第92話 戦闘準備 2
マイトランドは司令部に付くと、ドワイト共に、司令部の中に直接案内された。
入室すると、中には4人の将校は待っており、挨拶する間もなく、ヴァイトリングが、おお来たかといった表情でマイトランドに近寄ると、肩を二度叩くと頷きながら口を開いた。
「若い参謀よ、紹介しよう、グリーデン・キスリング大佐じゃ。大佐は旅団、第18砲兵連隊の連隊長じゃ。18連隊は、旅団の中でも射撃制度において右に出る連隊はない。そうだったな?大佐?」
グリーデン・キスリング。身の丈は180を超えると思われ、がっしりとした体格、日に焼けた肌が赤く染まり、眉が無く、ギョロリとした目が特徴的な、オールバックの将校であった。
キスリングはマイトランドを睨みつけると、ヴァイトリングに返答するように姿勢を正し、マイトランドへ、その野太い声で一言だけ名を名乗った。
「はい、小官がキスリングであります。」
マイトランドも上官より先に挨拶をされては立つ瀬がない。すぐに姿勢を正すと、キスリング向け敬礼をしながら自己紹介をした。
「申し訳ありません!ドワイト分隊、ラッセル2等兵であります!」
自己紹介が終わっても、キスリングがまるで彫刻の様に微動だにしないため、マイトランドは敬礼の手を降ろすことが出来ない。見かねたヴァイトリングは、2人のやり取りに口をはさむ形で発言した。
「大佐、どうした?若い参謀が手を降ろせないではないか。ふぉふぉふぉ。」
ヴァイトリングの発言に唇以外全く動かさずに返答した。
「もう一名まだ名前を聞いておりませんでしたので。」
もはや職人芸と言っても過言ではないほど、基本教練に忠実な軍人であった。
それを見たドワイトは、しまったとばかりにおっとり刀で姿勢を正すと、敬礼し名乗った。
「失礼いたしました。ドワイト分隊、分隊長ドワイト曹長であります!」
キスリングは、名を名乗るドワイトを鼻で笑うと、自分の乳首を切り落とすかの様に、手を最短距離で素早く上げ、敬礼を返すと、2人の敬礼の手を降ろさせた。
「私の連隊が、貴官たちの指揮下に入る。作戦の立案時、変更時は、連隊指揮所天幕まで来られよ。」
それだけ話すと、キスリングはまた元の石の彫刻に戻った。
「「イエッサー!」」
という2名の返事を待って、ヴァイトリングがキスリングに告げた。
「それでは、大佐、後は任せたぞ。儂はこの二人とまだ話がある。」
「はっ。小官はこれにて失礼いたします。」
キスリングが司令部を出るのを確認すると、ヴァイトリングが口を開くより早く、マイトランドが耳打ちするようにドワイトに尋ねた。
「分隊長、大丈夫ですか?あんな堅物と仲良くなれますか?」
「いや、ちょっと今回ばかりは、お前の力になってやれることが出来ないかもしれん。少尉になるのはちと難しそうだな。大佐といるとこっちが新兵教育を受けているみたいだ。」
「はい?できなくてもやってくださいよ。」
「できることはやってみよう。あの方の名前を出せばイチコロだろうしな。」
2人が会話を終えると、ヴァイトリングが包みを開く。
「魔道具とはコレのことじゃろうか?」
マイトランドは開いた包みの中身を確認すると、そこには帝国で使っていたものとは大分違う、巻貝状の魔道具があった。一つ手に取ると、ヴァイトリングに確認する。
「准将閣下、これは、帝国で使っている物と同じ機能の物ですか?」
「うむ。儂も知らんのじゃ。魔導通信機とこれらしいのぉ。どうか!」
この老人困ったときは”どうか”で副官に確認するのである。
もちろん断れない副官は、マイトランドへ丁寧に魔道具の説明をした。
「これは08型魔導通信機と言う。ウェスバリア歴208年に帝国で不要になった物を全て貰い受けた。現在帝国魔導研究所で製造している物は、帝国製造年、皇歴1705年製造の物であるが故、05式魔導通信具と言う様だ。そこにある11個は旅団の予備である。決して壊したりしないように。08型は05式の3世代遅れの様だが、まだまだウェスバリア軍では現役である。」
副官は、最後の部分だけ少し恥ずかしそうに説明を終えると、魔道具を全て先ほどの包みに戻し、マイトランドに手渡した。
「ありがとうございます。損失が出ないように気を付けます。」
マイトランドは礼を言うと、ヴァイトリングの許可を得て、ドワイトと共に司令部を退室した。
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