第38話 学科試験 3

 フレデリカ達が教材を取り戻ってくると、マイトランドは入口付近でフレデリカを引き寄せ、フレデリカに耳打ちした。


「スナイダーの事はフリオニールには言ってないよな。」


 フレデリカは、驚いた顔で反応する。


「言えるわけがないだろう。まあ言ったところでグレッテ卿なら許してくれるだろう。」


「ならいい。次の模擬戦の後で、俺から伝えることにしよう。それまでは絶対に言うなよ。」


「わかった。大丈夫だ!」


 そう言って、フレデリカは、無い胸を右の拳でポンと叩く。


「ところで何を教えればいい?」


「ああ、先ずは文字だ、文字を理解した者には軍隊符号や兵科記号、部隊の規模を教えてやってくれ。あとは貴族用の試験科目を重点的にたのむ。」


 軍隊符号とは、軍事上の作業において用いられる、文字、数字、略号、色といった記号の総称である。

 簡単に説明すれば、作戦の立案時、地図上に1個騎兵師団と1個歩兵師団と書き込むわけにいかないので、騎兵は菱形、その上に×印を2個付ければ師団という様な簡略記号である。騎兵を菱形に表すと言うのが兵科記号で、×印2個が部隊の規模であり、それらを総称して軍隊記号と呼ぶ。


「わかった。任せてくれ。」


 フレデリカは班員に指示を出すと、さすが上級教育を受けている新貴族と言ったところだろう。先ずはマイトランド班の全員をカテゴリー別に組み分けする。

 文字の読み書きができない者、文字を読むことは出来るが書けない者、戦闘スキルのある者、魔法を使える者。4つのカテゴリーに組み分けすると、それぞれに教官を配置し、それぞれに合わせた教材で授業を開始する。


「それで?私は何をすれば?」


「ああ、まだいたのか、フリオニールに任せる作業は特にない。貴族が平民の隊舎にいるというのもな・・・。用が済んだら帰ってくれ。」


「あ、ああ。そうだな。迷惑だな。」


 フリオニールは少し寂しそうに肩を落とすと、ランズベルクと楽しそうに喋っているロンベルトを待って部屋を後にした。


---


 次の日も、そのまた次の日も、課業が終わると、フレデリカ達の授業が始まる。

 1週間ほど経つと、アツネイサも簡単な文字なら読めるレベルにまで成長していた。


「やるじゃないか。さすがはフレデリカだ。」


 マイトランドに褒められると、頬を赤くしながら飛び跳ね、少女の様に喜ぶフレデリカは、


「あ、あ、当たり前だ!」


 そう言って照れを隠す。


「後3週間か、試験科目はわかったのか?」


「ああ、それならもうそろそろグレッテ卿が来るはずだ。」


 フレデリカの言葉通り、しばらくするとフリオニールがロンベルト、アーシュライトを伴い大きな包みを抱えてやってくる。


「マイトランド!持ってきたぞ!」


 その大きな包みに押しつぶされそうになりながら声を発するフリオニールに、


「なんだ、貴族なのに、従者の一人もいないのか。重そうだな、」


 マイトランドがそう言うと、フリオニールは包みを置き、笑って答える。


「自分で持てる物を、なぜ従者に運ばせる?それに俺は、宗教上の理由で従者を持たないことにしている。」


「なんだ、その宗教は。聞いたことが無いぞ。」


「マイトランド、宗教と言うのは方便だ、そう言っておけば誰もが納得するだろう?とにかくだ、羊皮紙を持ってきた。これくらいあれば足りるか?」


 マイトランドは包みを確認すると、人数分よりも遥かに多い量の羊皮紙が入っていた。


「こんなに?一週間で集めたのか?いいのか?」


「ああ、他ならぬ友の頼みだ。有意義に使ってくれ。」


「友か・・・。」


「ああ、友の為にロンベルトも、アーシュライトも協力してくれたのだ。」


 マイトランドは、包みから人数分だけ、羊皮紙を抜き取ると、残りをフリオニールに返す。


「俺も宗教上の理由で、友からは羊皮紙を必要以上に受け取ることができないんだ。気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう。」


 マイトランドがそう言うと、フリオニールは包みを受け取り、


「方便か?」


 と言って大きな声で笑い出した。

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