ウェスバリア戦記~俺、平民だけど、軍師になるわ。~

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序章 プロローグ

第1話 年表

 アスガルド大陸北西部に位置する、議会制民主主義の国ウェスバリア。


 ウェスバリアは、北に海を隔て、大国のイドリアナ連合王国、西を海、南西を文化交流のあるイスペリア共和国、南東を海、東は北から順に、ガリア同盟、超大国ハイデンベルク帝国、大国カルドナ王国との陸続きであり、地政学上稀に見るリスクの高い国であった。


 マイトランドが生れる約200年前、アスガルド西部は戦乱の中にあった。

 当時まだウェスバリアという国はなく、イドリアナ連合王国が3つの国に別れ戦争をしていた。その戦火から逃れるため、多数の難民が現在のウェスバリア渡った。

 またハイデンベルク帝国が、現在の様に超大国と呼ばれるような国になる過程でも、かなりの数の難民がウェスバリアに流入した。

 その難民達、最初の民、小規模部族、自称貴族をまとめ、建国を宣言したのが、ウェスバリア国父にして最初のウェスバリア議会最高議長、ウェスバリア・コンスタンティンであった。

 彼は、「重税は役人を肥やし、国民を痩せさせ、国を弱らせる。無税は役人、国民を怠惰にし、国を腐らせる。」という考えから、税は最低限、国、軍を運営できる程度を徴収していた。

 軽い税は、国民の生活を豊かにし、移民を増やす。50年ほどで、50万であった人口も10倍の500万ほどになった。


 ウェスバリア歴180年、ウェスバリアの人口は1500万人を突破した。


 ウェスバリア歴195年、マイトランド・ラッセル、イスペリア共和国との国境付近の村トロンで小作人の二男として出生。

 この年、ウェスバリアの人口は爆発的に上昇し、1600万人を突破した。


 ウェスバリア歴205年、マイトランド10歳。

 ウェスバリアは、東進を国是とする隣国ハイデンベルグ帝国との利害の一致から不可侵条約を結んだ。

 だがこの時、増えすぎた人口により、国の貧困はピークを迎える。特に食料の物価は酷く、リンゴの値段でマイトランドが幼少期の時の10倍となる。

 この貧困で国内には略奪、詐欺が横行し、被害にあった者の中には餓死者が出るほどであった。

 この年、ウェスバリアでは、貧困からモンスターや動物を多く狩り過ぎ、国内にはモンスターが殆ど見られなくなった。


 同年夏、ウェスバリアは、新法である、略奪・詐欺禁止法を議会の全会一致により可決、制定し、国民の為に国庫を解放する。


 ウェスバリア歴206年、ウェスバリアの議会が、この国難、貧困を脱出するために模索した方法は、増えすぎた人口を利用しての戦争による他国への侵攻だった。

 幸いウェスバリアには増えすぎた人口のおかげか、大量の兵士、腕の良い鍛冶師、魔術の才覚ある者などが、ある程度見つかった。

 だがこの時、ウェスバリアの国庫は底を尽き、戦争どころの状態ではなかった。


 同年秋、ウェスバリアは新貴族制を導入、さらに国債として、大白金貨100枚にもなる利率0%の10年債を発行、これを購入した者には、特別税の免除がなされる新貴族の称号を与えた。

 通貨による混乱を防ぐため、全ての国は同じ通貨を利用しており、上から大白金貨、白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨の順で、リンゴ一個の値段が物価が上がり、銅貨20枚ほどであることから、この国債が相当な金額であることが伺える。


 この年、イドリアナ連合王国でマーク・ドルトン博士により、先込め式滑腔式歩兵銃、通称マスケット銃が考案、開発され、ドルトン銃と名付けられる。これは各国の注目を集めた。


 ウェスバリア歴207年、マイトランド12歳。

 ウェスバリア議会は、不可侵条約を締結していたハイデンベルグ帝国へ借款を要請し、大白金貨70万枚ほどの借り入れに成功した。

 これにより、歴史上2国間に同盟との表記はないが、事実上の同盟関係に発展した。


 同年夏、前年のイドリアナ連合王国での、ドルトン銃の開発を知ったハイデンベルグ帝国は、設計図を奪取、自国の研究機関でこれを解析、実用可能レベルで制作し、量産体制に移行する。


 ウェスバリア歴208年、ハイデンベルグ帝国は、ハイデンベルグ帝国東のファルンガルランドに大挙として侵攻、僅か3週間という期間、それも自国の損害は粗なしという戦果で制圧し、これを自国の一部へと加えた。

 ドルトン銃の初の実戦投入はハイデンベルグ帝国のファルンガルランド侵攻である。

 ファルンガルランドの工業力、農業力を手に入れたハイデンベルグ帝国は更に東進すべく、挙国一致体制により東の超大国アウジエット連邦に宣戦を布告する。

 そのアウジエット連邦との戦争は元々の計画にあったのであろう、カルドナ王国との国境に3個軍団、ガリア同盟との国境に2個軍団を配備すると、準同盟関係にあるウェスバリアとの国境には部隊を配備しなかった。ウェスバリア歴207年の借款はこの為の布石と思われる。


 同年秋、ウェスバリアは、ハイデンベルグからの借款を元に軍改革に乗り出す。

 貴族、新貴族、平民、奴隷関係なく、満16歳以上、30歳以下の男子を徴兵すると、軍団規模を既存の混成10個軍団から、歩兵40個師団、重装歩兵10個師団、弓兵10個師団、騎兵10個師団、そして新たに、魔術師で構成される、魔導砲撃旅団5個旅団を編成すると、各師団、旅団に必要な軍学校を建設し、徴兵された兵士、魔術師の訓練にあてた。


