第153話 トレーナ会戦 後編 6
時系列は再び1月11日正午へと戻る。
イドリアナ連合王国からウェスバリアへの宣戦布告の報をまだ知らない第2軍の戦況は一変していた。
「閣下、トゥルニエ少将の第11騎兵師団が、敵左翼重装騎兵師団を突破いたしましたぞ!」
「トゥルニエか!よくやった!!」
ウェスバリア第2軍最右翼部隊である、イヴォン・トゥルニエ少将旗下の第11騎兵師団の正面敵第5重装騎兵師団の突破の報は、数的劣勢のカルドナ王国軍に苦戦を強いられていた、第2軍司令官ツェッペリン大将の険しい表情に笑みを齎せるが、次の一言で再び険しい表情に戻った。
「閣下、トゥルニエ少将の第11騎兵師団の損害は3から4割程とのこと、更に北東方向へ遁走した敵重装騎兵師団の所在もわからぬ為、欺瞞である可能性が高いとのこと、至急増援を送られたいとのことです。」
「ぐぬぬ。勝っている時はマックスベットだ!ブランジャール中将の18師団を出す!第18歩兵師団へ下命!直ちに第11騎兵師団の後方に付け!」
このツェッペリンと言う男、言葉から分かる通り大のギャンブル好きである。マックスベットとはもちろんのこと、カジノ等でテーブルリミット上限で賭ける手法の事である。
「閣下、それでは度重なる敵の銃撃で疲弊した21歩兵師団との交代が出来かねますがよろしいので?」
「うるさい!デイブレル中将は歴戦の猛者である!中将であれば大丈夫だ!すぐに通信、下命せよ!」
「はっ!」
通信兵が命令を伝えると、ブランジャール中将は即座に部隊を戦列右翼、第11騎兵師団の後方へと進軍させた。
この行動に左翼を突破される危険を予期したカルドナ王国軍第4軍司令官アンプロージョ少将は、遊兵となっていた第22重装歩兵師団の内、2個連隊をウェスバリア軍第11騎兵師団の前面に展開させると、全軍を更なる速度で後退させることに成功した。
1月13日未明には、当初の予定通り、ウルクスの平原北部狭い平原入口にて、工作部隊の築城した陣地に、前面4個銃歩兵師団をその陣地に構築された塹壕へと縦長に展開、その後背に重装歩兵師団、弓兵師団の展開を終えると、アンプロージョ少将は両翼の残存騎兵と疲弊した者から順に交代で休息を取らせた。
「敵は陣地を最初から構築しておったのか。あの時、トゥルニエの話を信じておれば・・・。つまり先の合戦は陣地構築までの時間稼ぎと言う訳か。」
ツェッペリン大将がそう呟くと、通信兵が彼を悩ませる一言を発した。
「閣下、グロージャン少将より、敵陣地まだ築城が完了していないとの事です。」
「ん!?どういうことだ?」
「は、敵東側部隊の陣地がまだ陣地構築が完了しておらず、荒れに荒れているとのことです。何かこう、魔導砲撃を受けた後の様なクレーター状になっているとのこと。」
これはマイトランド達キスリング支隊の魔導砲撃により、生じたクレーターである。マイトランドが、多数の陣地変換中、イーグルアイのスキルによって敵工作部隊を発見すると、陣地構築中であった敵工作部隊に魔導砲撃により損害を与えたものであるが、魔導砲撃の射程限界であったため、東側陣地にある塹壕しか破壊できなかったと言う訳である。
「欺瞞であろう!敵の欺瞞だ!第一敵の後方まで砲撃が届く部隊が無いではないか。違うか?どうであるか首席参謀!」
「両准将に確認してみましょう。」
首席参謀は直ちに第72、73魔導砲兵旅団に連絡を取ると、第72魔導砲兵旅団ヴァイトリング准将から返答があった。
「閣下、ヴァイトリング准将が第11騎兵師団に随伴させている、直協1個大隊が前進した際に敵陣地を破壊せしめたとの事です。射程限界であったため、敵陣地東側のみの破壊に成功。これは先にも報告しているとの事でありますが・・・。」
「そんな報告はあったか?」
「確かにございました。」
「何にしてもよくやった。ではそこを突破するとしよう。72、73魔導砲兵旅団下命、敵陣地塹壕に昼夜問わず火力を集中させよ!」
「はっ!」
「前線歩兵、騎兵は警戒を厳に、直ちに全部隊の指揮官を司令部へ集めよ。」
程なくして、13個師団13名の師団長と2個旅団2名の旅団長は、それぞれの思いを秘め第2軍司令部へと集結した。
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