第104話 救出と脱出 5

「全員乗り込め!2名ずつだ!レフはそっちの戦車に乗れ!」


「了解さ!」


 マイトランドは捕虜を2名ずつに分け、それぞれの戦車に乗せようとすると、捕虜の一人がマイトランドに進言した。


「あの、隊長、鎖が邪魔で、2名ずつ別れて乗車することが出来ません。」


「ああ、すまん。なんとかする。」


 わずかな自由の弊害がここに来て発生した。捕虜同士の鎖が短いので、分乗しようにも全くできなかったのである。

 隊長と呼ばれたマイトランドは、かぁっと顔を両手で覆う様な仕草をすると、レフに指示を飛ばした。


「レフ、鎖を引っ張ってくれ。」


「はいさ!」


 レフが両手で1本ずつ鎖を引っ張ると、マイトランドが剣でそれを叩き斬る。見事な連携で6本の鎖の8ヶ所をを断ち切ると、4人の捕虜は晴れて自由の身となった。


「敵が来る。急いで乗れ!」


 6人が全員が3名ずつ、各戦車に乗り込むのを確認すると、マイトランドは土くれの戦車長に指示を伝えた。


「よし、戦車長、南門まで行ってくれ。」


・・・。


「時間が無いんだ。南門まで行ってくれ。」


・・・。


「頼む!南門まで行ってくれよ!」


 初めて使用したスキル、皇帝の軍勢戦車は、マイトランドが、何度命令しても一向に動こうとしない。これを見かねた、同乗する冷静な捕虜の1人が、マイトランドに進言した。


「隊長、僭越ながら、この戦車長殿は南門がどこかわからないのではないでしょうか?」


 余程に恥ずかしかったのであろう、マイトランドは顔を熟れたリンゴの様に赤くすると、新たに命令を出した。


「戦車長、全速で前進しろ!そっちの戦車はこちらに続け!」


 すると先ほどとは違い、2台の戦車は前進を始めた。マイトランドは戦車が前進したところで、同乗している先ほどの捕虜に尋ねた。


「先ほどはありがとう。貴官、所属と姓名、階級は?」


 マイトランドに尋ねられた捕虜は、姿勢を正すと敬礼し答えた。


「はっ、これは失礼いたしました。小官は帝国軍第18軍団第60猟兵連隊、第7偵察大隊所属、ヘルムート・ゲルマー少尉であります。この度は救出ありがとうございます。」


「貴官は何故捕虜に?」


「はい、偵察任務中にお恥ずかしながら、発見され拘束されました。みたところ隊長はまだお若いようですが、失礼ながら所属と階級、姓名をお聞かせ願えますか?」


「ウェスバリア第2軍、第72砲兵旅団特務分隊、マイトランド・ラッセル。」


「ウェスバリアですか・・・。あの、階級は?」


「機密事項につき、今は教えることはできない。貴官はこれより私の指揮下に入ってもらう。私の階級は、原隊復帰後に貴官の所属部隊長に尋ねられたい。」


「失礼いたしました!」


 マイトランドが階級を伝えなかった理由、軍人というのは、立場と階級を大事にする。捕虜が少尉であるのに、救出した2等兵の指揮下に入る訳がないと考えたのだろう。


 経路の指示を逐一出しながら、東区画から南区画に抜けると、巡回の衛兵が数人で簡素なバリケードと共に待ち構えており、戦車2台の進路を塞いでいた。

 それを確認すると、マイトランドは戦車長に新たな命令を下した。


「2台とも絶対に止まるな。立ちはだかる者はひき殺せ!」


 命令を受けると、戦車2台はそのまま衛兵達へと突っ込んだ。

 間一髪というところで、衛兵達は戦車の進路からその身を移すことができるも、折角のバリケードは意味をなさず、マイトランド達の通過を許してしまった。


 特段の苦労もなく、南門まで到着すると、夜だと言うのに南門は兵士達20名程でごった返していた。

 王国の威信を賭け、マイトランド達を逃がすわけにはいかなかったのであろう。


 マイトランドは戦車に命令を出すと、その場で止まり、再度スキルを使用して土くれの歩兵8名と、騎兵2名を召喚。第一波攻撃と称し、これに突撃の命令を下す。


「突撃!突撃!戦車の脱出ルートを作れ!」


 第一波部隊は、南門で待機していた敵兵士群20名程に突撃を敢行すると、戦車2台はその後へ続いた。

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