第78話 初任務 5

 回収班に連れられ砦の門をくぐると、マイトランドを待っていたのは、巻貝から声の聞こえた、アイヒマンだった。

 アイヒマンに会うと、マイトランドは直ちに帝国式の敬礼で挨拶を行う。


「皇帝陛下、万歳!」


 それだけ言うと、アイヒマンも同じように腕を上げると、帝国式の敬礼で返し口を開いた。


「貴様、怪我をしているではないか、医務室へ行け。その後はすぐに軍服に着替えて砲兵連隊の射撃指揮所まで来るように。」


「は、はい、僕はまだ帝国軍人ではありませんが、軍服を着てもよろしいのでしょうか?」


「何?貴様、歳はいくつだ?」


「今年で15になります。」


「そうか、ならば軍服を着ても問題あるまい。来年には栄光ある帝国軍人だ。それに帝国臣民にそんなボロを着せては、皇帝陛下に申し訳が立たん。」


「ありがとうございます。」


「礼はいい、私は忙しいのだ、さっさと行動せんか!ガーランド少将に貴様が捉えられていた時の事を報告せねばならんのだ。」


「はい!」


 マイトランドはまた帝国式敬礼をすると、その場にいた帝国軍人に教えてもらい、医務室へ向かい、治療を受けた。


 医務室で治療を終えたマイトランドは、人伝いに補給処へ向かい、軍服を受け取ると、その場で着替え、射撃指揮所へ向かい、アイヒマンを尋ねた。


『第18軍団魔導砲兵連隊射撃指揮所』 


 そう書かれた立札が下がる建物は、ウェスバリア軍の様な、急ごしらえの天幕指揮所ではなく、砦と呼ぶにふさわしい木造の指揮所であった。

 マイトランドは指揮所の扉を2度ノックすると、大きな声で入室許可を取る。


「失礼します。アイヒマン中佐に用件があり、参りました。」


 マイトランドの声に反応したのか、勝手に開く扉の中に入ると、マイトランドは、即座に帝国式敬礼をし、続けた。


「皇帝陛下、万歳!帝国万歳!」


 敬礼を続けるマイトランドに、部屋中央奥に深々と椅子に腰を掛けたアイヒマンが言った。


「今は戦闘中ではない。もっと楽にして構わんぞ。」


 アイヒマンの言葉に、マイトランドは敬礼していた腕を下すと部屋を見回す。

 射撃指揮所は、中央に大きな机、壁に沿うように木製の板が張り巡らされていて、そこには各所の情報やら、敵の所在などがピン止めされていて、その前には一人用の机がいくつもあり、そこには机の数に併せ、何人もの軍人が座っていた。

 中央机には一面に地図が置いてある。地図は遠目に見ても、ウェスバリア軍の地図より詳細な物で、地図に詳しくない者が見ても、それは明らかであった。

 その地図、中央机の向こうに、木製の椅子があり、アイヒマンは深々と腰を掛けていた。


「なんだ?何を見ている?」


「ぼ、僕の村ではこんな設備は見たことがありませんでしたので。申し訳ありません。」


「それはそうだろう。ここは我ら帝国が誇る、砲兵連隊の射撃指揮所だ。当然最新鋭の物ばかり、全ては偉大なる皇帝陛下より拝借した物だ。」


 軍は、皇帝から借りた兵、当然指揮官であっても、物であってもである。

 帝国では、帝国臣民、帝国軍人全てが、爪の先から、髪の毛一本に至るまで皇帝ヴィルヘルムの物であった。

 当然、破損、損害は出してはならないし、軍、軍団の壊滅などもっての他である。

 だからと言って、全ての物が皇帝の物で、国民が悪政で虐げられている言う訳でもない。

 マイトランドはふと考える。帝国軍の支給品は、ウェスバリア軍よりも上等であるし、ルーデルに貰った戦闘糧食も、ウェスバリアのそれとは比べようもないくらいに美味しかった。


「この砦内全ての物が皇帝の物か・・・。」


 マイトランドはそう呟くと、アイヒマンは足を組み、マイトランドに尋ねた。


「最初に4つほど、質問させてもらう。まず貴様の名前だ。次に貴様の捕らわれていた先。次に捕らわれていた場所の陣容、建物の配置、最後になるが、敵の規模だ。」


 聞かれると分っていたのだろう。ランズベルクが敵を引き連れて戻ってくる間、夜間であったが、イーグルアイでの偵察を行ったことが、ここで意味を成す。

 マイトランドは怪しまれない様、ある程度ごまかして戸惑ったように話した。


「はい。僕はマイトランド・ラッセルと言います。捕らわれていたのは、外を走る者達がトレーナ軍第10軍団と言っておりました。建物は捕らわれていた場所に4個ほどの建物があり、敵の兵隊は1000以上はいたと思います。とにかく沢山いました。」


 マイトランドが本名を名乗った理由は、ラッセルと言う姓がウェスバリア、帝国どちらでもありふれた名前だと聞いたことがあること、名に関しては偽名を名乗り、反応できなかった時に困るという理由からである。


「そうか、今一的を得ない答えだ、それではガーランド少将への報告にならん。もっと詳しく思い出してくれ。1000などこの砦は軽く超えているぞ。」


「申し訳ありません。この砦よりは多い様に感じました。なんせ沢山人が走っているのです。軍人でもない僕にはそこまでしか・・・。」


 アイヒマンは戸惑うマイトランドを見ると急に笑い出し、続けた。


「そうか、そうだったな。これ以上帝国臣民を尋問する訳にはいかないな。しばらく待っていろ。」


 アイヒマンはそう言うと、不敵な笑みを浮かべ、マイトランドから目を離さずに、大きな声で魔道具通信手に命令した。


「通信手!直ちに猟兵連隊のフォン・ビスマルク上級曹長を呼び出せ!」

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