第151話 伝令 1
自室に戻ったトランガ中将は、副官室に待機させていた、ヨーゼフ・アルファイマーを部屋に呼び出した。
コンコンとノックの音が副官の声と共にアルファイマーの入室をグレイグへと告げた。
「アルファイマー曹長、入室されます。」
「通せ。」
グレイグは、副官にただ一言だけ伝え入室を促すと、ドアの開閉と共に、アルファイマーが両手に抱える程の大きな箱を床に置き、敬礼をして入室の礼をとった。
グレイグはその荷物が気になったのか、礼もほどほどに早速本題に入った。
「アルファイマー曹長。いや、まだ候補生か。で、その箱は?」
「マイトランド君に頼まれていたのものです。完成したらトランガ中将に渡してほしいと言われましたので。中を確認されますか?」
「ああ、開けてくれ。」
アルファイマーは、グレイグに促されるまま木の箱を開け、ホルスターと思わしきベルトの形状をした物と、火打石であるフリント、火蓋と当たり金を兼ねたフリズン、火薬を込める薬室の部分が無い中身のぽっかりと空いた短銃、正確に言えば銃の形をした物を取り出した。
「それは?」
「マイトランド君に頼まれていた、帝国式新式銃を更に改良を加え、その場で装填しなくとも次弾の発射が可能な短銃です。弾丸は帝国製と規格は一緒です。まだ試作ですがね。」
「なんじゃと?フリントが無いのに射撃ができるということか?」
「どこか射撃が出来る場所に移動しませんか?」
「ならば裏手の射場に移動しよう。」
グレイグは新しい玩具見た子供の様にはしゃぎ、アルファイマーよりも先に部屋を出ると、アルファイマーへに急ぐように促し、走るように射場へと向かった。
射場に到着すると、何度も確認をしてくるグレイグの問いに、アルファイマーはにやりと笑うと、銃と一緒に持ってきたホルスターの中から、ぽっかり空いた銃にぴたりと合う銃の中心部を10個のうち2つ取り出し、それを短銃に取り付けると射撃準備完了をグレイグへと伝えた。
「早く撃たんか!」
童心にかえったグレイグに再度急かされると、アルファイマーは頷き、撃鉄を起こすと射撃を開始した。
パーンという乾いた音が響くと、弾丸は10メートル先の的に命中。アルファイマーは即座に傍に置いていた別の中心部と入れ替え、再度射撃を実施した。
アルファイマーが、再びパーンという音を響き渡らせ振り返ると、すぐ傍にあったグレイグの顔に驚き、2、3歩後退した。
「近い、近い、中将近いですよ。もっと離れて頂かないと。」
「これは銃の社会に革命を起こすぞ!全てこのタイプにしたら良いではないか。」
嫌悪感丸出しため息交じりで、グレイグから逃げようとするアルファイマーを追う様に詰め寄るグレイグに、アルファイマーは辛辣な一言を放った。
「常識で考えてください。銃も帝国から借りているような国では、この銃の素材を全兵士分集めるのは不可能でしょう。」
「そ、そうだな。そうであった。で?儂の分はあるのか?」
「用意してありますので、戻りましょう。」
グレイグは自分も撃ってみたいという気持ちを、自身の立場上押し殺し、2人はグレイグの自室に戻った。
アルファイマーが用意していたのは、マイトランド分隊、マイトランド、ランズベルク、アツネイサ、ポエル、アダムズ、イブラヒムの分6丁、グレイグが欲しがるであろう1丁と、軍上層部への提出用5丁が用意されていた。
「試作名称は?」
「マイトランド君の専属で作っておりますので、私の名前は出して欲しくありません。トランガ中将が機構を発明したことにして下さい。したがってドルトン新式銃グレイグ機構などでよろしいかと。」
「ぐ、ぐ、グレイグ機構!?それは良い!すまんな。ありがたくそうさせてもらおう。早速本営に持ち込むとしよう。」
グレイグは、自身の名を施されたことに一層喜び礼を言うと、アルファイマーを見送り、副官を通して、ロンベルトの配属先、近衛師団の中核である第105騎兵連隊連隊長と、マイトランドへのグレイグ機構輸送の任の為適任であろうロンベルト呼び出した。
しばらくして、副官が呼び出した2名の到着を告げると、グレイグはウェスバリア議会の決定を、各方面に告げる伝令の任を与えるため、2名を自室へと入室させた。
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