第115話 会戦準備 6

「なんだ?顔を見合わせて。」


ラーケン大佐の言葉に、マイトランドは我に返ると尋ねる。


「先ほどは失礼いたしました。階級章が見えませんでしたので。自分は、その、大佐の息子を知っていまして・・・。」


「うん?我が家は娘なら3人いるが、息子はおらんぞ。」


 ラーケン大佐は大笑いすると、二人の企みを一蹴し、ドワイトとマイトランドはを顔を見合わせることになった。


「大佐、失礼ですが、アーシュライト・フォン・ラーケンは親族ではありませんか?」


 再びマイトランドが尋ねると、ラーケン大佐は、その屈強な腕を組み考え込む。


「おぉ、アーシュライトと言えば、本家筋の小僧かな?良くは知らんがどうした?」


 思いついたように答えるラーケン大佐に、マイトランドはアーシュライトとの関係を話し、今回の攻勢計画に関する質問をした。


「大佐、今回の攻勢計画はどの様にお考えですか?」


「攻勢計画をどの様にと言われても、俺はただ命令に従い武功を立てるだけだ。」


「では、この騎兵師団の装備についてお聞かせください。いつ変更が加えられたのですか?」


「知らん!でも装備変更時期は、今回の作戦からであった様に感じるな。」


「何の為の装備でしょうか?銃を意識しての装備ではありませんか?」


 マイトランドの度重なる質問に、ラーケン大佐は頭を悩ませていると、マイトランドとドワイトの後ろから、別の男がその質問に答えた。


「銃撃の被害を少しでも抑える為だ。」


 マイトランドがその声に反応し、後ろを振り返ると、そこには中佐の階級章を付けた、若い180前後の短髪の金髪碧眼の男が立っていた。その男は笑うと、マイトランドに握手の手を伸ばす。


「私は、第11騎兵師団司令部、マナドゥ中佐だ。職責は司令部次席参謀。先程、約束なしに師団長に面会を求める下士官と兵は、君たちの事だろう?」


 マイトランドは深くお辞儀をすると、マナドゥ中佐の握手の手を取り答えた。


「ラッセル二等兵です。第72魔導砲兵旅団、キスリング支隊に所属しております。第11騎兵師団のお力をお借りしたく参りました。」


「師団長に会わせるわけにはいかんが、私で良ければ話だけでも聞こうか。」


 マナドゥ中佐はマイトランドの手を放すと、師団司令部天幕横の幕僚天幕へと2人を案内した。

 天幕に入ると、マナドゥ中佐はドカリと椅子に腰をおろし、その場に立つマイトランドの話に耳を傾けた。


「さて。話を聞こうか。」


「はい。特務隊であるキスリング支隊は前日夜に出撃し、平原南の森の中を闇にまぎれて進軍するつもりです。ですが、敵もバカではありません。森の中に斥候をなり伏兵なりを出すでしょう。ですから我々をご助力いただきたいのです。」


「手助けすることによる、我々への見返りは?」


「カルドナ王国軍の、戦場に配置された罠の位置を提供したく思います。」


「良かろう。助力の内容とは?」


「はい。森内部への斥候の派遣の増加、及び、部隊の運動量を増やし、敵斥候の目を引いてこと、あとは500騎ほど随伴の精鋭騎兵いただければ。」


「うむ。斥候の派遣を増やすこと、運動量を増やすことについては、私の権限でどうにか出来る事だが、別働隊は私の権限の範疇を越えている。見返りが、戦場の罠の位置だけではいかんともしがたいな。」


 これはマイトランドの策であったといった方が正しいだろう。最右翼である第11騎兵師団が戦場南の森林へと斥候を出すのは当然のことである。

 したがって、敵奇襲の恐れと言ってしまえば、斥候の派遣を増やすことなど造作もない。部隊運動については訓練で片付けられるだろう。

 2つの造作もないことと、主部隊の戦力を少しでも削る様な、無理難題を押し付け、無理難題を断れば重要である前項2つだけを残し、罠の場所を開示すれば、両者ともにメリット以外はない。逆に無理難題を承知すれば、トレーナを攻める戦力が増えるだけである。


「では随伴の騎兵については諦めましょう。」


 マイトランドがそう言うと、マナドゥ中佐は考え込む。マイトランドの返答が妙にあっさりしていた為に他らならない。


「待て、随伴の騎兵を500騎つけよう。師団長には急ぎの為に事後報告としておこう。その500騎の使用方法は?」


「はい。トレーナ攻略部隊です。」


 即答したマイトランドの反応に、マナドゥ中佐は驚きのあまり机を叩くと大声を上げた。


「馬鹿か!トレーナ攻略は500や1000では不可能だ!戯言と分かって耳を貸した私が馬鹿であった。」


 常識から考えればマナドゥ中佐の言は正しい。その反応に、にやりと笑うマイトランドを見てマナドゥ中佐は続けた。


「とにかくだ。罠の配置は教えてもらおう。その対価も確約するが、それ以外はダメだ。」


「ええ、斥候と部隊運動の確約ができれば結構です。」


「もう話すこともない。すぐに帰れ。」


「わかりました。では後でポエルという女性兵士をこちらに送ります。罠の配置は彼女から受け取ってください。」


 そう言い捨てると、マイトランドはドワイトを連れ、幕僚天幕を後にした。

 攻勢作戦の発動まで、残り2日の出来事であった。

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