第157話 トレーナ会戦 後編 10

「大佐、火球以外の魔導砲撃は不可能なんですか?」


 キスリング大佐はマイトランドに質問されると、その太い両腕を組みながら首をかしげた。


「何を言っているんだ?」


「いえ、魔導砲撃と言えば魔力火球ですが、なぜですか?雷撃や水球、または妨害系の範囲魔法は得意な者がいないんですか?」


 この時代、魔導砲撃と言えば、魔力火球が一般的である。理由は明確で、魔力火球が弾着地に着弾し炸裂する際、着弾地点の兵士はその全てが火に包まれ、周囲から多くの酸素を奪い、着弾した地域周囲に布陣する兵士達の命をも奪うからである。

 もちろん欠点もある。水球に比べて質量が無い為、風の影響を受けやすく、強風の場合弾着地点が大きくズレこむという欠点である。

 一方で水球や雷撃は着弾地点の兵士以外にはダメージを与えられず、敵集団に対し大した被害を与えることが出来ないと考えられている。

 妨害系範囲魔法で言えば、範囲が狭すぎることが原因であるが、基本的に魔力火球を用いるのが集団戦闘をする軍では一般的である。


「何故急にそのような事を聞いてくる?」


「ちょっと試してみたいことがありまして・・・。各砲班の砲手と詠唱手の得意魔法を調べてもらう事はできますか?」


「何をしようとしているのかはわからんが、わかった。連隊員全員をラッセルとの面談にて報告させるようにしよう。」


「ありがとうございます。」


 1200名の連隊員からなるキスリング支隊。全員が全員魔法を使用できるという事であれば、その全てが炎系魔法が得意なわけではないだろうと、マイトランドは考えての質問であった。


 シャンタル大佐指揮する増援が来るまでの間、各砲班は射撃任務が終了した部隊から順にその砲班全員でマイトランドと面談を実施。

 その面談にて、各砲班の特性や得意魔法を確認し認識すると、マイトランドは自分の提案を明確にし、キスリング大佐に自身の提案の同意を求めた。


「大佐、魔導砲撃をその場の状況によって魔力火球から水球、雷撃や別の魔法に変えたいと思いますが、どうでしょうか?」


「お前は魔導砲兵ではないから知らんだろうが、砲撃に置いて最も強い砲撃は火球だ。どうするかはお前に任せるが、無駄なことはしない方が良いと思うぞ。」


「ご忠告ありがとうございます。先ずは動きの遅い敵の偵察部隊に対し、試してみようかと・・・。」


 マイトランドはそう言うと、影を操るアツネイサと共にランズベルク班の5名が待機する砲陣地へと足を運んだ。


 陣地に到着すると、後をキスリング大佐が付いてきていることを確認し、測距手であるオランド1等兵以外の全員を集め、指示を出した。


「今までの魔導砲撃とちょっと変わったことをするので、指示に従ってください。」


「「了解!!」」


「まず今から魔導砲撃を2度行って頂きます。1度目は水系魔法が得意な、ライーザ伍長が詠唱手で、水球の魔導砲弾を射出、その後即座に、雷系魔法が得意なナディーヌ伍長が詠唱手に変わり、雷撃の魔導砲弾を同地点に向け射出してください。射出場所は測距手であるオランド1等兵とアツネイサが調整します。ではかかってください。」


「「了解!!」」


 試射を終え、砲班の準備が完了すると、アツネイサがスキルで警戒する各地域に、敵偵察兵である重装騎兵50から100が確認されるまで、砲班は射撃には加わらず敵の侵入を待った。


「テキ、キタ。」


 アツネイサが敵の侵入を知らせると、マイトランドは即座に射撃を号令した。


 偵察をしている重装騎兵にとっては突然の砲撃であったが、一発目の水球が勢い良く落ちたが、直撃した者以外は重鎧を着こんだ重装騎兵には殆どダメージが無く、水浸しになることで中には笑い出す者さえいた。


「テキ。ワライゴエ。」


 アツネイサが弾着地域の状況を伝えると、木の陰から見ていたキスリングはそれ見た事かとクスリと笑う。

 マイトランドはゴホンと咳払いをすると、困惑しながら交代する訪販に再度の射撃命令を出した。


 すると今度は雷撃魔法が、バチバチ!バチン!と大きな音を立て敵偵察兵に着弾した。


「アツネイサどうだ?」


「テキ、ゼンインチンモク。」


アツネイサがそう言うと、砲班全員が騒ぎ出した。


「なぜだ?」


砲班長であるシャラン軍曹が、マイトランドに詰め寄り確認すると、マイトランドはほくそ笑みながら答えた。


「感電ですね。最初の水球は雷撃の威力を最大限に高めるために射出しました。もちろん通常砲撃では水球、雷撃どちらか一方でも魔法障壁に遮られると意味が無いので使いどころは難しいですね。ですが、攻城戦では使える手札にはなるでしょう。大佐もそう思われませんか?」


シャラン軍曹に答えながら、出てくるタイミングを失ったキスリング大佐に尋ねると、キスリング大佐は頭を掻きながら、恥ずかしそうに木の陰から出てくると大笑いで答えた。


「そうだな。そう思うよ。」

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