第103話 救出と脱出 4

 夜になると、巡回の衛兵の通過を待ち、事前のマイトランドの作戦を通り3人はディアナの家を後にした。


「いいか?先ずは、俺がスキルを使って敵の数を調べる。その後に囮の騎兵を出す。この騎兵に俺とお前で、帝国兵が出たと騒ぎ立てる。捕虜周りの兵がいなくなったら一気に鎖を切って捕虜を救出、この時、捕虜周りに数人残るだろうが、これは斬って捨てる。その後南門から脱出する。」


「了解さ!」


 レフの返答に、マイトランドは手で目を覆うと、ガクっと体ごと肩から右ひざを落とすと、姿勢を直し反応した。


「おい!なんとも気の抜ける返事だな!本当に分かっているのか?」


「大丈夫さ!」


 レフは余程自信があるのだろう、任せてくれと言わんばかりに、胸を拳で叩いて見せた。


「わかった。まぁいい。ディアナは俺達のフォローだ。いいな?敵が接近した際は、隠蔽したまま物を倒して妨害してくれ。」


「了解だ!」


 ディアナの家のある西地区から、南地区を回り、東地区へ、そして捕虜がいる北地区との境付近まで到着すると、やはりそこには兵士が群がっていた。


 マイトランドとレフは、その手前職人が使っていたであろう店の軒下まで来ると、マイトランドが周囲を確認しスキルを発動した。

 驚くレフを余所に、土くれの騎兵が2騎、スキルによりその場に現れるとマイトランドは続けて口頭により命令する。

 

 「お前達、もうすぐ巡回の衛兵が来る。巡回の衛兵が来たらそいつらを撃破殲滅しろ。それまでは待機だ。」


 普段は思念により命令するが、レフの手前、口頭で命令しておいた方が、都合が良いだろう。

 

 「ほら隠れるぞ。」


 土くれの騎兵を待機させた後で、レフとその店の反対方向へと移動する。

 まもなくして、巡回の兵士が現れると、マイトランドの指示通り、土くれの騎兵は突撃を開始した。

 それに伴いマイトランドとレフは、予定通り捕虜の捕まっている広場へ向け大声で走り出した。


「敵だ!敵だ!巡回の兵士が襲われた!誰か助けてください!」


「誰か!誰かー!」


 捕虜を囲む兵士達の大部分はこれに反応すると、騒ぎのある方向へ我先にと走り出した。

 10名程度が残ると、マイトランドは残った兵士に尋ねた。


「結構大勢でしたよ!行かなくていいんですか?」


「捕虜がいるだろう?搖動かもしれん。ここ離れる訳にはいかんな。」


 兵士の返答を待つと、マイトランドは微笑み自身の剣に手をかけた。

 

「じゃあ、死んでくれ。」


 そう呟くと、剣を抜き一閃。答えた兵士の首を飛ばした。


「レフ!」


 飛ばされた兵士の首が転がる先の、レフに目をやると、マイトランドが兵士の首を飛ばすと同時に、レフもまた剣を抜き兵士の背後から切りつけていた。


 マイトランドは、首が無くなり、立んながら血しぶきを発する仲間の死に動揺する兵士を1人切り捨てると、スキルを発動する。


「皇帝の軍勢歩兵。」


 スキル発動と同時に、土くれの歩兵が8名その場に現れると、続けて命令を下す。


「レフの援護をしつつ、6名は1体ずつ敵を撃破殲滅せよ!2名は騎兵の支援に向かえ!」


 命令を受けると、土くれの兵士が即座に残った6名の兵士に斬りかかる。2名は騎兵の援護へとその場を後にした。

 それを確認したマイトランドは、鎖につながれた捕虜の救出へと向かい、何度か剣で打ち付けるも、鎖を断ち切ることが出来ない。当然救出される側の4名にも動揺が広がる。

 

 「ちょっとまっていろ。」


 なかなかに切れない鎖にマイトランドは業を煮やすと、懐から銃を抜き、弾を込めると、鎖の根元に引き金を引いた。


パーン


 とういう乾いた音と共に、鎖の圧着部分が緩むと、そこ目がけて剣の先端を突き立てた。


ガツンガツン


 何度も剣を刺すと鎖は根元から抜け、捕虜たちは、わずかながらの自由を手に入れた。

 だがそれと引き換えに、通りの向こうから大量の増援がやってくるのが確認できた。夜の静寂に銃の音はあまりにも大きな代償を払うことになった。


「倒れた兵士達から武器を取れ!増援が来るぞ!」


「はい、ですが手が。」


 答えた捕虜4名のわすかながらの自由、まだ彼ら捕虜4名の手は互いを結ぶ鎖につながれていた。


「大丈夫だ!とりあえず剣を持って戦えるようにしろ!剣を持ったら、とりあえずついてこい!」


 マイトランドは捕虜達に無理難題を押し付けると、すぐ傍で戦っているレフの支援に向かった。


 レフと土くれの歩兵は、残りの7名の兵士のうち6名を既に殲滅しており、残りの1名を駆けつけたマイトランドが、後ろから斬りつけ絶命させると、マイトランドは新たに土くれの歩兵に命令した。


「お前達6名は通り向こうから来る増援を足止めしろ!」


 新たな命令を下された土くれの歩兵6名は隊列を整えると、走って増援の足止めに向かった。

 

 「マイトランド、結構な騒ぎになったさ?どうするさ?」


  レフの問いにマイトランドは苦笑いし、答えた。


 「考えてある。まぁ見とけ。」


 そう言って新たなスキルを発動する。


 「皇帝の軍勢戦車。」


 現れたのは土くれの馬が引く2台の土くれの戦闘馬車。戦車であった。

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