 同年冬、働き盛りだった16歳から30歳の男子を徴兵されてしまったが為に、国内の食糧事情は更に困窮を極め、ウェスバリアの食料は配給制へとなった。


 この年、ハイデンベルグ帝国はレンドリース法を制定。更に研究機関でルフトシッフと呼ばれる魔導飛行船の開発に成功する。


 ウェスバリア歴209年、南西の隣国、イスペリア共和国が内戦に陥る。

 当初は革命派が押され、革命派の敗北によって、すぐに内戦は終結するかと思われた。

 だが、事態は革命派ドナテル将軍が、ハイデンベルグ帝国に支援を要請することにより一変する。

 ハイデンベルグ帝国は義勇軍派兵、武器の供与など実質的戦争介入を開始、これにより、ハイデンベルグ帝国が支持するドナテル将軍を中心とする革命派が国の西側、アビザル・サルーデ率いる共和派が東側に別れ、国を二分する戦争へと発展したのだった。


 同年秋、ハイデンベルグ帝国の、これ以上の大陸での台頭を許すまじと、イドリアナ連合王国、アウジエット連邦は、イスペリア共和派に対し武器の貸与を含め、大規模な義勇軍を派兵する。


 同年冬、ハイデンベルグ帝国からの支持を受けるドナテル将軍からの要請により、ウェスバリアはイスペリア共和国国境に軍を進める。

 ドナテル将軍の要請は、イスペリア共和国東側、共和派の背面をウェスバリア軍が侵攻してほしいとの要請で、対価はウェスバリア軍の侵攻にあたって、ウェスバリアが共和派を退けた土地は期限付きでウェスバリアに供与する。というウェスバリアにとっては願ってもない好条件であった。


 ウェスバリア歴210年、マイトランド15歳。

 ウェスバリア軍は、フランコ・アレクシス将軍が歩兵10軍団、重装歩兵3個軍団、騎兵3個軍団、弓兵2個軍団、魔導砲撃旅団、2個旅団という実にウェスバリア軍の約半数を率い、これをウェスバリア第1軍とし、イスペリア共和国内に南進を開始する。


 同年春、ゼーテ事変。

 ウェスバリア第1軍は、侵攻当初は順調で、偶発的な戦闘や、散発的な衝突はあったものの、大した損害を出すことなく、軍をイスペリア共和国内のロベルナ近郊まで進めていた。

 その後、イスペリア共和国内ゼーテの村まで南進していたウェスバリア軍の司令部は、軍司令フランコ・アレクシス大将、副司令ロタリン・トロンダ中将、首席参謀ラーム・ソルダーノ少将、次席参謀オルメア・トランガ少将の4名が、共和派の暗殺者により暗殺される。


 統率者の暗殺、司令部の怠慢、伸びきった補給線など、ウェスバリア第1軍の物心両面での疲弊が確認されると、共和派は一気に反転攻勢に出る。

 ウェスバリア第1軍司令部は軍団長などを軍司令に臨時昇格させるなどしてこれに対応したが、共和派の攻勢は凄まじく、大した作戦もなく数で押せば勝てると考えていたウェスバリア軍は、イドリアナ連合王国から貸与されたドルトン銃の共和派の実戦投入や、部隊の粗8割の実戦経験がなかったことも相まって、共和派の待ち伏せ、罠などありとあらゆる作戦に、翻弄され、歩兵2個軍団、重装歩兵1個軍団、弓兵1個軍団を失う。

 その後も連戦連敗、さらに歩兵1個軍団、騎兵1個軍団を失い、イスペリア共和国領ツェニーの街までの撤退を余儀なくされた。


 この戦闘でのウェスバリア第1軍の損害は、死傷者57000人、捕虜77000人と甚大なものであり、対する共和派の被害は、死傷者10000人程度と、ウェスバリアの完全なる敗北であった。


 同年秋、先の敗戦の責任により、元軍団長などの将軍12名が処刑ないしは、更迭された。

 ウェスバリア軍は先の敗戦が戦時作戦統帥権、作戦参謀の不足、部隊間の通信の確保、作戦の即応性、ドルトン銃の戦場投入からなるものだと判断し、議会へ各学校の上位となる上級将校、軍師、参軍の参謀養成学校を設立することを提案する。

 議会でこの提案が議決されると、軍は士官学校を建設、通常の兵士と同じ半年の訓練をもって、各部隊への配属とした。

 また失った兵の補填として、徴兵制を部分的動員から中規模動員に格上げし、男子の年齢上限を30歳から37歳に引き上げ、女子も16以上30歳までの希望する者を徴兵した。


 同年冬、ハイデンベルグ帝国のレンドリース法により、旧ファルンガルランドで製造されたドルトン銃4万丁がウェスバリアに貸与される。

 ウェスバリアは貸与されたドルトン銃を元に、既存の歩兵師団2個師団を銃歩兵師団へと変更、練度向上のため、訓練を開始する。


 ウェスバリア歴211年、マイトランド16歳。徴兵制により幼馴染ランズベルクと共に軍へ入隊する。

 ウェスバリア軍は、平民出身で新貴族のオランド・コンスタンウェル将軍をイスペリア侵攻の第1軍司令に任命。同時に参謀本部を設置、各部隊への上級将校の増員、連絡将校の増員、大隊規模までの作戦参謀の増員を図る。更に1個歩兵軍団を1個銃歩兵軍団と入れ替えた。これによりウェスバリア軍は敗戦数が激減し、イスペリア共和派との戦線は膠着した。


この少し前、ウェスバリア歴209年より主人公マイトランド・ラッセルの物語は始まっていく。

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