第175話 魔導砲兵 3
カルドナ王国軍の前進に合わせ、帝国軍第18軍団はガーランド少将の号令で更に全軍を後退させると、後方の第18魔導砲兵連隊の後方1個中隊が焼き尽くされたチビニョラ村へと足を踏み入れる。
ガーランド少将は、第18魔導砲兵連隊全体が村へと入るのを確認すると、全体を停止、帝国軍中央、第53猟兵連隊へと前進を命令した。
帝国軍の中央部である第53猟兵連隊の突出を確認したカルドナ王国軍ガリボルディ中将は、十字砲火を浴びせるため、第9銃歩兵師団、第16銃歩兵師団へ帝国軍第53猟兵連隊を半包囲すべく前進を命令、この前進に合わせ2魔導砲兵連隊をもって中央部への魔導砲撃を下命した。
ガーランド少将は、カルドナ王国軍が中央部の半包囲を狙っていると悟ると、第53猟兵連隊へ匍匐し敵の銃撃に耐えよと命令、敵の魔導砲撃は、第53魔導砲兵連隊が魔法障壁により応戦した。
更に右翼第58猟兵連隊第1大隊長であるカール・ハインツ・マイ少佐に、第1大隊と第2大隊をもって味方中央部を半包囲しつつある敵銃歩兵に側面攻撃を下命、連隊長ベルンハルト・フォン・マルツァーン大佐には残り部隊を率い、不動の正面騎兵へとけん制射撃を行うべく各個射撃を命令する。
これにより完全に半包囲できなくなったカルドナ王国軍2個銃歩兵師団は、じわりじわりと第53猟兵連隊へとその距離を詰めることを余儀なくされた。
「完全に敵前衛は後続と距離を十分開けたか?」
「はい。閣下の予測は的中されましたな。ご慧眼恐れ入ります。」
「よし。ラムスドルフに敵魔導砲兵へ突撃命令を出せ!猟兵30連隊には銃歩兵の支援を下命、しかる後、敵の弓兵を叩けと命令せよ。」
ガーランド少将は、渡河を終え森林部に潜んでいた第18銃歩兵連隊へと突撃命令を下すと、第18銃歩兵連隊長ラムスドルフ大佐は、第30猟兵連隊に援護を任せると満を持してカルドナ王国軍2個魔導砲兵連隊へ突撃を開始した。
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「閣下、敵の新手です!規模おそよ5000から7000!」
「ん?どこだ?馬鹿な事を言うな。帝国軍のどこにその様な兵力があるのか。申して見よ。」
「ポー川を渡河した模様。現在魔導砲兵連隊と交戦中!」
「ブッ。直ぐに前衛から銃歩兵を2個連隊戻せ!いや、待て。弓兵師団に対応させよ。」
「はっ。直ちに!」
ガリボルディ中将は、弓兵師団の射撃をもって帝国軍銃歩兵の突撃を防ごうとしたが、これは悪手であった。
既に突撃を敢行した後であり混戦状態となっていた為、味方の魔導砲兵連隊への味方撃ちを危惧し師団長の判断で近接戦闘へ移行する為、後方へと師団を転回、射撃姿勢を取りつつ帝国軍銃歩兵へ接近し近接射撃にて応戦した。
結果的に弓兵としての長所を生かせず、更に混戦へと陥ってしまうことになる。
続けて前衛の局地的勝利を得るため、第4軍混成団司令部はあろうことか決戦兵力である右翼第329騎兵連隊と左翼第107軽騎兵連隊へと急ぎ突撃命令を出した。
ところが、第107騎兵連隊長であるパスクッチ大佐は、司令部からの突撃命令に対し完全に無視を決め込むと、岩の様にその場から動かず、戦場を静観していた。
一方で戦場右翼である第329騎兵連隊は、司令部の意向に従い帝国軍第53猟兵連隊へと突撃を敢行した。
この第329騎兵連隊の突撃に反応したのは、帝国軍左翼ファルク大佐率いる第53竜騎兵部連隊である。
ファルク大佐は敵騎兵が突撃体制に移行したのを確認すると、カウンターチャージを決意。司令部ガーランド少将へと回線を開いた。
「今です!」
再び一言で通信を終えると、サーベルを抜き、敵騎兵側面の突撃経路を示すと号令を飛ばした。
「チャージ!」
大佐は部隊の先頭に立ち一言叫ぶと、一直線に敵騎兵の突撃経路へと走り出した。
ファルク大佐の突撃に連動し、第53竜騎兵連隊は突撃を敢行。
突撃体制にあった、予備役で構成されたカルドナ王国軍第329騎兵連隊は、帝国軍第53竜騎兵連隊前衛の突撃射撃の直撃を部隊の側面に受けると、一気に瓦解、続く突撃を受ける前に逃亡兵が続出し、部隊としての機能を失った。
この動きを見た、カルドナ王国軍左翼第107軽騎兵連隊は、エットーレ・パスクッチ大佐の命令で、第107軽騎兵連隊へと射撃を続ける帝国軍右翼第58猟兵連隊3個大隊へと突撃を敢行。
射撃中の反撃が無いことから、突然の敵軍の逆撃に意表を突かれた第58猟兵連隊右翼前衛第5大隊は壊滅。
続いて第107軽騎兵連隊は、突撃した流れで第5大隊後方第4大隊も壊滅に追い込むと、そのまま直進し戦場を離脱、敵中突破に成功した。
この帝国軍右翼の第58猟兵連隊2個大隊の壊滅に司令官ガーランド少将は、兵数の問題から後方待機を命じていた第53銃歩兵連隊を、第58猟兵連隊の右翼へ前進させると、大勢有利と判断し全軍突撃準備を命令。後方2魔導砲兵連隊に対し、突撃支援射撃を下命した。
魔導砲兵が混戦状態にあり、敵魔導砲兵に対し障壁などの対応策が無くなったカルドナ王国軍は、突撃支援射撃とその後に命令された効力射により全軍が沈黙。ガーランド少将は、全軍突撃を命令する直前に降伏を勧告すると、カルドナ王国軍第4軍混成団総司令官であるガリボルディ中将は、カルドナ王国軍将兵の安全を条件に降伏勧告を受諾し、キバッソ村の激戦は帝国軍第18軍団の勝利にて終決した。
戦闘開始時、カルドナ王国軍第4軍混成団将兵合わせて70351名、帝国軍第18軍団将兵合わせて27235名であったこの戦いは、帝国軍の2個連隊将兵合わせて7308名の増援もあり、カルドナ王国軍死傷者36542名、行方不明者、戦場離脱者合わせて9253名、捕虜24556名、帝国軍死傷者12114名という結果から言えば両軍共に痛手を負う形で戦闘の終結を迎えた。
尚、今戦闘の最大功労者であるファルク大佐は、命令違反容疑で軍法会議にかけられてはおらず、ガーランド少将は皆の前でその栄誉を称えると、准将待遇で参謀会議での発言を許され、後に控えるトレーナ攻略戦においての活躍が期待されたことは言うまでもない。
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