐を鋭い目つきで睨むと、他の将兵が振り向く様な大きな声で答えた。
「コッセル。貴様は誰の参謀であるか?」
「はい。閣下の参謀でございます。」
「では、俺の思った通りに行動しろ!」
「は、はぁ。では小官の役目は、どのようなところにありますでしょうか?」
「俺の意見に従っておけばいいだろう!俺のやり方に口を挟むなら貴様は解任だ!今すぐここを立ち去れ!」
ヴェルティエ中将は、次席参謀以外に首席参謀まで解任すると、自分に意見出来る者を完全に失った。
コッセル大佐は、解任後、その足でギルマン中将の元へ向かうと、これまでのヴェルティエ中将との会話を報告した。
「閣下のお力で、なんとか兵の損失を避けたいのですが・・・。」
「あの男は無理だろう。誰にも止められぬよ。逆にヴェルティエの思うままにさせてやれば目も冷めるだろう。」
「それでは今後多くの死者が出ます。」
「そうは言ってもな・・・。騎兵師団のみで別働隊というのが土台無理な話であったのだ。敵が歩兵のみで構成されていれば別だがな。今更言ったところでもうどうにもならん。」
ギルマン中将は肩を落とすと、同じように肩を落とすコッセル大佐の肩を叩いた。
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ガーランド少将指揮する帝国軍第18軍団は、1月7日午前になると、完全に敵カルドナ王国軍第8銃歩兵師団陣地を掌握し、敵の掃討に移行していた。
「武器を持たぬ者は投降させよ。武器を持つ者は容赦なく攻撃せよ!」
現時点でカルドナ王国軍1個騎兵師団17850名第8銃歩兵師団860名の内、投降した者は3500名、死者7200名、対する帝国軍第18軍団は、死者300名負傷者1253名と圧倒的に帝国軍が優勢であった。
ガーランド少将は敵第8銃歩兵師団主力が引き返してくることも想定し、前面に53師団と18師団を配置すると、後方に30師団を展開。敵の反転に備えた。
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一方のウェスバリア第2軍主力部隊は、予定通りウルクスの平地で、敵と対峙することになった。
戦闘配置のまま野営していた、ウェスバリア第2軍は、その戦闘準備を直ちに完了すると、まだ戦闘準備の完了しない敵カルドナ王国軍第4軍との間に使者を放った。
「敵将は、こちらの戦闘準備を待っているのか?馬鹿なことだ。一体いつの時代の戦争をしておるのか・・・。」
敵将アンプロージョ少将は、参謀にそう呟くと、戦闘準備を急がせた。
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