第122話 トレーナ会戦 前編 3

 12月27日夕刻

 グルナブルットより進発したウェスバリア第2軍は、隊列を維持したまま、トレーナ平原西端の小高い山シャンプールに布陣した。

 第2軍総司令官であるツェッペリン将軍は、第9と第11騎兵師団に大規模な斥候部隊による偵察を、他の歩兵師団には一晩だけの簡易的な陣地構築を命令した。


 第9騎兵師団は、トレーナ平原の西側地域北部を中心に、第11騎兵師団は西側地域南部を中心にその索敵範囲を定めると、特に戦線中央部を念入りに索敵した。


 カルドナ王国軍は、トレーナ平原中央部に派遣していた斥候が遠目にウェスバリア第2軍を発見。ウェスバリア軍の大規模侵攻は、瞬く間にカルドナ王国軍第4軍司令官マリオ・ガリボルディ中将の知るところとなった。


 ガリボルディ中将は、アンプロージョ少将の再三に渡る援軍の要請を無視した第8銃歩兵師団に再度の援軍要請をするも、第8銃歩兵師団の指揮官ジュリオ・デ・ボーノ少将はこれに返信。


「帝国軍第17軍団、第18軍団の大規模侵攻の恐れあり。我に余剰戦力無し。」


 そう言って一蹴した。ガリボルディ中将はこれに激怒。首都ロマシティにある参謀本部へデ・ボーノ少将の怠慢を報告後、直接援軍を要請した。

 

「ウェスバリア軍主軍40万、別働隊15万、トレーナへ大規模侵攻。我の戦力16万。至急援軍を乞う。」


 これにカルドナ王国軍参謀本部は、早期に増援を決定。

 北海連合の盟主、大ファンガルドより派遣された義勇軍、3個空戦中隊340名。

 ウォルダーゲルデより派遣された義勇軍、2個空戦中隊220名。

 スウェニナビアより派遣された義勇軍、2個空戦中隊210名。

 ガリア同盟より派遣された義勇軍、2個重装騎兵中隊420名。

 イドリアナ連合王国より派遣された義勇軍、3個銃歩兵中隊660名。

 フォンガル・オスリスト・スベロニア三重帝国より派遣された義勇軍、1個重装歩兵大隊850名。

 

 到着間もない義勇軍部隊を再編、第105混成連隊とし、これに首都防衛を任務としていた第15近衛騎兵連隊3300名を加え、合計6000名を第3混成団と命名、指揮官にウンベルト・イアキーノ准将を指名した。

 カルドナ王国軍参謀本部は、翌12/28日夜に、各国から到着したばかりの7個空戦中隊770名を、先発隊として進発し、翌々日30日完全に準備を整えた残りの部隊も、トレーナに向け進発することを決定した。


---


 その頃マイトランド有するキスリング支隊は、一つの戦闘もすることなくトレーナ平原南部の森林地帯を東進、森林地帯の中央部にまで差し掛かろうか、という所まで差し掛かっていた。その移動の間、何度か連隊砲撃訓練を行うと、その精度を高めていた。


「ランズベルク。第2軍本隊が動き出した。第11騎兵師団の進行方向の罠のうち、12番18番を排除してくれ。」


「了解だ。」


 ランズベルクは、これまでに二つの罠を既に排除していたが、マイトランドは第11騎兵師団と連携、斥候の出ている場所を確認すると、その周囲にある罠を排除した。


---


 また同じ頃、ヴェルティエ中将指揮する別働隊第2軍団は、途中全速力で移動したこともありトレーナ平原中央部北側西端に到達、敵の接近、斥候の有無を確認すると、少数の斥候だけ組織し、簡易的な陣地を構築、その軍団司令部に参謀を招集、翌日に備えての作戦会議を開いた。


「聞け!明日は小規模だが敵との戦闘が予想される。まだ敵に位置を知られたくない。全隊に灯火管制を指示せよ。これより先の野営は全て灯火管制とする。首席参謀、どうか!」


 ヴェルティエ中将は自身に絶対の自信を持っている。首席参謀フレドリク・フォン・コッセル大佐は、敵に存在が知られていることも大方予想していたが、指揮官ヴェルティエ中将の機嫌を損なう事を恐れるあまり、自身の考えとは真逆に答えた。


「仰せの通りです。敵にはこちらの位置は秘匿されておりますゆえ、灯火管制は重要かと存じます。」


「素晴らしい!俺の作戦通りだな!はっはっはっ!」


 ヴェルティエ中将は、このコッセル大佐の言葉に機嫌を良くすると、斥候部隊の数をさらに減らし、第2軍団の将兵ほぼ全てに休息を取らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る