第173話 魔導砲兵 1

 ~魔導砲兵は戦場の女神である~


 ここぞと言う所で、味方の魔導砲兵が敵に浴びせる効力射は敵の士気を大いに下げ、味方の士気を大いに上げる。

 また敵の突撃に併せて実施される突撃破砕射撃もまた味方の士気を大いに上げ、敵の突撃を士気と共に砕く。

 だが、時に測量の失敗や、視界の悪さ、指示不足など様々な理由から味方に魔力火球を落とすこともある。その場合、味方の士気は大いに下がり、敵は勢いを増す。

 この様に味方の命運を握る様な事から、しばしば”戦場の女神”と揶揄されるのが魔導砲兵である。


 したがって魔導砲兵とは、魔法が使える者が多くはない全世界共通のエリート戦闘部隊であり、魔導砲兵こそが決戦時の勝敗を左右すると言っても過言ではないと言われている。


 故に世界各国の兵士は、新兵教育の過程で魔導砲兵選出の為、新兵を概ね4つに分類する。

 1つ目は魔力があって、スキルを持つ者。ランズベルクが当てはまるであろう。この者は本人の希望もあるが、魔導砲兵の適性があれば、即刻砲兵兵科に配属される。

 2つ目は魔力があり、スキルを持たない者。魔導砲兵の適性があれば、即刻砲兵兵科に配属される。

 3つ目は魔力がなく、スキルを持つ者。マイトランドが該当する。指揮官スキルや、測量などの特殊技能があれば砲兵兵科配属となり得るが、殆ど決まって歩兵兵科か重装歩兵兵科に配属される。騎乗スキルや適性、練度により騎兵兵科に配属になることもあるが、平民の場合その9割が騎乗スキルを持っていない為、貴族が優先して騎兵兵科配属となる。

 4つ目は両方が発現しない者。その者の体力、筋力などを考慮し、歩兵兵科か重装歩兵兵科又は後方支援部隊に配属される。


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 帝国軍第18軍団は、事前に出した偵察からの報告で、後方に回り込み不意を突いたはずのカルドナ王国軍第4軍混成団が、準備を終え部隊を展開していることに、全軍に多少の動揺が広がったが、アイゼナハ少将の第30師団の到着を控えていたため、士気が上がっており動揺は直ぐに収まった。


 深い煙が立ち込める戦場に、前列中央第53猟兵連隊の後方にあって対空魔導大隊と共にある司令部から指揮を振るうガーランド少将が先制攻撃を実施する。

 第53魔導砲兵連隊に敵左翼騎兵をけん制するよう、敵左翼である第107軽騎兵連隊への砲撃を下命、第107軽騎兵連隊の動きを封じると、左翼である第18魔導砲兵連隊をもって敵セルドニア傭兵隊に対し砲撃を命令した。

 この砲撃により一層深い煙が立ち込めると、局所的優位を作るべく、セルドニア傭兵隊が構成する敵戦列を食い破る様に、第53銃歩兵連隊に射撃しつつ前進を命令、中央部隊である第53猟兵連隊も後に続くよう下命。第53竜騎兵連隊も左翼に陣取ったまま援護射撃を実施した。


 帝国軍のこの動きに、カルドナ王国軍第4軍混成団ガリボルディ中将は、弾薬の消費を抑えるため、敵を目視するまで射撃を厳禁、敵の魔導砲撃により多少の被害を出しながらも2個魔導砲兵連隊をもって魔法障壁を展開。第107軽騎兵連隊とセルドニア傭兵隊を障壁により守護し、敵の攻撃に備えた。


 正午前、砲撃により舞い上がった砂埃と、村を焼いた煙で40m先も目視できないような視界の悪い戦場西側に陣取るセルドニア傭兵隊の前に、突如として帝国軍第53銃歩兵連隊が煙の中から出現、敵セルドニア傭兵隊に一斉射をくわえた。


 これにセルドニア傭兵隊は、多少の損害を受けるも、半数ほどの敵軍、相性の良い銃歩兵と二つの理由から、ガリボルディ中将の命令を待たずに第53銃歩兵連隊へと突撃、ガリボルディ中将を激怒させた。


