第93話 戦闘準備 3

「この08型、帝国の物と違って、聞き取り辛いですね。頭切れを起こしますよ。」


 マイトランドは、分隊員の待つ兵舎に帰る途中で、ドワイトと共に、受け取った08型魔導通信機のテストも兼ね、通話を試していた。

 頭切れとは、通信の一言目の頭の文字が聞こえなくなることを指す。


「確かに聞き取り辛いな。頭切れは、発信後少しおいてから喋るとかどうだ?」


「いいですね。やってみましょう。」


 ドワイトの提案通り通話テストを実施すると、声が籠ってはいるものの、それ以外は帝国製のそれとなんら変わりなく使用することができた。


 テストをしながら兵舎に帰還すると、分隊全員が各々の出発の準備を整え、待っていた。ランズベルクは、マイトランドの到着を待って、全員に魔法を付与するとマイトランドに話しかけた。


「俺はもう行くぜ?いいか?」


「ああ、これを持って行ってほしい。08型魔導通信機ってやつだ。帝国の払い下げらしい。頭切れを起こすから、魔力を流したら少し待って喋ってくれ。」


「了解だぜ!」


 マイトランドがランズベルクに魔道具を投げて渡すと、マイトランドは全員向け告げた。


「皆も聞いてほしいんだが、この通信用魔道具は単方向通信専用の魔道具だ、誰かが喋ると、魔力周波数の合う魔道具を持つ、他の全員は聞くだけしかできない。必ず誰かが喋り終わるのを、待ってから喋ってくれ。それと傍受の危険性を考えて、一度の通信は8秒以内に抑えてくれ。」


 単方向通信とは、トランシーバーや軍用の通信機を想像して欲しい。トランシーバーは片方が喋っている時に、もう片方が喋ると、新たに喋った側の受信機は干渉を起こす。したがって、新たに喋る側は、相手の通信を終えてから喋る必要がある。

 これとは別に、双方向通信という通信があり、双方向通信は携帯電話、スマートフォンなどがわかり安い。どちらがどちらにむかっても喋ることも聞くこともできる。


「「了解!」」


「あとはランズベルクにも言った通り、古くて頭切れを起こす。だから魔力を流したら少しおいてから喋ってくれ。そうそう、今魔力と言ったが、魔力のない者には使えない。通信範囲はまだ分からん。多分使用者の魔力強度だと思う。」


「「了解!」」


 分隊全員に魔道具の説明をしたところで、ランズベルクがドワイトに出発の挨拶をする。


「分隊長、メレディアス2等兵。進発します!」


「よし、行って来い!」


 ドワイトがランズベルクの背を押すと、ランズベルクは一言。


「マイトランド、行って来るぜ。4日後にそっちに合流するから、通信機ちゃんと持っておくんだぞ。」


「ああ、そっちは頼んだ。」


 マイトランドが返答すると、ランズベルクは左足を踏み出す。踏み出したかと思うと、もう既にランズベルクの姿はなく、僅かに舞い上げられた草と風だけがランズベルクの進発を告げていた。


「じゃあ、俺達も行こうか。」


 マイトランドの言葉に、ポエル、アダムス、アツネイサは荷物を持つと、ドワイトの前に一列に整列する。


「ラッセル2等兵他3名、敵地及び、戦場の偵察に進発します!」


「よし、4人共、任せたぞ!こっちはあの堅物大佐を攻略しておく。」


 ドワイトはマイトランド達全員の背中を叩くと、送り出した。


 ---


 偵察に向かう道中、マイトランドは、アツネイサに尋ねた。


「アツネイサ、お前の目って罠とか見つけることは出来るのか?」


「ワナ?ツクラレタ、モノ、デキナイ、コト、ナイ。」


「じゃあさ、主戦場の罠って全部見つけたりできるか?」


「ウン、チョット、イミ、ワカラナイ。」


「主戦場のトレーナ平原から、トレーナまでの平野、そこに罠があったら見つける事ができますか?」


 マイトランドが少し苛立って説明し直すと、アツネイサはケタケタと笑いながら答えた。


「シツモン、ワカル。ワナ、ミツケル、カンタン。ツクラレタ、バショ、オンドチガウ。ニンゲン、ソレ、デキナイ?」


「できるかよ!!」


 マイトランドが間髪入れずに大声で叫ぶと、ポエルが割って入る。


「マイトランド。聞いて。ポエルもわかる。人間じゃなかったら、誰でもわかる。アツネイサはそれを言ってる。掘られた土と、盛られた土は温度が違う。わかった?」


「ああ、そういうことか。わかった。なるほどな。じゃあ2人は、罠を見つけたら地図か直接現地に目印でも付けといてくれ。そこに砲弾落とすようにするから。罠を回避しつつ味方を誘導するか。」


「了解!」


「リョウカイ」


「じゃあまた2~3日後くらいにな!」


 ポエルと、アツネイサそれにアダムスに別れを告げると、マイトランド一人、森の中に入って行った。

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