第172話 トレーナ攻略戦 中編 4
キバッソ村は村を二分する様に東西に川が流れており、その川は村西側にて南へ2本の支流を作る分岐する珍しい地形である。
村人は東西に流れる本流をポー川、南へ伸びる2本を南へ真っ直ぐに向かう西側カナーレ川南東へ向かう東側チメーナ川の呼称で親しんでおり、富裕層でないキバッソ村民は、比較的綺麗で流の緩いチメーナ川は飲料水として、綺麗ではあるが流れの急なカナーレ川は洗濯などに使われた。
また、ポー側北岸、南岸にはその豊富な水量から森林地帯となっており、部隊を潜ませるにはもってこいの場所であった。
2月17日未明、ガリボルディ中将は第4軍混成団を、キバッソ南東のゴーネ村とゴーネ村北東のチビニョラ村へと駐留させると、キバッソ村付近に足の速いセルドニア傭兵隊ユサールを放つと、敵軍の警戒に当たらせた。
ユサールからの報告で敵軍がまだキバッソに到着していないことを確認すると、そのユサールをキバッソ村北側へと展開、ゴーネ村、チビニョラ村に火をつけると、約7万で構成される第4軍混成団を一気にキバッソ村まで前進させた。
後に、全軍にキバッソ村東側であるポー川南岸へと布陣を下命、全軍は布陣を終えた。
「帝国軍はまだ来ぬのか。まさか、我々をおびき出しトレーナを攻撃する気では・・・。」
この様な発言からガリボルディ中将にも焦りが見え始めると、警戒に出していたユサールから帝国軍発見の報告が入った。
ガリボルディ中将は、ユサールをポー川南岸へと引き返させると、キバッソ村北岸に火をかけ、村中央の橋を落とすと全軍交戦準備を命令し、森の中に身を伏せさせた。
ガリボルディ中将旗下の第4軍混成団総兵力70351名の陣容は、前列中央に第34歩兵連隊、それを挟むように右翼第9銃歩兵師団と、左翼第16銃歩兵師団を配置すると、後方に予備役で構成された第72銃歩兵師団、その東側に第21弓兵師団を配置、最左翼に第107軽騎兵連隊、最右翼にセルドニア傭兵隊と予備役である第329騎兵連隊を配置した。
一方で帝国軍第18軍団の戦力は、イブレア南部野営地守備隊の1個銃歩兵連隊3650名を除く35035名、カルドナ王国軍は帝国軍の実に二倍の兵力であった。
「空戦隊からの報告は?」
「敵が南東の村2箇所とキバッソに火を放っており、その煙が凄まじく、上空からの敵情偵察は困難であるとの報告です。」
「そうであるか。わかった。竜騎兵連隊ファルク大佐に下命、ポー北岸を偵察せよ。」
帝国軍第18軍団長ガーランド少将は、空戦隊が敵の全容を掴めずにいることから、敵はポー川南岸森林へと配備されていると予測。ファルク大佐指揮下の竜騎兵連隊を先発させると、北岸を偵察させた。
2月17日夕刻、北岸敵影なしとの報告を受けると、帝国軍第18軍団は北岸へと全軍を配備した。
そのまま何も起きずに2月18日朝になると、ポー川北岸東側である大きく広がった帝国軍第18軍団左翼竜騎兵連隊から南岸の森林に長槍を見たという報告が相次ぐ。
これにガーランド少将は、カルドナ王国軍右翼は竜騎兵連隊と銃歩兵連隊、各猟兵連隊に南岸への一斉射を下命、各隊は合図に合わせ一斉射を実施した。
帝国軍の一斉射に、カルドナ王国軍ガリボルディ中将は全軍に反撃を命令、各銃歩兵連隊は直ちに応戦、北岸に射撃を開始した。
「ちと距離がありすぎるな。だが音から察するに、敵は前列だけで我が軍総数と同等であるか。東端はどこだ?」
「はっ、東端は長槍部隊発見の報があった地点より手前と思われます。」
「うむ。足の遅いセルドニア傭兵隊はそこにいるであろう。では3日分の糧食と弾薬、それに渡河装備を後方支援連隊から受領させ、本隊渡河後、後方支援連隊は空戦大隊と共にアイゼナハ師団の到着まで後方へ下がらせよ。」
「はっ。」
「各隊には夕刻まで各個に応戦を指示。射撃の任にない者には十分な休息を取らせよ。」
2月18日晩、弾薬、糧食の補給を終えた帝国軍第18軍団は後方支援連隊7000名と、空戦大隊800名を本体隊から離脱させると、北岸に木製の銃などで十分に偽装を施し、一気に東へ移動すると闇夜に紛れ渡河を開始した。
敵に発見されずに渡河を終えた帝国軍第18軍団は、そのまま敵の後方へ回るべく、チビニョラ村、ゴーネ村へと移動するが、この行動をカルドナ王国軍右翼セルドニア傭兵隊のユサールが発見する。
「敵本隊渡河、総数30000前後にて我が軍後方へと回り込んでおります。」
予期せぬ敵の回り込みに、動揺するガリボルディ中将であったが、そこは腐っても中将である。
即座に全軍を森林部から後方へ下がらせると、反時計回りに転回、敵帝国軍第18軍団の到着前に陣形を整えると、右翼セルドニア傭兵隊に先陣を任せるため、第9銃歩兵師団と位置を入れ替えると、セルドニア傭兵隊後方に、第72銃歩兵師団を配置し、帝国軍よりも早く戦闘準備を完了させた。
帝国軍は、最左翼からファルク大佐指揮下の第53竜騎兵連隊、セルドニア傭兵隊の前面に第53銃歩兵連隊、前列中央に第53猟兵連隊、その右翼第58猟兵連隊、最右翼に第18猟兵連隊で前列を構成する。
後列を第53猟兵連隊の後方に第18対空魔導大隊。第53銃歩兵連隊の後方に第18魔導砲兵連隊、第58猟兵連隊の後方に第53魔導砲兵連隊を配備し、煙で視界の悪い戦場で、眼前に準備の整ったカルドナ王国軍第4軍混成団を捉えた。
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