第80話 初任務 7

「何を言い出すんですか。僕は皇帝陛下にお仕えする、誇り高き帝国臣民です。」


「私には、本当の事を言ってくれていいんだよ?そうだな、察するに君はウェスバリアの国民かな?」


 そうビスマルクに言われ、一瞬凍りつくマイトランドであったが、強く言い返した。


「どうして?どうしてそんな事を言うんですか?僕は帝国臣民です。」


「うん、では、今はそう言う事にしておこうか。どうやら私の敵ではないようだからね。」


 帝国の爵位は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と5つの爵位が存在し、その順に地位が高いとされていれ、公爵から男爵へ下がるにつれて、その人数も多くなっていく。


 マイトランドも師アランの本の知識で知っている、フリッツ・ヨアヒム・フォン・ビスマルクの父、オットー・ヨアヒム・フォン・ビスマルクは、その中でも帝国最上位である公爵の地位を賜っており、帝国に5人しか存在しない5公爵の1人である。

 数々の功績から受けた勲章は数知れず、胸の勲章はその数の多さ故に、許容量をオーバーし、肩や帝国軍制服の上着ポケットにまで勲章をぶら下げているほどである。


 嫡子だと言うのに、そんな父の威光にあやからず、帝国の新兵教育は3ヶ月、そこからたった半年で、一兵卒から才能を見いだされ、曹長までの道を駆け上がったのが、このフリッツ・ヨアヒム・フォン・ビスマルクである。


 人心把握がとても上手く、部下からは信頼され、彼の為なら命をも捨てる覚悟の兵士は少なくないようだ。

 だが、偉大過ぎる彼の父の威光にあやかろうとする者もまた少なくない。

 その為、彼の鑑識眼は凄まじく、彼にとって有益な者、無益な者、有害な者、無害な者を瞬時に判断し、有益で無害な者は、彼の本人の公爵家としての特別人事権で、彼の部隊に加えられていく。もちろんのこと無理強いなどはしていない。


 そんなフリッツの本能が、マイトランドは敵ではないと言っているのだろうか、フリッツは話を変え、なめまわすような視線を、マイトランドの全身に送ると続けた。


「ねぇ、マイトランド。私は君にすごく興味があるよ。初めて会った気もしないしね。どうかな?君にその気があれば・・・。」


 フリッツがそこまで言いかけると、マイトランドは話の腰を折り、大きな声と共にフリッツの手を振りほどき彼を拒絶した。


「やめてください!僕にはそんな趣味はありません!」


 当然同性愛をほのめかす言葉と勘違いしたのだろう。フリッツはそんなマイトランドの反応に、ひとしきり笑うと、再度肩を掴み、口を開いた。


「あははははは。私だってそんな趣味はないよ。そうではない。ただ単純に興味がある。わかるかい?」


「ええ?どうしてですか?私は捕らわれていたんですよ?お恥ずかしいですが、正直無知で無能です・・・。山菜取り以外では、村から出たこともありませんし。ましてや、貴族様にお会いしたことなんて・・・。」


「そう。そう言うところさ。通常の軍人であれば、少しでも私の家柄にあやかろうと、自分をアピールしてくるものさ。自分は何が得意だとか、役に立てるとかね。それが君はどうだい?アピールするどころか、自らを卑下し、私から遠ざかろうとするじゃないか。」


「それは・・・。」


 マイトランドは、”しまった!”と言う顔で、フリッツの言葉に何も反応できずにいると、フリッツからある提案がなされた。


「そうだな。ではこのまま私の部隊に加入してくれるかな?もちろんスキル、戦技の有無、種別は問わない。帝国臣民であれば特別人事権という言葉は知っているね?」


「光栄なことですが、僕はまだ15です。帝国軍人ではありません。16になるまでお待ちいただけますか?」


「特別人事権には歳は関係ない。15であっても、君の言う皇帝陛下のお役には立つことはできよう。もちろん無理強いではないがね。」


「16になったら是非。」


「ふーん。断るんだ。ふーん。まあいいさ。君とはまた会いそうな気もする。君の言う、16まで待たせてもらうことにするよ。」


 ビルマルクの、この予言めいた発言に、予知夢のヨーゼフを思い出すと、悪寒のようなものを感じ、震えるマイトランドであったが、ビスマルクはそんなマイトランドを意にも介さず続ける。


「それにね、今部隊を作ったところで無駄になる。私は来年の半年間を士官学校で過ごすことに決めているからね。」


「士官になられるのですか!おめでとうございます!」


「ああ、ありがとう。だがそれが終わったら、自分の中隊を持てるだろう?その頃には君も16さ、部隊配属だろう?是非私の部隊を希望してくれ。人事部に話は回しておこう。来てくれることを願うよ。帝国臣民ならね?」


「はい!僕に決定権があるのであれば、喜んでビスマルク様の元に、はせ参じます。」


「そうか、嘘でもそう言ってくれると嬉しいよ。ではこの話はもうやめようか。」


 2人はそんな話をしながら食堂に到着すると、フリッツの生い立ちなどの話をしながら食事を楽しんだ。

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