 銃弾の通りにくいセルドニア傭兵隊であったが、第53銃歩兵連隊は精強である。練成よる練成を重ねた結果、カルドナ王国軍銃歩兵の4倍の速度で装填射撃を繰り返すと、セルドニア傭兵隊にじわりじわりと損害を与え、その前進速度を落とさせた。


「着剣!着剣せよ!」


 第53銃歩兵連隊長エーリヒ・フォン・へロルト大佐は、セルドニア傭兵隊が20mの位置まで迫ると、近接戦闘に備え連隊後方を往復、馬上から最後列に着剣指示を出し、第53魔導砲兵連隊へ両翼である銃歩兵部隊への砲撃を依頼した。


 セルドニア傭兵隊は、第53銃歩兵連隊に10mの位置まで迫ると、その長槍を第53銃歩兵連隊に向け、損害が出るのもお構いなしに突撃を敢行。着剣し応戦するもリーチの足りない第53銃歩兵連隊はその最前列が長槍の餌食となった。


「後退せよ!後退せよ!後に続く猟兵連隊の位置まで後退する!」


 へロルト大佐は状況不利と判断、一端距離を開けるため、後方に続いているはずの第53猟兵連隊の位置までの後退を指示した。


 ところが、どれほど後退しようにも第53猟兵連隊の姿は見えず、第53銃歩兵連隊を構成する前列が次から次へとセルドニア傭兵隊の長槍の餌食となる。

 事実、後に続いているはずの第53猟兵連隊は深い煙と砂塵の為、方向を見失い戦線中央へと進軍。敵カルドナ王国軍第16銃歩兵師団へと射撃を繰り返していた。


 これにより帝国軍第18軍団ガーランド少将の構想した局所的優位には至ることができず、第53銃歩兵連隊、第53猟兵連隊共に大きく押し戻される結果となった。


 正午過ぎ、第53銃歩兵連隊はセルドニア傭兵隊の4度の突撃を受け瓦解。連隊長へロルト大佐は戦死、39歳という短い人生に終わりを告げた。

 同時に第53猟兵連隊も、大きく後退させられるとその3割を失った。


「これは好機である!我が神聖なる国土を踏み荒らす野蛮な帝国人どもに下す、神の鉄槌である!第72銃歩兵師団は前進せよ!」


 カルドナ王国軍第4軍混成団ガリボルディ中将は、セルドニア傭兵隊後方に付けていた予備役である第72銃歩兵師団10000を鼓舞、セルドニア傭兵隊に続く様に下命すると、左翼第16銃歩兵師団にも前進を命令した。


「ファルク大佐に、第53竜騎兵連隊もって敵重装歩兵の側面を崩せと下命せよ。」


 ガーランド少将はファルク大佐に通信すると、ファルク大佐からは思いもよらぬ返答があった。


「まだです。」


「貴様何を言っている。命令違反で第53銃歩兵連隊を見捨てるのか?軍法会議ものだぞ!」


「今はまだその時ではありません。」


 ファルク大佐はそう二言伝えると、魔導通信機を川へ投げ捨てた。

 しかしながら、ファルク大佐の行動には意味がある。敵セルドニア傭兵隊は方陣を組んでいたため、側面攻撃をしても竜騎兵連隊が逆に長槍の餌食になる可能性があると考えていたていたからに他ならない。

 ガーランド少将はファルク大佐のこの行動に激怒し、伝令をもって再度突撃命令を下した。


「戦闘終了時に如何様にも処罰は受ける。だがそれまでは小官の裁量に任せていただきたい。そう少将に伝えよ。」


 ファルク大佐は到着した伝令にそう告げると、伝令を送り返した。


 そんなやり取りをしている内に、指揮官を失い崩壊した第53銃歩兵連隊からは逃亡者が続出する。


「逃げるな!応戦せよ!」


 第53師団長であるフランツ・シュトラウベ少将は、司令部を飛び出すと自ら第53銃歩兵連隊旗を持ち、戦場を逃げ惑う兵士達を鼓舞すると、敵セルドニア傭兵隊の戦列維持の為の後退に合わせ、第53銃歩兵連隊はなんとか1個大隊ほどで戦線を立て直した。

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