第19話 模擬戦の準備 1

 そんな調子で、入隊初日から、毎日毎日の罰則による体力練成。

 反発したり、意見具申したりすれば命令違反で反省室。

 反省室に入れられれば棒で殴られながらの体力練成。それもマイトランドとランズベルク2人だけ。


 違う事と言えば、体力練成のメニューが存在するという事、それに併せて棒で叩かれる部位も変わるという事。

 例えば、入隊初日は腕立て伏せのみを命令されるが、2日目はスクワット、3日目は腹筋とう具合で、3日で1セットとなっていることだ。それが2回続くと、班長達も休日が必要なのだろう。完全休養の日をはさむと丁度7日で1セットになっている。

叩かれる部位も、鍛えている部位を狙ってか、重点的に叩かれる。


 マイトランドもランズベルクも、軍人に必要な体力練成を罰則に当てていると思い、あまり気にはしないで罰則を受けていた。


 日々の軍人としての訓練としては入隊後まだ日が浅いことから、基本教練、剣術、駆け足、服務についての座学などを中心に、それぞれに専門の教官がつき練度の向上に励んでいた。


 基本教練とは、敬礼、右向け右、回れ右、など軍隊での基本動作を統制するものであり、各国により、その呼称も、様式も異なる。

 例えば、同じ敬礼でもイドリアナ連合王国では、手のひらを、敬礼を受ける者に見せる様式であるに対し、ウェスバリアでは手のひらを相手に見せない様式である。


 そんな日も2週間ほど経った週末の日だった。相変わらずマイトランドとランズベルクへのドワイト班長の風当たりは激しく、計1000回以上にも及ぶ腹筋を実施させると、終了するのを待って、班員全員を一列横隊に整列させる。


「注目!」


 日々の基本教練の成果か、全ての班員がその号令に寸分たがわぬ動きで班長の方向に顔を向ける。


「貴様らにとって嬉しい知らせがある。いよいよ明後日、第一回目の模擬戦が行われる。必ず優勝しろ。いいな!」


「「「イエッサー!」」」


「よろしい。それでは各員武器を受領せよ。注目なおれ!」


 班長の言葉に反応し、コリンズ伍長が班長の位置まで大きな箱を引きずって来た。


 班長にそれぞれ個人の名前を呼ぶと、箱から武器を取り出し、呼ばれた者が班長の位置まで移動し、武器を受領する。

 マイトランドは最後、ランズベルクは最後から二番目。

 2人は自分の順番が来るまで、他の班員が武器を受領するのを観察する。


 イブは青銅製のラウンドシールドと、青銅製の剣、アダムは青銅製のハルバート、クリスは青銅製の短剣、ジョディーは青銅製の大剣、全員が青銅製の武器を受け取っていた。それらは遠目から見てもそれらは緑青がこびりついている、とわかるほどに青く錆びついていた。


「次メレディアス2等兵。ラッセル2等兵。一緒に来い。」


 ランズベルクとマイトランドの名前が呼ばれ、2人は一緒に班長の前に進み出る。


「貴様らの武器は足りなくてな。用意できなかった。代わりと言ってはなんだが、この剣術訓練用の木剣を用意しておいた。数は沢山あるからな。2本ずつやろう。どうだ、嬉しいだろう。俺の好意だ、喜んで使うと良い。」


「「イエッサー!」」


 マイトランドとランズベルクに向けられた憎悪が滲み出てくるようなニヤついた顔で武器を渡されると、その木剣を受領し、班長にはわからない程度に、肩を落としながら元いた位置へと戻った。


「よし、武器は全員に行き渡ったな。それを明後日までに手入れしておくように。ちなみに、貴様ら以外の班では、持ち込みの武器を使う物もいるだろう。だがお前達はその武器以外の使用は禁止だ。わかったか!」


「「「イエッサー!」」」


「ああ、後もう一つ。他の班は班長が作戦を考えるが、俺は面倒な事はしない。そうだな・・・。」


 班長はそう言うと横隊中央を指差し、


「デカ物!部屋長としてお前が作戦を考えろ!わかったか!」


「イエッサー!」


 ヘクターは動揺しながらも罰則を考えてか反射的に返事をする。

 班長はヘクターの返事を確認すると懐から丸まった羊皮紙を取り出すと目の前にだし、


「よし、貴様らはさっき俺に優勝すると言ったな。優勝できた時にはご褒美をやろう。この羊皮紙にご褒美が書いてある。コリンズ伍長に渡しておくから優勝したら確認するように。優勝できなかった場合には普段の罰則を5倍に増やす。わかったか!」


