第42話 懲罰 1

「これは酷いな。マイトランドが、不正などするわけがないではないか。私から軍上層部に抗議しよう。」


 どこから来たのか、フリオニールが掲示板を見てそう言うと、マイトランドは笑いながら答える。


「いや、何もしなくていい。事を荒立てる気はないし、貴族に力を借りて貴族に勝つのでは本末転倒だろ?まぁこれ位は最初から織り込み済みだ。知り合いが言ってたよ、貴族連中に勝つのは並大抵の事ではできないってな。皆の努力が結果として反映しないのは残念だが、別に努力が無駄になった訳じゃない。今回学んだ事は、皆の身についているだろう?それなら厳罰ってヤツも甘んじて受け入れるさ。」


「なんだか、泣き寝入りしているみたいじゃないか。マイトランドがそう言うなら私は止めはしない。だが、どうするんだ?これから模擬戦の準備がある。大事な時だぞ。」


「ああ、それなら大丈夫だ。俺だけでよかったよ。」


 そう言ってマイトランドはフリオニールに今後の予定を伝える。


 部隊の行軍速度を上げる訓練をすること、重装歩兵用の大盾を400枚揃える事、平民班400名にそれを装備させ、ファランクスを構成する事、そのファランクスに攻撃では無く、機動力を上げ前進後退などの前後運動が容易に出来る様、訓練を実施させる事。

 400名に余ってしまった残りは長槍か、スキルのある者は弓を用意し装備させ訓練をさせる事、マイトランド班には馬を用意する事、それに伴い各員の拍車も用意する事。騎兵60名には馬に鎖とその先に杭を付けすぐに歩兵戦に移行できる様に訓練する事など、模擬戦前の準備事項を伝えた。


 フリオニールにそれら一通りの準備を頼むと、処罰を受けに自ら班長室へ出頭した。


 班長室に着くと、あのドワイト班長が待っており、班長は他の部屋にまで響くような大声でマイトランドを罵った。


「貴様ぁ、やってくれたな。俺の顔に泥を塗りやがって。この不正野郎が!」


「営倉行きですか?」


 営倉とはいわゆる軍隊の懲罰房のことである。軍規によれば通常1日から14日間営倉に入ることになる。マイトランドは最長を考慮してフルオニールに準備を頼んだのだろう。

 マイトランドがそう言うと、班長はマイトランドの襟を掴み、マイトランドが抵抗しないのを見ると、そのまま地面へ叩きつけた。ドスンと言う音が響き渡ると、


「おお、良く知ってるな。地獄を味わって来るといい。」


 そう大声で叫ぶと、マイトランドの耳元で囁いた。


「あとでコリンズをやる。巡回は朝2回と昼1回、夜2回の計5回。営倉は1階だ。3日間我慢しろ。すぐに出してやる。」


 マイトランドが驚いて、班長に目を向けると、班長はまた怒鳴り声を上げた。


「貴様ぁ!なんだその目は。貴様のやったことがわからんのか!」


 班長は終始怒鳴り声を上げると、そのままマイトランドを数発殴打し、引きずりながらマイトランドを連れて行き、営倉へと放り投げた。


「死ぬまでそこで反省しておけ!この最底辺の蛆虫野郎が!」


 そう酷く罵るとマイトランドの前から去って行った。


 マイトランドは顔を腫らせた顔をさすりながら呟く。


「班長のさっきの言葉はなんだったんだ。もしかして・・・。」


 そこまで言うと考えるのをやめた。

 今は他に考えることが沢山あるからだ。部屋は狭く、臭く、暗い、木でできた小さな格子が一つあり、そこからわずかに光が入ってくる。その光のおかげで、臭い理由はすぐに判明した。トイレが部屋の中にあるからであった。


 だがマイトランドは何故か清々しい気分であった、その理由は、日中は何もしなくて良く、営倉は他人に邪魔されない最高の作戦立案所であったからだ。だが、飯がないというのは困りものだ。脳に栄養が行かなければ正常な思考でなくなるためだ。


「正常な脳のウチに考えられることは考えるとするか。」


 マイトランドは巡回を気にしながら、作戦を練ることにした。


---


 巡回の足音の回数からして、昼の巡回がマイトランドの様子を見に着た後で、


「おい、おい」


 とかすれた様な小さな声がするのに気付く。


「おい、こっちだ。」


 マイトランドは声がする格子に近寄ると、この声の主は言った。


「私だ、コリンズだ。ドワイト班長に言われて来たんだが・・・。」


 顔は確認できないが、コリンズはマイトランドに続ける。


「用意してほしい物はあるか?」


 マイトランドは少し考えて、コリンズに返答する。


「はい、物って訳じゃないんですが、ランズベルクにスキルを使って夜ここに来るように言ってください。夜の巡回は2回と聞いています。巡回の時間もできれば教えてあげて下さい。」


「わかった。食事はどうする?腹は減ってないか?」


「食事はいりません。水がありますから。営倉から出て食事をとっているとわかれば怪しまれます。」


「あくまでも懲罰を受け入れるのか、わかった。あまり無理はするなよ。ではな。」


 そう言うとコリンズの声は足音と共にどこかへ行ってしまった。

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