第121話 トレーナ会戦 前編 2

 ランズベルク隊砲班は、部隊左側面からやや離れ、その位置に付くと、砲撃準備に移行する。


「マイトランド、砲撃目標は?」


「第11騎兵師団の進行方向にある、地図上10番の罠だ。」


「わかった。」


 マイトランドに渡された地図を確認すると、即座に砲班長おやっさんと測距手であるオランド1等兵と共に、コンパス地図を用い、砲撃方向を確認すると、その砲撃方向の木を切り倒した。


「砲撃準備完了!」


 詠唱手であるライーザ伍長が、その詠唱を修了すると、おやっさんが高らかに準備の完了を告げる。


「俺が弾着の観測をする。ランズベルク、20秒程したら砲撃をしてくれ。タイミングは任せる。」


「ああ、わかった。」


 マイトランドがイーグルアイを発動するの確認すると、ランズベルクは、砲班から10mほど離れた砲撃方向に立ち両手を上げた。


「おやっさん!いいぜ!撃ってくれ!」


「了解だ!」


 おやっさんはそう叫ぶと、右手を上げ、それを振り降ろすと、砲撃の合図を出した。


「撃てー!」


 おやっさんの大きな号令に、ウッズ伍長は魔力を込めると、ライーザ伍長が詠唱しその場にとどまっている魔力火球を発射した。


 発射された魔力火球の影響で周囲が一瞬明るくなるも、ランズベルクよってその魔力火球の姿は消えることになる。

 砲撃方向に立つランズベルクの上を魔力火球が通過しようとすると、その魔力火球に、ランズベルクが視認できない様に隠蔽を施したからである。


 しばらくすると、遠くから


 ドォォォン


 という音で魔力火球は着弾を知らせると、それを確認したマイトランドはスキルを停止し、ランズベルクに告げた。


「効果は暗くてわからんが、魔力火球は完全に消えていた。完璧だな!明日、明るくなったら弾着地を確認する。ランズベルク隊は隊列に復帰、行進を継続してくれ。」


「だろ?魔力を隠蔽するとか、新しすぎて、誰も気付かないぜ。」


「ああ、そうだな。流石ランズベルクだな。」


「考えたのはお前だろ?」


「いや、先生の言っていたことを思い出しただけだ。考えるよりも実際に実行できる人間に価値がある。と俺は思うよ。」


 ランズベルクは、マイトランドの言葉に少し照れると、砲班全員に隊列復帰を命令し、マイトランドと共にレフの待つ全体の先頭へと戻った。


---


 しばらく歩くと、後の支隊の休息を考えたマイトランドは、ランズベルク、トーマスをアツネイサ、ミシェルと交代させると、キスリング大佐の元へと足を運んだ。

 

「大佐、第2軍本隊が動く前に、支隊全体に休息を取らせたいと思いますが、この先の丘の麓付近でいかがでしょうか?」


「休息はラッセルに任せる。警戒は私の連隊で出せば良いか?」


「いえ、丘の頂上、北、北東、東、南東は我々の分隊で編成します。後方はゲルマー少尉のハーゼ大隊で編制してもらいます。大佐の連隊は休息を十分にとらせて下さい。」


「そうか、わかった。そうさせてもらうとしようか。」


 キスリング大佐が頷くのを確認すると。マイトランドは更に後方のハーゼ大隊に向かい休息の指示を伝えた。


---


 12/27日午前。ウェスバリア第2軍本隊は、全ての編成を完了すると、総司令官バルト・ハインリヒ・フォン・ツェッペリン大将の指揮の元、隊列を整えた。

 戦線前面は、2個重装歩兵師団と3個歩兵師団。その後方に3個歩兵師団と、2個弓兵師団。両翼に2個騎兵師団。後方に第2軍司令部。その両側に2個魔導砲兵旅団。最後尾に銃歩兵師団。と9個後方支援連隊。


「全軍前進せよ!」


 ツェッペリン大将の号令が全軍に行き渡ると、17個師団、2個旅団、9個連隊、総勢26万4660名は地響きを立てながらトレーナ平原へとその進路をとった。


---


 一方のカルドナ王国軍第4軍は、偵察斥候の報告を受け、昨日本体を離れたトレーナ平原北側を進行するヴェルティエ中将の別働隊の存在を早くも察知していた。


 これに第4軍第10軍団長である、アンプロージョ少将は第3軍で精鋭である第8銃歩兵師団の南下、ウェスバリア第2軍別働隊の東進を阻止するよう依頼した。


 しかし、これに第8銃歩兵師団は、正面の帝国軍第18軍団の大規模攻勢の予兆があるとし、南下を拒否。アンプロージョ少将は、苦渋の決断を迫られことになった。

 しかたなく自身の第10軍団から第9銃歩兵師団を中心に、トレーナ東に駐屯する予備役部隊の中からを部隊を編制、2個師団3万名をもって迎撃の任につけた。

 

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