第101話 救出と脱出 2
マイトランドは、口髭の衛兵に同行し募集所へ移動すると、募集所扉前には、既に10名ほどの列ができており、その列に並ぶと、前に立っていた同じ年ほどの男に声をかけられた。
「やあ、僕はレフ・アウグストさ。君は?」
レフと名乗った男は、マイトランドとほぼ変わらない、身の丈180前後、体重も同じくらいだろう。ブロンドの髪を後ろで束ねた髪型がとても印象的である。姓名から判断するに、ファルンガルランドの出身だろう。
マイトランドは、ディアナとの会話に出てきた、一般的なファルンガルランドの名前を思い出すと、握手の手を差出し、偽名を伝えた。
「ラファウ・シマンスカだ。よろしく。」
「シマンスカだって?それは本当か?本当であれば同胞ってことになるけど・・・。」
レフは話も途中に、頷くマイトランドの握手の手を取ると、がっちり掴んで続けた。
「ラファウでいいのか?列に並んだってことは、ラファウも兵士になりに来たってかい?」
「ああ、かまわない。俺もレフと呼ばせてもらうよ。俺は貧民だからな。兵士以外に選択肢が無い。」
マイトランドが、普段から呼びなれない名前で呼ばれることに酷い違和感を覚えると、質問に答えたマイトランドを見て、レフは自分の出自について語った。
「アウグストって聞いたことあるだろう?僕は元ファルンガルランドの王族さ。」
「ああ?そうなのか?王族ならなんで兵士に?」
アウグストと言えばファルンガルランドの王族の名だ。だがレフの言葉に信憑性は無い。それもそのはずだ、マイトランドが帝国で見た文献によれば、ファルンガルランド王族は、全員処刑されたはずであったからに他ならない。そもそも手持ちの財があるはずである。麻のチョッキに朝のハーフパンツ、レフの見た目は王族と言うには程遠い服装であった。
「疑ってるかい?」
「そうだな。既に滅びたとは言え、出身国の王族を語られるのは良い気はしないだろ。」
「そうかい?だがこれは本当さ。僕は王族さ。」
両手を広げ、アピールするレフが面倒くさいと感じたのだろう、マイトランドは適当な返事で一蹴した。
「ああ、わかった。そう言う事にしておこう。」
正直のところ、マイトランドにとって、レフが王族であるかなんて話はどうでもいい。この募集所に来た理由は、駐屯部隊の憶測ではない確実な編成表と、どの部隊に人員が不足しているのかを確認しに来ただけである。レフが王族であろうがなかろうが、戦場で会えば敵となるし、仲間としても会う事はないだろう。
そんな話をしている内に、レフの順番が来ると、レフはマイトランドに別れを告げ、募集所に入った。次にマイトランドの順番が来て募集所の中に入ると、そこにレフの姿はなかった。
安堵の気持ちと共に、募集官に先ほどと同じ、ラファウ・シマンスカと名前を告げると、配属先一覧から、配属先を選び、兵士の登録を完了した。
登録後は、募集兵の受け入れをするために、兵舎の準備が1日必要だという事で、翌日の出頭を命ぜられた。
これには、もともと逃げるつもりだったマイトランドは再び安堵する。
翌日の出頭であればと、募集所からディアナの家に向け帰ろうとすると、出口にマイトランドを待つレフの姿があった。
「なあ、ラファウだったかい?一緒に飯でも行かないかい?」
「ああ、人の名前くらい一度で覚えてくれ。こっちが困惑する。飯に行きたいのは山々だが、金が無くてな。やめておくよ。」
「それくらい僕が出すさ。なんと言っても俺は王族だからさ!」
「いや、結構だ、あったばかりのレフに、飯を奢られる謂われはない。すまんが他を当たってくれ。俺は忙しい。」
レフは断るマイトランドの腕を掴むと、自ら寄ると、耳元でこう告げた。
「君、どうしてスキルをそんなに持っているさ?名前も嘘だろうさ?本当の名は・・・。」
レフの言葉に、マイトランドは驚き、レフの腕を振りほどくと、距離を取り、不敵な笑みを浮かべるレフの話遮ると答えた。
「お前なんだ?誰かに言ったか?」
肝を冷やすマイトランドに、レフはとぼけた顔で答えた。
「いや?誰にも話してないさ?でもラファウってのは無理があるさ。君には僕の国の訛りがないさ。どちらかと言うと、君の喋りは帝国人さ。」
「帝国人だと?ふざけるな。何の理由があって俺に話しかけた?」
「ああ、理由?そんなの決まってるさ。君が面白いスキルばっかり持っているからさ?君も王族か何かなのかい?」
「王族?貧しい村に生まれたよ。食う物も困るほどにはな。で?なぜスキルを見ることが出来るんだ?」
「ああ、そのことさぁ?僕には鑑定スキルがあるさぁ。」
鑑定スキルとは、非常に珍しいスキルで、鑑定を受けた者は、使用者に姓名、所持スキル、適性と言った全ての情報を覗かれてしまう。
レフの今までの発言から、レフが本当に鑑定を持っているとマイトランドは、観念し自身の名前を明かした。
「わかった。わかった。俺はマイトランド・ラッセルだ。とにかく飯に行くか。方々で色々喋られたらかなわん。」
「ラッセル?ラッセル・・・。またウソさ?」
「嘘じゃない!ラッセルだ!嘘を言ってもしょうがないだろう。いい加減にしてくれ!」
「続きがあるのさ?」
「アホかお前は。気持ちの悪いことを言うな!ラッセル以外に言いようがないだろう。誰にも言うなよ!今日は忙しいんだ!早く飯に行くぞ!」
「ああ、うん。ラッセル。ラッセル。覚えたさ。」
レフは首をかしげながらも嬉しそうに頷くと、怒るマイトランドと共に飲食街へと向かった。
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