第112話 会戦準備 3

 マイトランドはこの後、ドワイトにレフの紹介をすると、レフの分隊入りと帝国軍の臨時加入の許可を得るため旅団司令部へと移動した。

 

 旅団司令部に到着した一行15名は、旅団長への面会の許可を取った。


「そういえば、分隊長、キスリング大佐と親睦は深められたんですか?」


 マイトランドの問いかけに、ドワイトは苦笑し答える。


「ま、まぁな。俺ぐらいの男になれば、あの堅物大佐も楽勝だ。」


「では、俺の命令通り連隊が動くって事ですかね?」


「そ、そうだな。後はお前に任せるぞ。」


「は、はぁ。わかりました。」


 マイトランドは力なく返事をすると、旅団長への面会の時間を待った。


 しばらく待つと、先客であったキスリング大佐が旅団司令部から出てくるのを確認した、マイトランドはキスリングを引き留め、旅団司令部への動向を促した。


「大佐、ラッセル2等兵であります。僭越ながら、我々と旅団司令部へ同行願えますか?」


「私は、今しがた旅団長に訓練報告を終えたところだが?何用があって私を同行させると言うのだ?」


 表情一つ変えずに、答えるキスリングを確認すると、マイトランドはドワイトを一度睨むと、再び具申した。


「はい、敵情偵察を終え、先ほど戻って参りました。帝国軍の士官も同行させているため、私の上官たる大佐も同行願いたく思います。いかがでしょうか?」


 実の所キスリングは兵科が違うため上官ではない。しかしキスリングは堂々と進言するマイトランドの反応に、軽く一度だけ頷くと、沈黙を持って同行を許可した。


 司令部に入った一行は、先ず旅団長であるヴァイトリング准将に敬礼を終えると、ヴァイトリングとキスリングの両名に、これまでの経緯、偵察内容をを説明した。

 偵察内容を報告した上で、救出した帝国軍人4名、それに協力したレフを紹介すると、ヴァイトリングは先ずレフについて口を開いた。


「すると?お前の分隊にそのレフとやらを加入させたいと?どこの馬の骨ともわからんのにか?」


「お言葉ですが、彼の出自は知っています。」


マイトランドは反論すると、チラリとヘルムートに目をやった。


「では、レフという名前以外も説明してもらおうか?」


「では失礼します。」


マイトランドは、そう言ってヴァイトリングに近寄ると、その白い耳毛の生えた耳に耳打ちした。


「彼はレフ・アウグスト、ファルンガルランドのアウグスト朝の正当な後継者と思われます。もう既に国は滅んでいますが、財は確かかと。恩を売っておいて損はありません。ですが帝国軍人もおりますので、あまり反応はしないでいただきたく思います。」


ヴァイトリングは目を丸くすると、マイトランドに聞き返した。


「んじゃと?それは本当か?」


「はい。では私の分隊への加入を許可いただけますか?」


「うむ。儂だけの判断ではなんともできん。」


 まともな反応を返さないヴァイトリングに、マイトリングはしびれを切らすと別の方法で攻めることにした。


「准将閣下、これは参謀本部のトランガ中将も承知しています。レフの加入はグリルファウスト大将の裁可も降りておりますので、どうぞ閣下のお名前で許可いただきますようお願いいたします。」


「何?グリルファウスト大将の!?」


「はい。」


 2等兵から、軍参謀本部長である大将の名前が出たことに、驚きを隠せなかったヴァイトリングは、椅子から立ち上がると、指揮所机に両手をつき、大声でマイトランドに尋ねた。


「本当じゃろうな?」


「はい。間違いありません。」


 ヴァイトリングは、あまりに実直なマイトランドの曇りない瞳を見つめると、その瞳に嘘が無いと悟ったのか、この男の人生で最も価値ある決断をした。


「よかろう。許可する。本日付で2等兵だ。副官に頼むと良い。」


「閣下、ありがとうございます。」


 マイトランドは礼を言うと頭を下げ、ドワイトの横へと戻った。


「次にゲルマー少尉達についてじゃが、これもキスリング連隊の随伴という事で行動を許可しよう。」


 ヘルムート達4名は、ヴァイトリングに帝国式の敬礼で礼を尽くすと、ヴァイトリングはそれに応え敬礼で返し、その手を降ろすと、思いついたように自身の右胸から手紙を出し、ランズベルクを呼び出した。


「ランズベルク・メレディアス、前に出よ。」


「はい?俺?」


 ランズベルクは、何故自分が呼ばれたかを理解せずに前に出ると、ヴァイトリングはその手紙をランズベルクへと渡した。


「帝国軍と親密な関係にあるようじゃな。検閲ついでに手紙の中身は読ませてもらったぞ?」


「え?なに?俺?手紙?」


 ランズベルクは、何の事だかさっぱりと言った様子でその手紙を受け取ると、その中身を確認する。


「なんじゃ、お前は。そこにはお前から手紙があったとあるぞ。」


 ヴァイトリングに促されるまま手紙を読み終えると、ランズベルクは苦笑いで答えた。


「ああ、じーさ・・・。閣下。これは俺宛じゃないぜ。そこにいるマイトランドの事だ。ほら帝国軍18軍団に攻撃を促すように書いてあるだろう?こんなこと俺じゃ考えもしないぜ?頭を使って考えてほしいぜ・・・。です。」


「貴様!なんて失礼な奴だ!」


 当然ながらランズベルクを副官が怒鳴りつける。ヴァイトリングはそれをしばらく観察すると、副官を遮り発言を始めた。


「もう良い。黙っておれ。ところで、マイトランドと言ったか?なぜこのようなことを勝手に?」


 ヴァイトリングの問いかけに、マイトランドは列から一歩前に進むと答えた。


「はい。勝つためなら、何でもして良いと仰ったではありませんか。帝国軍正面部隊を帝国軍第18軍団へ引きつけているだけでも、別働隊であるヴェルティエ中将は後方攪乱、補給路の遮断は実行が楽になりましょう。」


「それではヴェルティエの手柄になってしまうではないか。儂はあいつが手柄を上げるのは良くないと言っておるのじゃ。どうか?」


「手柄にはなりません。むしろ敵の東門部隊や兵器を引きつけてくれるでしょう。手柄は我々が頂きましょう。」


「そうか、ならば良し。」


 ヴァイトリングはそう言って、キスリング以下16名を司令部から追い出そうとすると、最初から最後まで黙っていたキスリングが、口を開いた。


「閣下、今作戦での我が隊の呼称を変更したく思います。」


「ほう?申してみよ?」


「はっ。キスリング連隊からキスリング支隊へと変更をお願いします。」


「それくらいなら好きにせよ。」


キスリングはチラリとマイトランドに目をやると、外に出る様に促した。

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