2章 部隊配属編

第72話 着任と最初の命令 1

 徒歩で約3週間の行程を、残り4日ほどと順調に進んだ時の事だった。


「そろそろ斥候を出さないとマズイかもな。ランズベルク、フォローを頼む。」


 マイトランドがそう呟く。ランズベルクがそれに頷くと、いつでも出発できるようにと準備をした。


 首都近郊から道なりに、平野部を東進と南進を繰り返し、グルナブルットへこのまま南下すれば、第2軍本営が見えて来るであろう地点まで来ると、ドワイト分隊長が分隊員に指示を飛ばす。


「マイトランドは東側の山を、イーグルアイで見張れ。森林の中までは見えんだろう。少しでもおかしな点があれば、報告しろ。ランズベルクはイブラヒムを引き連れ、前方の警戒に出ろ。アダムはここに残れ。ポエルはイーグルアイで見張れぬ近場を見張れ。アツネイサはマイトランドのフォローに回れ。」


 いつもの班員をいびる様な言い方ではなく、分隊員のスキル、特性を良く理解した的確な指示であった。


 ドワイト分隊はこの隊列の中腹付近に位置していたため、ランズベルクは、即座に風の移動魔法をイブラヒムと自分に付与すると、アダムに頷いた後で、ドワイトに合図すると、全速力で前方へ走り出す。


 マイトランドは、アツネイサと共に立ち止まると、イーグルアイを展開し、東側の山を見張った。


 通常であればウェスバリア領であるため、敵の襲撃は考え辛いが、第2軍の司令部が後方から襲われたことを考えると、山々と、森林に囲まれ視界の悪くなるこの辺りから斥候を出すのが正解であろう。


 ドワイトは更に叫ぶ。


「ミシェル、貴様は初級だが回復が使えたな?待機しろ。トーマスはアツネイサと遅れるマイトランドを守れ。セリーヌは待機して非常事態に備えろ。」


 ドワイトは、道中マイトランド達がお互いを知る為にしていた、何気ない会話を聞いていたようだ。


「予測だが、偵察できる分隊は俺達の分隊しかいない。第2軍本隊が迎えの部隊を出してこない以上、俺達が偵察をするしかないだろう。」


 だが、結果この行動は杞憂に終わることとなる。


 安心すべきか、落胆すべきか、4日間どこからも敵発見の報告はなかった。


 敵を発見することが出来ずに、肩を落とすマイトランドにドワイトが言った。


「そう落胆するな。警戒をして杞憂に終わることなど良くあることだ。斥候、偵察は出せば出すほど良い。いかに相手より先に敵を発見できるか、そこが重要だ。まあ、こちらはこれだけの大所帯ではすぐに見つかってしまうがな。」


「はい。ところで分隊長、なんで俺達の事、名前で呼んでるんですか?すごく違和感が・・・。」


 軍隊は基本、ラッセル二等兵、メレディアス二等兵など、姓で呼ぶことが通例だ。

 名前で呼ぶことなど、余程親しい間柄でなければありえないし、ましてや上官が部下を名前で呼ぶなどあるはずもない。


「ああ?そんなの決まってるだろ。姓のない者もいるしな。任務を円滑に進めるためだ。それに急いでいる時にいちいち階級を付けるのも面倒だ。」


 マイトランドはそれなら階級を呼称せずに呼べばいいのでは?と疑問になるも、その言葉を飲み込んだ。


 カルドナ王国軍も物資に火を放ったため、第2軍が補給物資を必要としていることは新兵以外は周知の事実だ。当然第2軍の補給部隊であるこの隊列を襲えば、戦闘もずっと楽になるだろう。


 実際に襲われなかったのは、2度同じ作戦を実行することをリスクと捉えたか、予想していたよりも、補給部隊の兵士の数が多かったことなどが考えられる。


 通常、同じ計画を2度立案するのは愚策中の愚策であるが、自領を通る補給部隊と言えば小部隊の護衛だけをつける為、師団単位で護衛を付けることをしない。補給部隊を狙って、補給線を断つのは常套手段であろう。


---


 第2軍本営に到着し、物資集積所へ物資の運搬が終わると、補給人員は、各々それぞれの部隊の指揮所に移動する。


 マイトランド達偵察分隊も、早速連隊長に着任挨拶と指示を仰ぐとのことで、連隊長のいる天幕前へ集合する。


「ドワイト曹長以下10名本日着任いたしました!」


 ドワイトが大声で連隊長と思しき人物に挨拶を終えると、連隊長は声を出さずに、右手あげ返事をする。その傍らにいた連隊長の幕僚であろう一人の軍人がドワイトに命令を下した。


「着任ご苦労。貴官は、分隊員を伴い、糧食20日分を持って、ここより4日ほどの北側の山脈地帯に潜む可能性のある、敵情を偵察、発見した後は監視せよ。ここへ来る際に通った道だ、わかるな?」


「イエッサー!」


「任務優先度は最大とし、期間は特に定めない。別命あるまで任務を継続せよ。偵察任務については、分隊長である貴官の権限で、自由に敵情を偵察をすることを許可する。」


「イエッサー!」


「尚、偵察と監視任務にあたり、連絡用にバートル号を連れて行け。任務は強行偵察も兼ねる。敵の大規模侵攻、及び越境時はこれを阻止、直ちにバートル号に文を持たせ本隊へ知らせよ。これは絶対だ、最後の一人になろうとも任務を完遂せよ。」


「イエッサー!」


「では直ちに急行せよ。健闘を祈る。解散。」


 命令を告げるとその幕僚は振り返り、連隊長の後に続き天幕へ入って行った。


「分隊長、バートル号ってどこなんすか?連れて行かなきゃならないんすよね?」


 ランズベルクの問いに一同は辺りを見回すもバートル号らしきものは見当たらない。


「連絡用って言ったら軍用犬か鳥だろう。その辺にいるんじゃないか?」


 マイトランドの言葉に天幕裏、連隊宿所などを探すも見当たらない。


 しばらく探していると、先ほどの幕僚が天幕からリードを引きながら出てくる。


「遅くなってすまんな。これがバートル号だ。」


 そう言ってリードをドワイトに渡す。

 ドワイトは、まだ天幕の中に入っているバートル号を力いっぱい引くと、出てきたのは地面を歩く大きく太ったスズメだった。


「え?こいつ使えるんですか。」

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