第102話 救出と脱出 3

「レフ、お前、帝国軍に恨みがあるんだろう?俺とは進む道が違う気がするぞ?」


「僕かい?帝国軍には特にないさ。」


「はぁ?お前、国を滅ぼされたんだぞ?恨みが無いわけがないだろう?」


「でもさ、考えたかい?帝国軍のおかげで、何も考えなくて良い楽しい生活が送れる訳さ。」


「お前はアホか。お前が本当に王族だとして、お前の為にファルンガルランド国民は戦ったんだぞ?何とも思わないのか?」


 ファルンガルランドは、ハイデンベルグ帝国の、銃器による電撃的な東進の、最初の犠牲になった国である。決して国力が高い訳ではなかったが、豊かな牧草地帯に恵まれ、畜産・酪農が盛んであり、その生産形態により、周辺国との交易を生業とした国家であった。

 北は海を隔てウォルダーゲルデ、スウェニナビア、大ファンガルドと言った国で構成され、飛龍などでの航空交易が可能な北海連合。

 東には陸上輸送での巨大取引のある超大国アウジエット連邦。

 北東は小さいながらも、過去アウジエットの侵攻を何度も退けたオウル同盟。

 南にはフォンガル・オスリスト・スベロニア三重帝国を有していた。

 ファルンガルランドが滅亡した現在となっては、その国土はハイデンベルグ帝国の一角となり、アウジエット連邦とは交戦中、近い将来帝国は、オウル同盟や三重帝国とも戦闘になるだろうと誰もが予測していた。


 そのファルンガルランドの国民は、一致団結し、国王、王族の為、国の名誉の為、国民の安全の為に戦ったのである。負けて滅亡したと言っても、残った王族は国民に敬意を払うべきだろう。


「僕は、ガリア同盟経由で、帝国に留学してたのさ。そしたら、気が付いたら国が無くなってたのさ。実感わかないさ。」


「まあ言いたいことはわかった。しかし、その喋り方はなんとかならないか?」


「ならないさ。それで?マイトランドは何をしようとしているのさ?」


「ああ、ここを出ようと思う。帝国に恨みがないんじゃお前も来るか?」


「本当かい?行くさ。」


「じゃあ、一緒に行くか。その代り。文句を言わずに何でもしろよ?」


 2人は昼飯を食べ終わると、ディアナの元へと急いだ。

 マイトランドは、マイトランドの情報を知りすぎているレフを、一瞬殺すことも考えたが、騒ぎになる可能性もあり、なによりレフが一緒に行動することを望んだ為、ディアナの元へ連れて行くことを決意した。


---


 ディアナの家の前に立つと、マイトランドはレフの鑑定の実力、ディアナの出自の真偽を見定めるため、レフに提案をした。

 

「いいか、ディアナが出てきたら鑑定をするんだぞ?で、ディアナの名前とスキルを俺に耳打ちしてくれ。」


「わかったさ。」


 レフは快くその提案を受け入れると、マイトランドはディアナの家の玄関を叩いた。


 2度ほど玄関を叩き、ディアナが玄関を開けると、マイトランドが仲間を連れて来たことに驚くも、マイトランドの説得により、2人を中に招き入れた。


「マイトランド。武器は買っておいた。もちろん短銃も。」


「持ってきてくれるか?」


 マイトランドはあえてディアナに装備を持ってこさせると、ディアナを遠ざけたところで、レフに先ほどの提案の確認をした。


「どうだった?」


「ディアナ・エデルトルート・フォン・アイケさ。」


「スキルは?」


「帝国式抜剣術、偵察、諜報、双剣術、馬術、隠密・・・。」


「いや、もういい。わかった。お前の鑑定は本物だ。信じよう。」


 マイトランドはディアナの素性と、レフのスキルに確証を得た。だが、レフのとって、ディアナは仇の様な存在であるし、ディアナにとってレフは滅ぼさなければならない存在である。もちろんのこと後者は、レフが王族だという前提条件のもとで成り立つことであるが。

 マイトランドは、どうしたものかと考え込むと、ディアナが戻りそうな素振りを見せたので、応急処置としてレフに勧告した。


「いいか。レフ。スキルを見て分る通り、あいつは帝国人だ。つまり、お前の素性を明かせば殺される可能性がある。だから今からレフとだけ名乗ってくれ。王族とは絶対に言うな。いいな?」


「わかったさ。」


 レフがマイトランドに返事をすると、丁度そこに、ディアナが武器と包みとを持って戻ってきた。

 ディアナは、耳打ちをしてニヤニヤと笑うレフとマイトランドを見ると、苦笑し口を開いた。


「剣が2。短銃が1。これでいいか?それと救出する捕虜4名とお前の分の食料を調達しておいた。決行はいつだ?」


「短銃は帝国製の最新式か?決行については今夜だな。ここにいるレフも救出に加わる。いいな?」


「銃は私が使っていた帝国製最新式だ。救出してもらえるのであれば、何者だろうとかまわない。この通りだ。よろしく頼む。」


 ディアナはそう言うと、礼儀正しくレフに頭を下げる、それを見たレフもまたディアナに対し頭を下げた。


「レフ、お前剣は使えるか?馬は?」


「馬は僕たちの嗜みさ。剣だって使えるさ。」


「よし、ならこれを渡しておこう。」


 マイトランドは、そう言って剣を投げると、ディアナから受け取った一振りを自分用に腰に下げ、ディアナからホルスターを奪うと自身に装着し、その中に短銃をしまった。

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