第18話 新兵教育 6
「おいクソブタ!今騎兵科と言わなかったか?」
「は、はい!そ、そうお伝えしました!」
ルークは自分が怒られると思ったのか、答えた唇は少し震えていた。
「マイトランドォォォオ!ランズベルクゥゥゥウ!貴様ら!我々栄光ある歩兵兵科が一番嫌いな物は何か知っているか?」
マイトランドとランズベルクは、身内に敵がいた事に憤りを覚えたのだろう、その場で固まっていると。ドワイト班長は頭に余程血が上っているのだろう、その場で屈むと大きく息を吸い込み、立ち上がったかと思うと、それを吐き出すように大声で続けた。
「返事が出来んのか!ならば教えてやろう!それはな、騎兵だぁ!貴様らが希望した騎兵科が好かんのだ!何故かわかるか?貴様らの様なクズにはわからんだろうな、騎兵はな、騎士道だ、貴族だと普段は何もしないくせに、戦場では美味しいとこだけ持って行く。俺達が弓や魔法砲撃に耐えながら必至で進め、維持した前線を、やれ側面攻撃だ、なんだと横からやって来て!奴らはクソだ!」
余程騎兵が嫌いなのだろう、班長は一息でそこまで言い切ると、息を切らし、膝に手を付き息を整えた。
マイトランドはこの班長の発言と、騎兵科を選んだ他の班員、検査官の機密と言った発言を考え、班長に反論する。
「自分は騎兵科を選んだことを後悔していません!それに戦場には歩兵も騎兵も弓兵も必要であると愚考します!」
腐っても上官だ。マイトランドの配慮ある言葉に、班長の顔は熟れたりんご程に赤くなり、その怒りは頂点を迎えた。
「貴様ぁぁぁあ!誰が口答えしろと言った!コリンズ!こいつを反省室へ連れて行け!他の者は食堂で食事を済ませて自室で待機せよ!行け!」
画してマイトランドの思惑通り、マイトランドのみが罰せられる結果となった。
マイトランドがコリンズ伍長に連行され、反省室入ると、反省室と呼ばれる部屋は、47号室に何もない状態のただの空き部屋だった。
班長はその空き部屋で、マイトランドの前に立つと舐めるように顔を見回し、
「マイトランド2等兵、命令違反!腕立て伏せの姿勢を取れ!」
と、ただ一言言い放った。
先程までの激昂した様子の班長とは打って変わって、冷静な態度に疑問を持ちながら、マイトランドは命令通り、姿勢を取る。ここまでは通常の罰則と変わらないが、反省部屋ではスペシャルコースが待っていた。
班長はマイトランドが腕立て伏せの姿勢を取ると、孫の手程の長さの棒を手に持ち、マイトランドの背中に胡坐をかいて座ると、
「100回実施せよ。地面に接触するごとに、やり直しの上、棒打ち1回。」
それだけ言うと、班長は目を閉じた。
日中かなりの数の腕立て伏せをさせられていた。それなのにこの仕打ちだ。入隊前にみっちり鍛えたマイトランドも腕は、すでに生まれたての小鹿の様に震えていた。
どれほどの時が経過したのか、結果マイトランドは、腕立て伏せ100回に対して、棒打ち86回で反省という名の命令を完遂した。
隊舎の消灯まであと少しと言うところで、マイトランドはフラつきながら自室に戻ると、ランズベルクとクリスが迎え入れる。
「うわ、ひでえな。」
ランズベルクが見たマイトランドは腕が青く腫れ上がり、内出血を起こしていた。
ランズベルクは、フラつくマイトランドを肩で支えながら部屋奥の椅子まで誘導すると、座らせた。
「何か飲むか?」
「いや、大丈夫だ、これ位どうってことない。むしろ先生の授業を思い出すよ。ハハハ」
マイトランドが擦れた様に少し笑うと、ランズベルクも思い出したように笑い出す。
「あぁ、そうだな。いつもこうだったもんな。アハハハッ。」
「それよりもルークには何もしていないな?」
「あぁ、マイトランドならそう言うと思って何もしていない。」
「そうか、ならよかった。」
2人でそんな話を話しているとクリスが、申し訳なさそうに口を開く。
「マイトランド、あのさ。僕とベッドを交換しない?その腕じゃ上に登るのは辛そうだし。どうかな?他の人はみんな見て見ぬフリだし・・・。」
確かに、ルーク以外の他の者は皆、マイトランドが気にはなりチラチラ目では確認するが、さわらぬ神に祟りなしと言った感じで、関わろうとはしない。
気遣うクリスに、マイトランドは苦笑いで答える。
「大丈夫だ。こんなのは明日になれば治ってるさ。」
「わかったよ。じゃあこれだけでも受け取ってよ。」
クリスはそう言うと、自分の懐から夕飯の黒パンを半分に千切った物をマイトランドに手渡した。
「これは?クリスの分じゃないのか?」
「マイトランド、ご飯食べてないじゃないか。多分食べれないと思ったから、自分のパンを半分残してきたんだ。僕はもうお腹いっぱいだからさ。食べてくれよ。マイトランドが1人で僕達4人分の罰を受けたんだ。これぐらいはさせてくれよ。」
4人分と言った背景には、クリス、ジョディー、ランズベルクと言った、騎兵科を選考したとクリスが考えた者が入っていたのだろう。
クリスが伝え終わると、ランズベルクも、クリスほどの大きさでは無いにしても約1/4程の大きさの黒パンをマイトランドに手渡し、
「なんだ。クリスもやってたのかよ。しかもクリスのパンの方がデカいし!ムカつくぜ!しかしよぉ、あいつの言ってた事は本当だったんだな。腹いっぱいパンが食えるってよ。捨てるくらいいっぱいあったぜ?」
マイトランドは、クリスが半分と言ったことから、パン全体の大きさを把握していた。その大きさ、ランズベルクのいつもの食事量などから半分では十分じゃないとも言いかけたが、そんな2人の友情に、目頭が熱くなるのを感じると、顔を抑えて、擦れた声で言った。
「ありがとう。二人とも。本当にうれしいよ。ありがたくいただくよ。」
まだ夜も更けぬ消灯寸前の出来事だった。
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