第44話 新しい模擬戦の準備 1
「マイトランド、本当にこの陣形で臨むのか?営倉でおかしくなったのか?」
重営倉から戻ったマイトランドに、フリオニールが驚きを隠せず尋ねる。
「ああ、変更はない。安心しろ。この作戦は、営倉入り以前に考えていたものだ。」
「だが、この様な陣形は見たことが無い。なぜ戦列中央部分を突出させるのだ?これでは左右の敵ファランクスからの的ではないか。」
フリオニールが疑問にも思うのも無理はない。マイトランドが示した部隊配置は異様な物であった。歩兵部隊の戦列中央を過度に突出させ、その両翼の部隊もそれに合わせて上がる、逆V字の様な陣形であった。
フリオニールの齎した情報によれば、敵の訓練はファランクスを横一列に配置し、その後ろに弓兵、魔導砲撃騎兵などを配置、両翼は騎兵が固めており、1個騎兵隊は遊兵となり、いつどこへでも突撃ができる様な陣容であったと言う。
「大丈夫だ、こちらの中央部隊の左右も中央部隊の突出に合わせ上がっている。左右のファランクスは攻撃すると部隊の側面をこちらの部隊に晒すことになるだろう。そんな危険を冒して中央部分に拘るか?通常であれば全軍で戦列を保ち前進してくるはずだ。ランズベルク、お前の見立てで、この危険な中央部分を任せられる部隊はいるか?」
「うーん、そうだな。今ヘクターが見ている、ライネアン兄弟が指揮する部隊がいいと思うぜ。なんせ動きがいい。前回の模擬戦で貴族連中にやられたってのも疑わしいくらいだぜ。金で解決したと思わせるくらいにな。」
そう言ってランズベルクは、フリオニールにちらりと目をやる。
「わ、私はその様な事はしない!金で買収などするものか。全ての戦いにおいて、正々堂々と正面決戦を挑んださ。」
少し動揺するも怒りながらフリオニールが反応すると、ランズベルクが笑いながら答える。
「いや、そうじゃねえ。それに関しちゃ全く疑ってないぜ。またグレッテ家の家名どうのこうの言われたら、話が長くなって面倒だしな。ライアネン兄弟の部隊を中央部隊に配置するっていう同意を求めただけだぜ。」
「そうか、よかった。仲間に疑われているでは、グレッテ家の名折れとなろう。中央部隊か・・・。ライネアン兄弟は分らんが、たしかに動きの良いファランクスはあったな。」
フリオニールはそれだけ言うと、ホッと胸をなでおろした。
マイトランドは、ランズベルクと、フリオニールの会話に、冗談が言いあえる仲ににまで信頼関係が構築できていることを確信し、2人に笑顔で言った。
「じゃあ、2人の言う、ライアネン兄弟の部隊を見に行くか。」
---
訓練場に到着すると、マイトランドはランズベルク、フリオニールを伴いライアネン兄弟の部隊が行っている訓練を観察する。
兄弟のどちらかが指示を出しているのだろうか、後退、前進の指示で64名が正規軍ほどではないが、規律正しく迅速に行動する様は、他の部隊行動を遥かに凌駕していた。特に最前列と、最右列は一糸乱れぬ行動で、明らかに平民とは思えない行動であった。
マイトランドはその様を見るなり部隊の前に進み出ると、
「指揮官は誰か?指揮をしている者は前に出てほしい。」
そう言って、指揮官の登場を待った。
「俺だ!」
マイトランドの言葉に訓練を中断し、勢いよく飛び出てきたのは、ヘクターと並ぶ長身で、筋骨隆々、頭はスキンヘッドという、とてもマイトランドと同世代とは思えない男であった。
「俺はマイトランド・ラッセルだ。名前は?」
「ソルド・ライアネンだ。お前がマイトランドか。で、何の用だ?」
「ああ、そうだ。2、3質問したいんだが、先ず、お前の部隊は何故そんなに動きが良い?その動きが最初からできたら、先日の模擬戦でも貴族の部隊の一つや二つ攻略できたろう。何か理由でもあるのか?」
「なんだ。そんなことか。俺の家は木挽き職だった。戦士でもなんでもねえ。弟もそうだ。俺達木挽き職は、そのほとんどが領主様の為に木挽きをしている訳だ。それが貴族に勝てるとか思わないだろ?」
「領主の為に仕事をしていることが、模擬戦で貴族班に勝つこととは、何の関係もないと思うのだが?」
マイトランドがそう聞き返すと、ライアネンは腕を組み答えた。
「いや、そうじゃねえ。そうじゃねぇんだ。覚悟とか根性の話だ。今まで貴族様に従ってたのに、それが勝てるとは思わないだろ?だから仲間がけがをしない程度に、適当に負けただけだ。それが終わってみたらどうだ?平民班のお前達が、実質優勝したじゃねえか。だから俺達も貴族連中を倒せるんじゃないかと思ってな、皆で相談したわけだ。」
「相談しただけで動きが良くなったら、どこ国のどの軍も最強だ。相談以外にも理由があるだろう?」
「そうだな、木挽き職ってのはな、高いところにも上る。2人でだ。連携が大事になってくるわけよ。だから仲間の事も考えられるってもんよ。それにな、ランズベルクってのが、良いアドバイスもくれたしな。」
「そうか、理由になっているとは思えないが、では、全軍の先鋒を任せて良いか?」
「俺達がか?いいのか?」
「ああ、全軍の先鋒だ、状況によってかなりの被害が出るぞ。大丈夫か?」
「名誉なことだ。それぐらい皆覚悟している。大船に乗ったつもりでいろよ。」
「わかった。ライアネン隊、全軍の先鋒を任せる。俺の班から、お前の幕僚に、俺の班からアダムスを付けよう。前進後退の指示、タイミングはアダムスから出るようにする。頼んだぞ、ライアネン隊長。」
マイトランドは部隊を鼓舞するため、大声でライアネンの指揮する部隊をライアネン隊とし、指揮官であるライアネンを隊長と呼んだ。
これに答える様にライアネンも頭を下げると、
「は、わかりました。」
ただそれだけ言うと、隊列にもどり、中断していた訓練を再開した。
この光景にフリオニールが、目頭を熱くさせていたのは誰も知る由もない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます