第171話 トレーナ攻略戦 中編 3
後の世に”空白の7日間”と呼ばれることになる、ハイデンベルグ帝国の突然の進軍停止に、イドリアナ連合王国は手薄になったイドリアナガリア間の海峡を警戒することなくガリア同盟領へと新たに赤服師団4個師団を海峡を渡らせると、2個師団ウェスバリア戦線へと投入するべくダンカークへと進駐させた。
ハイデンベルグ帝国東進の最大の被害国であるアウジエット連邦は、空白の7日間の間に連邦最高指導者である女帝エリザベータ・ゲオルギーが、北海連合の盟主大ファンガルド国王パーヴォ・ホルケリと会見を開き、不可侵条約を締結。ハイデンベルグ帝国第7軍団と第8軍団に押込まれたバブルイスークに対し、大ファンガルド国境に配備されていた半農武装集団であるコサーク兵で構成された第10軍を増援としてバブルイスークに再配備、ハイデンベルグ帝国の再度の東進に備えた。
ハイデンベルグ帝国南東に位置する大国フォンガル・オスリスト・スベロニア三重帝国軍は、2月7日に死去した皇太子ジークフリートの喪に服していたハイデンベルグ帝国に対し、フォンガル皇帝、オスリスト皇帝、スベロニア国王であるカール1世の勅命をもって、ハイデンベルグ帝国との国境付近にハイデンベルグ帝国の3個軍団を優に上回るユサール、重装歩兵中心の3個軍を配備、まだハイデンベルグ帝国の喪が明けぬ2月12日、カルドナ王国、アウジエット連邦と同盟を締結した。
同盟締結後即座に宣戦布告するかと思われた三重帝国であったが、騎士道精神を理由にハイデンベルグ帝国の喪が明けるのを待ち、3日後の2月15日未明ハイデンベルグ帝国、ウェスバリア両国に対し宣戦を布告した。
これに三重帝国と400キロほどの国境を有するハイデンベルグ帝国は、皇帝命令第103号の発布により喪が明けると、当初よりの計画通り、南の山岳地帯全域を第23軍団と第16軍団の一部、国境沿いの街道街リーツェンからウェルスまでを第24軍団、北側の平野部を第39軍団をもって守備すると、カルドナ王国国境に配備されている第16軍団の全てを三重帝国戦線へと再配置する為、第17軍団と第18軍団へ、新たに皇帝近衛である親衛隊の派遣を決定。親衛隊近衛第3師団と近衛第4師団を、第17軍団と第18軍団へとそれぞれ編入を決定した。
第17軍団軍団長ヘルマン・フォン・クラウゼン中将は、皇帝命令第103号発令をもって皇帝命令第101号発令以前に計画した、カルドナ王国北部ミランへの攻勢作戦を第18軍団であるオットー・ヴィクトル・アイゼナハ少将率いる第30師団と共に実施した。
しかしながらカルドナ王国軍は、ハイデンベルグ帝国が生んだ空白の7日間に、ミランへと2個軍団を増援として派遣、補給路の確保されたミランで籠城作戦を展開した。
この2個軍団と共にミランを徹底的に要塞化していた為、当初クラウゼン中将は”檻にネズミが増えた”と喜んでいたが、攻略には時間がかかると判断を変更。
ミランに対し空から昼夜問わず空戦隊、ルフトシッフにて爆撃を行うと、陸戦部隊からは魔導砲撃を3個連隊により実施、カルドナ王国軍第3軍と増援の2個軍団を釘付けにし、第30師団を第18軍団の野営地イブレア南部へと送り出した。
その第18軍団であるが、イブレア南部に1個銃歩兵連隊を守備隊として駐留させると、第30師団の到着を待たずに残りの全軍をもって再度トレーナ攻略に進発した。
第18軍団の攻略目標であるカルドナ王国軍第4軍は、三重帝国と共に国境を接するセルドニア王国よりセルドニア傭兵を多額の賃金で借り受けたセルドニア傭兵隊をトレーナ市街へと招き入れると、そのセルドニア傭兵隊を北地区へと配備、帝国軍の再度の襲来を知ると、セルドニア傭兵隊5000名と義勇軍部隊1510名を東門から外へと進発させ大きく迂回させる形で北門北東部の森へと潜ませた。
このセルドニア傭兵隊は、数にして5000と2個連隊程の規模、前衛に身長の2倍ある以上ある長槍、銃弾と弓矢を弾くことのみに特化した重装鎧を纏った重装歩兵と、後衛に対空魔法と妨害魔法を得意とした魔導砲兵の2兵種のみで構成された部隊である。
偵察、斥候用に三重帝国発祥のユサールと呼ばれる数名の騎兵を保持しているものの、部隊としては機動力が全く無く一見すると弱そうであるが、周辺諸国が他国に貸し出す傭兵部隊の中では最強と名高い部隊である。
帝国軍第18軍団は2日後のトレーナ到着前に、カルドナ王国に潜伏させている諜報機関よりの報告でセルドニア傭兵隊の存在を知ると、セルドニア傭兵隊とトレーナ北地区壁内に存在する第125混成団、第16銃歩兵師団、第107軽騎兵連隊を野戦に引きずり出すべく画策、イブレア南部の野営地からヴォルビャーノを目指さずに、敵カルドナ王国軍に宣伝しながらゆっくりとイブレア南東のキバッソの村を目指した。
この帝国軍第18軍団の宣伝に、キバッソ周辺の領主であるカルドナ王国軍第4軍司令官マリオ・ガリボルディ中将は、野戦にて帝国軍を討つことを決意。第4軍の実質指揮官であるアンプロージョ少将と軍議を開いた。
帝国軍との野戦に消極的であったアンプロージョ少将は、ガリボルディ中将の提案を拒絶したが、頑として譲らない上官ガリボルディ中将に根負けすると、思う様に進んでいるウェスバリア第2軍との戦況を考慮し、1/3以下の戦力の消失をもって撤退することを条件に、人員補充を終えた西地区に配備された第125混成団32551名、北地区第16銃歩兵師団10085名、第107軽騎兵連隊3524名、トレーナ守備隊第34歩兵連隊2071名に加え、西門壁上守備に就いていた第21弓兵師団10812名と西門西側野営地第17魔導砲兵師団から2個連隊5525名を引き抜き、先に進発しているセルドニア傭兵隊6510名と合流、将兵合わせて70351名をもって第4軍混成団と部隊符号を新たに作成すると、総司令官ガリボルディ中将自らがこれを率い、2月16日未明トレーナ北門より進発した。
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