第159話 トレーナ会戦 後編 12

 ウェスバリア軍第2軍本隊は、敵の撤退を予見できず、その兆候すらも掴むことが出来なかった為、敵の撤退に遅れる事約半日、全軍行軍準備を整えると、トレーナ平原中央部ウルクスを発し、トレーナ市街西門へと向け行軍を開始した。


 第2軍別働隊である第2軍団は、意気消沈するヴェルティエ中将をよそに、クロワザ少将、ギルマン中将が敵2個連隊を撃破するなどして善戦していたが、こちらもカルドナ王国軍第125混成団の撤退を知ると、騎兵のみで構成された第2軍団はシェプケ中佐の進言で追撃を開始。

 カルドナ王国軍第125混成団は、銃歩兵1個連隊を1個小隊ごとを街道沿いに潜ませ敵の進軍速度を落とさせるよう捨て駒にし、本体の撤退を優先させる戦法に転ずる。

 この行動になんとか生きながらえていた第37騎兵師団長オクタビアン・シャラン少将を輸送していた騎馬兵を直撃、シャラン少将は敢え無く戦死した。

 このシャラン少将の戦死は、トレーナの会戦における両軍共に最初の将官の戦死者である。

 指揮官を失った第37騎兵師団の残存兵は、副司令官が部隊を率いる事も考えられたが、クロワザ、ギルマン両将軍の強い勧めで、損耗率の高いヴェルティエ中将指揮する第29騎兵師団へと編入。子の後、第37騎兵師団の部隊符号はトレーナの会戦で使用されなくなった。

 第29騎兵師団、第19騎兵師団、第36騎兵師団の3師団の構成となった第2軍団は、シャラン少将の戦死、度重なる敵の伏兵の襲撃から追撃を断念すると、警戒態勢を整え、行軍速度を落とすと、その進路をトレーナ市街北門へと取った。


 もう一つの別働隊であるキスリング支隊は、南東方向へと転進。

 平原南部にあるギーゴ山を抜け、その東側に存在するピネロロ村を回避するようにジェンティナ、クミアーナ、ノーネの経路で、第11騎兵師団長トゥルニエ少将と連絡を密にしながら、トレーナ市街南門を目指し前進を開始した。


 翌々日ウェスバリア軍第2軍本隊は、封書を持つロンベルト達3名による伝令の到着により、その進軍を一時止めることとなった。


 イドリアナ連合王国の宣戦布告は先の伝令からの到着で知りえたものの、その封書の中身は、新たにガリア同盟の宣戦布告、第2軍の全将兵に対する2階級昇進、昇進後将兵の異動などが盛り込まれていた。

 昇進はトレーナ侵攻作戦後となっていたものの、第2軍に現存する2割ほどの将兵が第4軍への異動となっており、ツェッペリン大将はその文書に驚愕した。


 ロンベルトは、全ての処理を終えた後で、第2軍首席参謀に上級大将文書を手渡し、密命を帯びていることを伝えると、第72魔導砲兵旅団旅団司令部へと向かいその足を延ばした。


 第73魔導砲兵旅団旅団司令部で、マイトランド達ドワイト分隊の所在が現在キスリング支隊にあると報告を受け、所在を確認したが現状では第11騎兵師団の師団長のみがその存在を把握しているという事で、再び第11騎兵師団司令部へとその足を運んだ。


 ロンベルト達3名はたらい回しにされた事の文句を呟きながら、第11騎兵師団司令部へと到着すると、師団司令部天幕入口でトゥルニエ少将を待つアダムスに再会した。


「ひっさしぶりじゃねぇか!アダムス!」


「ジェイク!?それにジョディー・・・。お前ら・・・。近衛師団に配属されたんじゃ?あともう一人はだれだったっけ?」


「ロンベルトだよ。新兵教育で一緒だっただろ?仲間の顔くらい覚えてやれよ。そんなことより、マイトランドはどこだ?」


「マイトランドは今ここにはいないよ。キスリング支隊にいるんだ。場所は・・・。」


 そこまで言いかけると、アダムスは天幕内からトゥルニエ少将に呼び出された。


「少将に呼ばれたよ。話は後にしていいか?ちょっと待っててくれ。」


 そう告げると、ロンベルト達3名を天幕外に残し、天幕内へと姿を消した。


 しばらくすると、天幕の裾が持ち上がり、隙間からアダムスが手と顔だけのぞかせ3名を手招きして中へと向かえた。


 3名は敬礼すると、ロンベルトがトゥルニエ少将へと密命の内容を告げた。


「マイトランド達に届ける物があると?」


「マイトランド・・・。はい。トランガ上級大将からの指令です。」


「上級大将!?そんな階級が・・・。そうか、そう言う事か。」


 ロンベルトは少将の口から姓階級ではなく、名前が出たことに驚きを隠せずにいると、トゥルニエ少将もまた新たな階級の出現に驚きながらも続けた。


「中身を確認しても?」


「中身は本人に渡るまで開封を許されておりません。こちらが上級大将の命令書です。ご確認ください。」


トゥルニエ少将は命令書を確認すると、アダムスにキスリング支隊の現在地を確認し、キスリング支隊から案内を出すように命令した。

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