第20話 模擬戦の準備 2
「マイトランド!言われてたヤツ、全部持って来た!」
ヘクターは部屋に戻ってくるなり、マイトランドのベッドに言われていたソレらを放り投げた。
「ずいぶん早かったな。班長許してくれたのか?アレだけ非協力的だからそうそう許してくれるとは思ってなかったけどな。しっかり中身は確認したか?」
そう言ってマイトランドはヘクターの持ってきた羊皮紙を広げだす。
「うん、僕もわからないんだけど、班長の机の上に頼まれた物全部置いてあったんだ。だから全部持ってきただけ。中身は2、3個確認して大丈夫そうだったから後は確認してないや。マイトランドが先に頼んでいたんじゃないの?」
「うん?あのな、ヘクター、俺のどこにそんな暇があったんだ。ちょっと待てよ。ってことは、班長は、俺達が何を頼むか分ってたって事か?それともあの得体のしれないコリンズ伍長か?まぁいい、一通り確認しよう。」
マイトランドはジェイクとの一件の後、それぞれの班員に頼みごとしていた。
ヘクターには、模擬戦の過去記録、今回と過去の模擬戦の編成表、戦域の地図を班長を口説き、持って帰る事。
ランズベルク、シュウ、クリスにはマイトランド以外の全員のスキルチェック。
フィンとアルベルトには、全員分の青銅装備を利用してのアイテム、武器の作成。
ジェイク、ロブ、エリオット、ダンにはマイトランドの寝具を利用してのアイテムの作成。
フォルカンとスナイダーにはマイトランドの麻製の作業服を使ってのアイテムの作成。
アダムスとイブラヒムには竹製の避難梯子を利用してのアイテムの作成。
ジョディーと、ジョディーの同室で班員のフランとポエルにはマイトランドの補佐を。
ルークとトッドには、情報操作を。
アツネイサにはルークとトッドの監視を頼んだ。
マイトランドは、羊皮紙を全て広げながら、
「今まで罰則ばかりで少しも話せていなかったからね。ちょっとだけフランとポエルの事を聞きたいんだが。いいか?」
フランとポエルは顔を見合わせると、マイトランドに頷いてみせる。
「じゃあまずは、フランのこと聞いていいかな?スキルのこととか、なんでもいいんだ。」
フランは少し顔を赤らめながら答える。
「私、フラン・ファルメル今年で16になります!マイトランド君の村の近くにあるキュイジ村から来ました!今までは家業のひよこの選定をしてました。オスかメスか分けるんです。スキルは、初級だけど火魔法が使えます!あとは・・・。ありません!目が少し良いくらいです!」
マイトランドは作業を止め、フランに振り替える。
「ひよこの選定?オスかメスかわかる物なの?」
「はい、お尻の穴で判断するんですよ。ちょーっと難しいですけどね。」
フランが長い茶髪の前髪をかき分け自慢げに語るのも無理はない。
栄養価の高い卵を産む雌鶏は鶏卵用、雄鶏は食肉用に肥育し鶏肉として、育て方が違うのでひなの時に分けてしまう。
配給が続くウェリステアでは生産性向上の為こうしたひよこ鑑定ができるものは重宝されたのだ。
「ありがとう。でも同い年なんだから、敬語はやめてくれよ。次はポエルいいか?」
狸獣人のポエルは二度頷くと、
「ポエル。苗字は知らない。弓が得意。孤児院で育ったの。だから孤児院の手伝いくらい。スキルは弓術。特殊弓術、あと隠密。馬も乗れる。あと忘れたけど2個くらいわからないスキルあった。」
「そうか、ポエルありがとう。特殊弓術って何かわかる?」
「矢が無くなっても魔力あれば矢打てるの。でもいっぱいは無理。あと、音が出る矢打てるの。」
音が出る矢と言うのは、いわゆる蟇目鏑矢のことだろう。合戦の合図などや、味方への合図で重宝される。
「ポエル優秀すぎるな。頼りにしているよ。」
マイトランドがポエルを褒めると、フランがマイトランドの前に出てくる。
「あーっ!マイトランド君、ポエルちゃんだけズルいです!私も褒めてください!私、マイトランド君のファン1号なんですから!」
フランの勢いに負けマイトランドは冗談交じりで
「フランもすごいよ!ひよこの鑑定ができるんだからね!他の人には真似できない!うん!」
「ですよね、ですよね。」
フランはそう言うと、機嫌が良くなったようで、鼻歌を歌いながらどこかへ行ってしまった。
マイトランドはため息をつきながらジョディーに尋ねる。
「はぁ、ジョディー、フランっていつもあんな感じなのか?」
「ああ、あたいにもあんな感じさ。」
「ファンはやめてくれと言っておいてくれ。」
マイトランドはそう言うと、書類に目を通し終わったようで、ジョディーに全員の集合を任せる。
「ジョディーすまない。みんなを集めてくれるか?」
「あいよ!」
ジョディーと入れ違いで、全員のスキルの聞き取りが終わったランズベルク、シュウ、クリスが帰ってくる。
「マイトランド、すげえの発見したぜ?やばいって!」
ランズベルクは帰ってくるなり、大声で叫ぶ。
「どうした?そんなすごいスキルがあったのか?」
「聞いて驚くな?念話だ。アダムとイブが使えるんだよ。と言っても二人の間だけだけどな。それ以外にも大豊作だぜ?ジェイクがタウント持ちとかな。マジで最優秀班とれるぜ。」
「そりゃすごいな!後で実際戦力になるか、一緒に確認してみるか。」
タウントは挑発スキルで、これを受けた者は、タウント使用者にくぎ付けになってしまう。
「それはそうと、マイトランドよ。耳貸せよ。」
そう言うと、ランズベルクはマイトランドに小声で喋りかける。
「なんでジェイクとやりあった時、俺に魔法付与なんて頼んだんだ?ありゃマイトランド1人で余裕だったろうよ。」
マイトランドは少し困って答える。
「誰にもその話はしてないだろうな。」
ランズベルクが首を縦に振ると、マイトランドは続ける。
「あれは2人で勝ったことに意味があるんだ。ジェイクは見た目が明らかに強そうだろ?それに俺達が2人で戦って勝てば、班員の士気も上がるだろ?」
そこまで言うとマイトランドの後ろからポエルが、
「マイトランド悪いヤツ。孤児院で言ってた。どんな相手にも本気で戦わないとダメ。」
かぁー聞かれてたのか、と言った感じでマイトランドは、顔を片手で覆い振り替えると、怒ったポエルがそこにいた。
「ポエル。頼むからジェイクには内緒だぞ?ジェイクの名誉に関わるからな。それと・・・。内緒話は隠密を使って聞かないようにな。」
「ジェイクの名誉守る。わかった。貸し1。」
「わかったよ。今度埋め合わせするよ。だからお願いな。」
ポエルは嬉しそうに頷くと、鼻歌を歌いながらどこかへ行ってしまった。
「これからは、ポエルに気を付けよう。あの子は危険だ。」
「ああ、そうしよう。でも埋め合わせってどうするんだ?」
「うーん2ケ月目に外出ができるってジョディーが言ってたろ?その時になんか考えることにするよ。食い物で釣って拝み倒すしかないだろ。」
「それで許してくれるといいけどね。ありゃそんな感じじゃなかったぞ。」
「ジョディーがいるんだ。なんとかなるだろ。それより他の班員のスキル教えてくれよ。」
マイトランドはポエルの事を頭の隅にやると、再び作戦を考えた。
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