第114話 会戦準備 5

 第9騎兵師団司令部の前に立つ兵士に師団長への面会を伝えると、あっさりと拒否され、追い返されたマイトランドはドワイトに尋ねる。


「トゥルニエ少将の趣味って何ですか?」


「俺が知る訳ないだろう。そこで訓練しているゴツイヤツに聞いたどうだ?」


 マイトランドは、他に妙案も思いつかず、ドワイトの言う通りに、師団司令部の脇の訓練場で訓練をしている部隊で、休憩中であった、身の丈は190程であろうか一際大きい上半身裸体の兵士に声をかけた。


「あの、訓練中の所、申し訳ありません。お話よろしいでしょうか?」


マイトランドが声をかけると、その筋骨隆々の兵士は布で汗を拭きながら、周囲の訓練状況を確認し、真っ白な歯を自慢するように笑顔で答えた。


「ああ、なんだ?いいぞ!訓練に参加したいのか?」


「いえ、そう言う訳ではありません。お伺いしたいことがあるのですが、お時間いただけますか?」


「ああ、訓練か。いいだろう。相手をしよう。」


 そう言うと、また真っ白な歯を見せ、マイトランドに訓練用の木剣と木盾を投げて寄こした。この兵士、全く話を聞いていない。これにはドワイトも呆れ返り、マイトランドを気遣った。


「おい、時間の無駄だ。帰って准将あたりに面会の約束を取り付けてもらおう。」


「いえ、訓練を見る限り指揮官でしょう。折角ですから訓練でもしていきましょう。」


 マイトランドは、素直に剣と盾を受け取ると、盾を構え、自身の訓練準備状態を兵士に告げた。


「こちらは準備完了です。」


「そうか、では行くぞ?」


 答えた兵士は、即座に盾を自身の前に押し出し、その後ろに剣を構えると、そのままマイトランドに突進を仕掛けた。

 いきなりの出来事に、寸でのところであったが、マイトランドはその盾の突進を盾で右へ受け流し、左に躱すと、着地した地面を蹴り、逆に突進を仕掛ける。

 兵士は直ぐに振り向くと、マイトランドの突進を盾で受け、そのまま吹き飛ばした。


「ははっ。なかなかやるじゃないか。次は違う形でもっと早く行くぞ?」


 兵士はそう言って再び盾を構え直すと、そのまま再び突進を仕掛けた。

 マイトランドはまた、盾で受けると、今度は盾が少し左にずれ、兵士が回転するように、その右手の剣でマイトランドの右側面を襲った。

 マイトランドはこれを右手で受けると、その剣撃の衝撃に体ごと飛ばされる。その兵士は、飛ばされ体制を崩したマイトランドに追い打ちをかけるため、再び突進を仕掛けた。


「こりゃ、キツイな。」


 そう呟いて突進を受け、右方後方へ飛ぶと、今度は距離を取った。


「なんだ、もう終わりか?だらしのない。」


「いや、終わりじゃない。歩兵の様な戦い方をする奴に距離を取っただけだ。」


 マイトランドは、相手が上位者だろうと今は訓練中だ、と自分に言い聞かせると、いつもの憎まれ口を叩いて返した。


「では続きをしよう。」


 兵士は又突進の姿勢を取ると、マイトランドは盾を傾け、受け流しの姿勢を取る。

 こうして、突進、受け流し、突進、受け流し、斬撃を数十回繰り返すと、さすがに疲れたのか、しびれを切らし、兵士はマイトランドに言った。


「はぁ、はぁ、はぁ。お前、汚いぞ。受け流してばかりいてはお前の訓練にならんだろう。」


「勝てないと分っているものを、どう攻撃したらいいんだ?教えてほしいくらいだ。だったら受け流して、あんたの疲労を待つさ。疲れたところを叩く。それだけじゃないか。」


「確かに才能はあるが、実際の戦場では、こうはいかんぞ。」


「ああ、そうだな。あんた結構上の人間だと思ったが、案外アホなんだな。こんな訓練なんの意味もないぞ?それとも何か?あんたは盾と剣だけの戦場を知っているのか?」


「お前・・・。」


 正論に言葉を失う兵士に、マイトランドはさらなる追い打ちをかける。


「だってそうじゃないか?銃もあれば槍もある。弓だってあるぞ?騎兵のあんたが馬を降りて、歩兵戦をするのか?」


 マイトランドの追い打ちに、流石にこれはマズイとドワイトが間に入る。


「どこのどなたか存じませんが、部下が大変失礼をいたしました。私は第72魔導砲兵旅団所属のドワイト曹長と申します。上官だとは思いますが、差し支えなければ、貴官のお名前を伺えますか?」


 兵士はドワイトに軽く頷くと、体の土を払い名前を名乗った。


「なんだ俺を知らんのか。俺は、トゥルニエ少将旗下の第11騎兵師団第36重装騎兵連隊、連隊長フォン・ラーケン。階級は大佐だ。覚えておけ。」


 ドワイトとマイトランドは、顔を見合わせると言葉を失った。

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