第79話 初任務 6

 フォン・ビスマルク上級曹長が指揮所に到着する間、アイヒマンはマイトランドにまたいくつかの質問をした。

 当然敵情について知ることが少ないマイトランドには答えられる訳もなく、質問は終了した。


「役立たずで申し訳ありません。わからないことが多すぎまして。」


「いいんだ、いいんだ。これで貴様のスパイ容疑も晴れた。」


「え!?僕、疑われていたんですか?」


 これはマイトランドも予想していたことではあるが、スパイについての尋問だったようだ。アイヒマンは笑顔に戻るとマイトランドに言った。


「まあ、そういう事なになるな。実際問題、スパイは多い。帝国は現在敵が多くてな。周辺国が多方面からスパイを侵入させてくるのだ。最後に聞くが貴様はスパイではないな?」


「そうだったんですか。でも、僕は皇帝陛下に誓ってスパイではありません!」


「うむ!わかった。大丈夫だ。信じよう。ここまでで、ある程度疑いは晴れた。後はビスマルクに任せるとしようか。」


 何の判断基準かは理解しかねるが、結果としてマイトランドの知らないところで疑いは晴れたようでホッ胸をなでおろすと、ドンドンと2回射撃指揮所の入口を叩く音がしその音の主は名乗りを上げた。


「第58猟兵連隊、フリッツ・ヨアヒム・フォン・ビスマルク上級曹長です。」


 声に反応したアイヒマンの指示で、指揮所入口の兵士が扉を開けた。

 開いた扉の前には、歳はマイトランドと大して変わらないであろう、金髪碧眼で鋭い眼光の美男子が、帝国軍上級曹長の階級章を付け立っていた。


「ビスマルク上級曹長、どうした。こちらに来たまえ。」


 アイヒマンがそう言うと、ビスマルクはアイヒマンの隣に立ちマイトランドに正対する。


「紹介しよう。彼はあの有名なビスマルク家の嫡子でね。君とも年齢が近い。彼は今年16になったばかりだからな。彼に今後の君の世話を、任せることにしよう。思い出すことがあったら何でも彼に言うと良い。ではビスマルク上級曹長頼んだぞ。」


 そう言うとアイヒマンは立ち上がり、ビスマルクの肩を軽く叩くと、マイトランドに聞こえないように耳打ちした。


 「例の魔道具によれば、嘘はついていないようだが、反応はあった。私はスパイではないとは判断したが、貴官の目で見て再度判断をしてくれ。」

 

 アイヒマンは耳打ちが終わると、またビスマルクの肩を叩き、射撃指揮所を後にした。

 ビスマルクは一度頷くと、残されたマイトランドの近くに寄り、自己紹介も兼ねて笑顔で挨拶をした。


「フリッツ・ヨアヒム・フォン・ビスマルクだ。階級は帝国軍上級曹長。よろしく頼む。皆はビスマルクと家名で呼ぶが、実のところ私は名前が気に入っていてね。君はまだ帝国軍人ではない様だから、気軽にフリッツと呼んでほしい。」


 ビスマルクはそう言って右手を出すと、マイトランドに握手を求めた。


「マイトランド・ラッセルです。フリッツさんですね。僕の事はマイトランドと呼んで下さい。よろしくお願いします。」


 マイトランドも自己紹介を終えると、ビスマルクの手を取り、固い握手を交わした。

 このビスマルクとの出会いは、後にマイトランドの運命を大きく変えることになる。


「そうだ、食事でもしながら話そうか。私はカルドナ王国兵の掃討に参加していたんだ。そんな訳で、もうこんな時間だというのに、とにかく腹が減っていてね。」


「はい。是非、お供させてください。」


 マイトランドは先ほど、前進観測所にて、ルーデルから施された戦闘糧食を食べたばかりであったが、ビスマルクとの仲を深めるため、ビスマルクの提案を受け入れた。


 2人は射撃指揮所から出ると、ビスマルクに連れられ、雑談をしながら食堂へ向かう。


 だが、食堂へ向かう途中、マイトランドにとっては予期せぬ出来事が起こった。

 突然、砦内の方々にある魔力拡声器から声が響いたのであった。


 ビスマルクはそれに反応し、目を閉じると、帝国式敬礼を声のする方へ向けた。

 マイトランドが少し遅れて敬礼を向けると、魔力拡声器から流れたのは、帝国軍の東部戦線と先の第18軍団の戦況を知らせる報であった。


「大本営発表。東部戦線、戦況報告。皇帝陛下直属の第1混成団の第4軍への戦線加入により、アウジエット1個軍を撃破、更に進軍中。続いてカルドナ戦線。第18軍団、敵連隊規模の部隊を撃破殲滅。第18軍団に死傷者はなし。終わり。」


 この長い戦況報告を読み終わると、魔力拡声器は音を出すのを止め、ビスマルクもそれに伴い敬礼の手を下した。


 マイトランドもビスマルクに習い手を降ろす。

 帝国からしてみたら、時代遅れのウェスバリアにこの様な設備はない。

 設備に感銘を受けたマイトランドが、我に返り再び食堂に向け歩き出そうとすると、ビスマルクは急にマイトランドの両肩を掴み、鋭い眼光で睨むとこう言った。


「マイトランド、君、帝国臣民ではないね。」

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