「「「イエッサー!」」」


「そうそう、武器の手入れ不足や、作戦の準備不足、班長の救護遅延で死人が出る年もあるらな。気をつけろよ。では解散!」


 そう言い残すと、その場を去って行った。


『やって見せ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ。』


 とはよく言ったもので、真逆の行動をする班長の言葉に、マイトランド以外の全員が意気消沈していると、


「皆、良く考えても見ろ。勝てばいいんじゃないか?まだ二日もあるんだ。兵站を考えなくていい模擬戦なら必ず勝てる!」


 マイトランドのこの言葉に、マイトランド信奉者のランズベルクとジョディー、クリス達は息を吹き返す。


「そうだ!あたいもそう思うよ!勝てる!」


 ジョディーがそう言うと、ジェイクが反論した。


「馬鹿言えよ。マイトランドお前木剣だろ?青銅武器を貰った俺達を炊きつけて、自分は楽しようって魂胆だろ。みえみえ過ぎて吐き気がするぜ。」


 マイトランドはジェイクに微笑むと、


「ジェイク、俺はそんな卑怯者じゃないさ。一緒に戦うに決まってるだろ?」


「じゃあ今やってみるか?俺のこの斧とお前の木剣どっちが強いか試そうぜ。」


 そう言ってジェイクは身の丈ほどの斧を構えた。

 マイトランドはジェイクが構えているのを余所に、ランズベルクに尋ねる。


「ランズベルク、あれを頼めるか?」


「あぁどれくらいだ?」


「そうだな、青銅だからな、1割位で頼む。ジェイクは貴重な戦力だ、怪我はさせたくない。」


「わかった。」


 ランズベルクは手をかざし、マイトランドの左右の木剣に魔法を付与すると、


「オッケーだ。」


 そう言ってその場から立ち去る。

 ランズベルクが目の前から立ち去ると、マイトランドは木剣を構えるとジェイクに合図する。


「ジェイクいいか?」


「俺はいつでもいいぜ!死んでも恨むなよ。」


 ジェイクはマイトランドの準備が整ったのを確認すると、斧をマイトランドに突き出し、距離を詰める。

ジェイクが一歩前に出ると、マイトランドが半歩下がる。


 当然得物が大きい、ジェイクの間合いに入る。

ジェイクは斧を横薙ぎに一閃すると、マイトランドが回避しジェイクに突進した。


 ジェイクは斧を素早く上段に構えなおすと、間合いに入ったマイトランドめがけて振り下ろした。


 マイトランドはその振り下ろされた、斧の柄めがけて木剣を振るう。


 2人の武器が交差した瞬間、スパーンと言う音と共にジェイクの斧刃は宙を舞う。

 次の瞬間には、マイトランドの、もう一本の木剣がジェイクの喉元手前に止められていた。

 周りから見れば圧倒的なマイトランドの勝利だった。


「マジかよ。うそだろ。俺の負けだ。」


 誰もがジェイクの青銅の斧の勝利を信じていた。もちろんジェイク本人も。

だが結果は誰が見ても圧倒的なマイトランドの勝利だった。

 マイトランドは、がくりと地面に膝を落とすジェイクに声をかけると手を差し出す。


「ジェイク、俺一人なら無理だったよ。ランズベルクの魔法があったからジェイクに勝つ方法を見いだせたんだ。よかったらジェイクのスキルを教えてくれるか?もっと考えられる幅が広がると思うんだ。」


 ジェイクは無言でその手を取ると立ち上がる。

 ジェイクを起こした後で、マイトランドは他の班員達を見渡し言った。


「皆のスキルについても教えてくれ!もちろん教えてもらうだけじゃない。一緒に最優秀班になれる方法を考えよう!」


 マイトランドがそう言うと、ルークを除く班員達全員が息を吹き返し、マイトランドの傍に集まった。

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