第154話 トレーナ会戦 後編 7

 全ての師団長、旅団長を招集して行われたウェスバリア第2軍司令部での軍議では大きく異なる二つの主張が対立した。


 その一つ目は、第7重装歩兵師団長ヴェルドナット中将を中心とした、まだ手柄を上げていない重装歩兵師団、歩兵師団の師団長達は、足止めはされたものの、被害兵数が少ない歩兵師団、重装歩兵師団を前面に、このまま全面攻勢かけ、数に物を言わせいくら損害出ようとも、敵を押しつぶすという主張である。


 対して二つ目、第11騎兵師団長トゥルニエ少将を中心とした騎兵師団、砲兵旅団の長達は、決戦兵力である両翼の騎兵師団の著しい損耗から、両翼騎兵師団を右翼にまとめ、今だ無傷の第81銃歩兵師団と、砲兵旅団の火力もって敵正面兵力を釘付けにし、騎兵師団の突破力をもって敵東側陣地を突破、その後に各歩兵師団歩兵師団による掃討戦を行うという主張であった。


 しかし、2つの主張には、虎の子である唯一の銃歩兵師団に損害を出したくないと考える総司令官ツェッペリン大将の思惑とは反対の主張であった。


「トゥルニエ少将よ、銃歩兵師団を使うのだけはなんとかならんか。」


「は?はぁ。ですが閣下、先の戦闘でも正面敵銃歩兵師団の前に、我々の歩兵師団は何もできずに足止めをされておりました。ここは敵の正面火力と同等である、銃歩兵師団を前面に、正面銃歩兵を釘付けに、約1.5個騎兵師団の突破力で敵陣地を崩すほかないと愚考いたします。」


「それでトゥルニエ少将の師団をもって必ず・・・。必ず突破できると申すか?」


「必ず・・・。必ずとは申しかねます。」


 トゥルニエ少将は、この策には自信があった。軍議前より敵東側陣地の突破を想定しており、師団直協1個魔導砲兵大隊とキスリング支隊をもって、魔導砲撃を断続的に敵東側陣地へと行っていた。しかし、戦闘中であれば、何が起こるかわからない。

 ツェッペリン大将の質問に、トゥルニエ少将は下を向き答えると、大笑いでヴェルドナット中将が口を挟んだ。


「フッハッハッハ。弱気だなトゥルニエ。我らが重装歩兵師団であれば、必ず閣下に勝利を献上いたしましょう。」


「ヴェルドナット中将、これは異なことを。先の戦闘では何もできずに戦線中央で孤立に十字砲火を浴びていたではありませんか。歩兵師団であれば全滅しておりましたぞ。」


 ヴェルドナット中将はこのトゥルニエ少将の反撃に、舌打ちをするも、すぐに機嫌を取り戻し、困惑するツェッペリン大将に進言した。


「閣下、先の戦闘では、重装歩兵師団と歩兵師団の装備の差から少なからず間隙が生じ、結果的に我が重装歩兵師団が戦線中央で孤立しました。ですが、今回我が重装歩兵師団と、グロージャン中将の重装歩兵師団を横長に配置し、その後に全ての歩兵師団を展開、敵に接触。銃は距離を詰めてしまえば何もできぬ。敵陣地中にて歩兵師団を展開敵を殲滅すると言うのはいかがか。」


「そ、それでは敵の思うつぼだ!それではとんでもない被害が・・・。」


 トゥルニエ少将がそう言いかけると、ツェッペリン大将の顔には笑みが戻り、右手を上げるとトゥルニエ少将の発言を抑制した。


「ヴェルドナット中将の攻勢案を是とする。各師団は準備にかかれ。ヴェルドナット中将旗下の第7重装歩兵師団の準備完了をもって進軍開始とする。ではかかれ!」


「「「はっ!!」」」


 トゥルニエ少将以外の師団長、旅団長が勢いよく返事をすると、ツェッペリン大将はトゥルニエ少将に向き直り続けた。


「ヴェルドナットもああ言っておる。今回は大丈夫だろう。貴官の師団は今回は休息すると良い。」


「承知致しました。」


 トゥルニエ少将は、軍議での決定事項に対しそれ以上のことは言わずに頭を下げると、第2軍司令部を出た。


 第2軍司令部を出たトゥルニエ少将はアダムスに声をかけると、マイトランド達キスリング支隊へと連絡をした。


「敵東側陣地への砲撃は昼夜問わず続けてくれ。ヴェルドナットは重装歩兵師団と歩兵師団で射程のある銃に突撃し、白兵戦をやるそうだ。好かぬ男だが、今回救いようのないアホだという事が分かった。」


「わかりました。こちらは散発的な重装騎兵の偵察があるので、それを撃破しつつ逐次陣地変換をしながら砲撃を実行します。」


「重装騎兵?動きの遅い重装騎兵を偵察に出すか?」


「多分少将の撃破した敵の重装騎兵師団の残存兵を組織していると思われます。」


「そうか。撃ち漏らしは3000程度いるはずだ。尻拭いさせて悪いがよろしく頼む。」


 そう言葉を交わすと、アダムスとイブラヒムは念話を終了した。

 1月13日の夜が明けようとしていた頃の出来事である。

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