第68話 部隊配置 1

「マジかよ。俺、第2軍に行きたかった!!」


「お、おう、簡単に手柄を立てられそうだしな。俺はジョディーと一緒に、ロンベルトの随伴騎兵になる予定だぞ。まぁ、でも近衛師団配属になるから、戦死はないな。手柄は無いけど、第1軍じゃないだけよかったわ。」


「ぼ、僕は、アーシュライトさんの所で働くよ。シュウと一緒にね。勝ってるって言っても戦場は怖いからね。助かった思いだよ。」


「あたいはジェイクと一緒。ロンベルトの随伴弓騎兵になるつもりさ。だから第1軍には行かなくて済むってもんさね。」


 『ウェスバリア第2軍、圧倒的優勢。破竹の勢いで進軍中。我が軍の損害は極めて軽微なり。』


 とだけ新兵教育隊に第2軍の戦況が発表されると、明日に控えた修了式と部隊配置を、皆が思い思いに話す。

 行き先が決まっている者は良いが、そうでない者は皆、先のイスペリアの内戦干渉で損害が出た第1軍に補充の為、配属が決まるのではないかと、内心ひやひやしていた。


 そんな中、マイトランドは一人だけは違う思考でいた。


「なんだ、第1軍に配属されたら武功を立て放題じゃないか。俺は行きたいけどな。」


「皆マイトランドの様に考えられないぜ。変な上官に当たったら、変な命令貰って、それだけでお陀仏だろ?」


「確かに。指揮官次第ってとこだな。無能に当たればそれで終わりだ。せいぜい良い部隊に配置されるよう、祈るか。」


 消灯を過ぎても、そんな話を全員やめることは無い。


 それからしばらく長い話が続き、皆がそろそろ眠くなってきた頃、ヘクターが切り出した。


「な、なあ皆、僕達、2年に一度で良いから集まらないか?手紙で連絡を取り合って。僕達兄弟みたいなもんじゃないか。手紙は一番死ぬ確率の低いマイトランドが全員に。部隊が変わっても、マイトランドにその変わった部隊名を送るんだ。ど、どうかな?」


「そりゃあいい。ヘクター、お前、初めて部屋長らしい仕事をしたな。同期会か!やろうぜ!みんないいだろう?」


 ジェイクはヘクターの提案を皆に確認した。


「ああ、誰かが死んだら葬儀の連絡も俺がしよう。」


 マイトランドがそう言うと、一同は黙り、重い空気が流れた。


「だ、誰が一番最初に死ぬのかな・・・。」


 クリスが言った一言で、更に重い空気が流れると、ランズベルクが場を賑す。


「まあ、あれだ!同期会楽しみにしてるぜ!マイトランドも余計な事言うなよ。」


「ああ、すまなかった。善意のつもりだったんだが。何にしても、葬儀の棺桶の中には死体は入っていないことが多い、行方不明程度で、死んだなんて誰も思わんさ。」


「かああ。こいつは。おお!そうだ!ライアネンも呼ぼうぜ。」


 皆が全会一致で同期会を約束し、新兵教育最後の夜の眠りについた。


 ---


 翌日、修了式を終え、配属部隊が発表され、正式な軍服と兵科徽章、軍靴が支給された。


 配属部隊について知っているところで言えば、フリオニール、グレンダ、フレデリカ、エルンスト、ヨーゼフは、士官学校へ入校。


 ロンベルトは、首都ウェステート防衛の任につく近衛師団、第105騎兵連隊本部中隊へ。

 ジョディー、ジェイクはロンベルトと同じ第105騎兵連隊へ。


 アーシュライトは、同じく首都防衛の任につく近衛師団、第210重装歩兵連隊本部中隊へ。

 シュウ、ヘクターも同じように第210重装歩兵連隊へ。


 ライアネン兄弟は第1軍の第2軍団、第16歩兵師団へ。


 トッド、ルーク、フィン、アルベルト、クリスは第1軍の第4軍団、第901後方支援連隊へ。


 ロブ、ダン、エリオット、スナイダー、フォルカン、フランは、第3軍の第5軍団、第92騎兵師団へ。


 ポエル、アダムス、イブラヒム、アツネイサはマイトランド、ランズベルクと共に、第2軍、第2軍団、第198騎兵連隊、偵察中隊へ。


「アニキ、俺達第2軍団だ。こりゃ楽勝だよ。」


「考えろ、イブラヒム。トッド達に悪いと思わないのか。」


「まあ確かに。すまんな。みんな。」


 アダムスとイブラヒムがそんな会話をしていると、ポエルがアダムスの頭を叩く。


「大丈夫!みんな強くなった。スキルも増えた。」


「いってえな。ポエル。お前はマイトランドが好きだから、一緒になって嬉しいんだろうけどよ・・・。」


「ポエルは、そんなことない。なんでそんな事言うの。」


 顔を真っ赤にしたポエルは、少しムッとすると、更にアダムをポカリと叩いて続けた。


「マイトランドに聞こえたら、敵より先に殺すから。」


「いや、分かったよ。マイトランドには内緒にしておくから叩くんじゃねえよ。」


 アダムスとイブラヒム、ポエルの話に聞き耳を立てていたフランが話に割って入った。


「ポエルちゃんマイトランド君のこと好きなんですかぁ?あーあ、私もマイトランド君と同じ部隊がよかったな。邪魔者がいなくなったと思ったら、今度はポエルちゃんですかぁ。」


「邪魔者?誰?」


 ポエルが尋ねると、フランはにっこり笑って答える。


「勉強を教えてもらった先生だから、こんなこと言いたくないですけど。フレデリカおばさんですよ。フレデリカおばさん。いっつもマイトランド君にくっついて。気持ち悪かったんですよ。士官学校に行ってくれてやっといなくなると思った・・・。」


「おばさん?フレデリカは同じ歳、おばさんじゃない。でもフランの言いたいことは分かる。気がする。」


「さっすがポエルちゃん。分かってますね。ね、ね、ポエルちゃん。同盟しませんか?」


「良いけど、なんの同盟?」


「同期会までは、告白しちゃダメって同盟です!」


「うーん。フランに有利な気もする。でもいいよ。正々堂々ね。」


「はい!じゃあ結成です!あとはフレデリカおばさんから、マイトランド君を守るのも協力しましょう!」


「それは大いに賛成。あとは部隊で、マイトランドに変な虫がくっつかないように見ておく。」


 画して盟主フランによる2人だけの同盟が結成された。

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