第43話 懲罰 2
夜の巡回の1度目が終わると、また格子からかすかに声がする。
「マイトランド。マイトランド。」
マイトランドは聞き慣れた声に気付き、格子に近づき答える。
「ランズベルクか?」
「ああ、ああ、よかったぜ。お前が営倉に入った後、訳の分らない理由で、罰則を俺一人だけ受けて、その時、班長に耳元で、お前がここにいるから行けって言われたんだ。あのクソ野郎何度も棒でぶっ叩きやがって。絶対行けなんて言われたから、半信半疑だったけど、スキルを使えって言われたから、お前が教えたって確信したぜ。」
「班長!?班付きのコリンズ伍長じゃなくてか?」
「ああ、コリンズじゃねえ、ドワイト班長の方だぜ。そんなのどっちでもいいじゃねえか。それより飯食ってんのか?」
マイトランドはランズベルクの言葉にふと思い出す。昼の声の主が誰だったのかを。
ランズベルクの特徴ある語尾でこの声がランズベルクの物だとは確認できるが、昼の声はコリンズだとは分からない。もしかしたら・・・。
「そうだな。思うところはあるが、今後の話をしようか。フリオニールは俺の指示通りにやってるか?」
「ああ、貴族ってもっと動きの遅いもんだと思ってたけどな。あいつはやたら早いぜ。金があるんだろうな、もう大盾も人数分揃ってるぜ。明日には全員訓練を始められそうだ。で?飯は食えてるのか?」
「ああ、食っているさ、大丈夫だ。心配するな。そんなことより、俺が何をしたいのかわかるか?」
「ああん?何がしたいか?アレだけの準備で分かるはずねえだろ。」
「そうだよな。明日は平民班を64人の集団に分けて、8×8でファランクスを作り、後退と前進を即座に切り替えられる事ができるように訓練させてくれ。攻撃などは考える必要は無い。貴族班と俺達の班は川付近のぬかるんだ場所で戦う事を想定している。馬から降りて、歩兵戦闘を出来る様に準備させてくれ。よろしく頼む。」
「わかったよ。それだけでいいんだな?で?飯食ってるのか?」
「うるさいな!飯は食ってる!さっき言っただろ!それに営倉入りは3日だ、3日くらい何も食べなくて大丈夫だ。それよりも訓練を必ず実施させてくれ。危ないからもう来ないでいい。2日後にまた!」
「そうか、それだけ元気なら大丈夫だな。よかったぜ。2日後だな。じゃあ行くな!」
「おう、じゃあな!」
そう言ってランズベルクは営倉の格子を後にする。
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ところが2日後になってもマイトランドは営倉を出ることができなかった。
それどころか、次の日も出ることはなかった。
当然心配したランズベルクは夜の巡回の合間を縫ってマイトランドの営倉に会いに来る。
「マイトランド、お前2日って言ってたよな。今あれから3日だぞ。どうなってんだ。」
マイトランドは腹の虫が鳴るのを水で満たすと元気なく答える。
「ああ、もうそんなに経ったのか。訓練は進んでいるか?」
「そんなことはどうでもいい、お前大丈夫なのか?声に元気がないぞ。飯は?食えてるのか?」
「ああ、食ってるさ。大丈夫だ。」
「食ってるって、お前声が元気ないだろ。いつ出れるんだよ。皆待ってるぜ。」
「ああ、それならこっちが聞きたい。いつ出れるんだ。」
「今から聞いて来る。いいな。その時に食える物持ってくるからな。じゃあな!」
そう言うとランズベルクはその場を立ち去った。
どれくらい経っただろうか、お腹が減りすぎて、半ば気絶していると、また別の声がした。
「おい、大丈夫か?私だ、コリンズだ。」
あのコリンズと名乗る擦れた声だった。マイトランド自身、この声の主が誰なのか、気になってはいたものの、脳に十分な栄養が行きわたっていないからか、考えるのを止め力なく聞き返した。
「大丈夫です。ランズベルクは?」
「あいつは今反省室に入っている。お前は明日出れる。予定よりも長いが待っていろ。いいな。」
そう言うと擦れた声の主は、足音と共にいなくなった。
明日出れる、その言葉に安堵したのか、マイトランドはその場に倒れ込むと、自ら意識を断った。
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翌日、その擦れた声の主の言った通り、マイトランドは営倉から解放される。
実に5日間に及ぶ、重営倉であった。
二回目の模擬戦まで残り一週間となった日の出来事であった。
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