第113話 会戦準備 4
キスリングは、マイトランドを旅団司令部外に連れ出すと、少し怒った様に声を荒げ尋ねた。
「ラッセル2等兵。貴様は何故帝国軍を本作戦に介入させるのだ?」
「はい。介入だとは思っておりません。帝国軍人4名は今回に限り私の部下です。」
「部下と言うのであれば、別に帝国軍人である必要はなかろう?ウェスバリア軍人が信用できぬという事か?」
「お言葉ですが、そうではありません。ウェスバリア軍人に、トレーナの街を知っている者が何人おりますでしょうか?先ほども出会いの経緯は報告しましたが、その帝国軍人4名はトレーナの街に詳しいのです。それも南門東門は特に詳しいでしょう。」
「それが?どういう意味を成すと言うのだ?」
「はい。侵攻の際の道案内人です。トレーナは東西南北にその区画を分けています。したがって帝国軍人1人に付き、キスリング支隊の一個大隊程は任せようと思っています。」
「道案内とは異なことを。我々が、最初にトレーナの街に入ると言っている様な物の言い方ではないか。」
「そうですが何か不都合でもありますか?我々が最初に街を制圧します。」
「何故砲兵である我々が最初に街に?白兵戦の慣れていない砲兵が街に入れば少なからず犠牲が出るぞ?」
「我々が敵攻城兵器を破壊しないと勝てないからです。それ以外に理由はありません。」
キスリングはここまでマイトランドと話すと、荒げた声を落ち着かせ、自問自答を繰り返し、マイトランドの意図をある程度理解すると、最後の質問をした。
「正直に言うが、閣下は負けを確信しておられる。だからと言って閣下と私はお前を信じている訳ではない。私がお前に協力すれば味方の将兵の命を救えるか?」
「はい。可能な限り救いたいと思っています。」
キスリングは数度頷くと、左右に振り、右手でマイトランドの肩を掴むと、睨みつけ答えた。
「わかった閣下の命令だ。今回に限りお前の命令に従おう。」
「ありがとうございます。大佐!ではすぐに連隊にランズベルクを送ります。彼に一番優秀な砲班を一つ預けてください。指示は今からします。」
「何をするかはわからんが、了解だ。ここに呼べ。連れて帰ろう。」
マイトランドはランズベルクをその場に呼ぶと、いくつかの指示を出し、フリッツからの手紙を受け取ると、キスリングとランズベルクを見送り、再度分隊員に指示を出した。
レフとヘルムート以下4名は、十分な休息を取るように。
ポエル、アツネイサの二人は、味方に位置を秘匿し新しいのスキルの確認。
イブラヒムとアダムスは分隊全員分の馬の受領。
残りのドワイト以外の全員は、全軍の準備状況の把握。
そこまで指示を出すと、最後にドワイトに向かって指示を出した。
「分隊長は何もしなかった訳ですからね。これからあるところへ一緒に行ってもらいます。」
「あ、ああ、うん?何もしなかった訳ではない。だが、そうだな。協力しよう。で?どこへ行くんだ?」
「戦線最右翼のトゥルニエ少将の所です。装備を聞いた限りでは常識人ですよ。会いたいんで、何とかしてください。」
「お前なあ、准将クラスでも会うのは大変なんだぞ?それが少将って・・・。俺が会えるわけないだろう。俺の階級は曹長だぞ?」
「階級上げたいんですよね?まあ最悪方法はありますよ。行きましょう。」
ほぼ無理矢理であるが、ドワイトを引きずり第9騎兵師団司令部へとその足を運んだ。
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グルナブルットの街、南西部。第9騎兵師団司令部はそこにある。
司令部に近づくにつれ、騎兵師団だけあり、やはり騎兵の数も多くなる
マイトランドの睨んだ通り、この師団騎兵は装備がやや対銃激戦を想定している物に思われた。
騎兵は通常、その機動力を生かし、側面攻撃や背面攻撃、半包囲攻撃を得意とする。特に騎馬突撃は、並みの歩兵ではその勢いを止めることはかなわず、今までの戦場では勝敗を決める重要な駒と言っていいだろう。
だが、この師団は機動力とは無縁の様に思われた。機動力を重視するのであれば分厚く重い鎧などは装備しない。左翼部隊の騎兵の様に身軽な装備で戦場に臨むだろう。ラウンドシールドも通常の部隊のそれとは異なる。半球体の様に大きく前に突出したラウンドシールドは、当然銃撃戦を予測した、避弾経始であろう。
「やっぱりな。この少将は分かる人だ。」
マイトランドはそう呟くと、嫌がるドワイトを引きずり、第9騎兵師団司令部の前に到着した。
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