第17話 新兵教育 5

「終わったぜ。」


「どこの兵科を希望したんだ?」


 ランズベルクが、自分の検査の終了を、マイトランドに伝えると、マイトランドはランズベルクの希望兵科が気になる様で尋ねる。


「あぁ、馬を貰ったろ?乗馬スキル発現してたぜ!だから騎兵科だ。マイトランドはどこにするんだ?」


「俺もランズベルクと同じにしようと思う。参謀本部は基本的にどの兵科からも所属できるしな。騎兵科は馬が使える分、歩兵科よりも生存率が高い。遠距離攻撃や、パイクを警戒すればの話だけどな。」


 パイクというのは歩兵による待ちかまえ戦法の事であり、騎兵は突撃時このパイク攻撃に非常に弱い。その反面、フランキング(翼包囲)や、早さを生かした側面攻撃などの攻撃により、他の兵科と違い、決戦を左右しうる戦力であるため、基本的生存率は高い。


 そんな二人の会話にジョディーも参入してくる。


「あんたら、良く調べてるんだね。あたいも、あんたらと同じ兵科を希望するよ。」


「いや、お前馬乗れるのか?無理だろ。」


「あんたらで乗れるなら、あたいだって乗れるさ。少しは乗ったこともあるんだ。」


 ジョディーとランズベルクがまた言い争うと、マイトランドが神妙な顔になり、


「ランズベルクの言う事に乗る訳ではないが、ジョディー、今は歩兵兵科を希望したほうがいい。俺達の様に、命令違反を犯す必要はないだろ?弟の事だけを考えるんだ。」


 そう言ったマイトランドにジョディーは怒ったように大声を上げる。


「あんた!あたいらに死ねって言ってるのかい!」


 マイトランドは両手をジョディーの肩に置き宥めながら言う。


「どうしてそうなるんだ。」


「あんた、さっき生存率が低いとか、どうのこうの言ってたじゃないか!」


「それはあくまで平均の話だ、戦場となれば後方兵科以外、どの兵科だろうが死ぬものは死ぬ。そんな事よりも、教育期間満了までに、俺達以外の仲間が、ジョディーが目をつけられて欲しくない。」


「あ、うん、わかった。あたいに任せな。」


 このジョディーの生返事が、本当にわかっているのかと疑問に思うマイトランドだったが、その疑問はこの後的中することとなる。


 ジョディーが検査から戻ってくると、マイトランドに耳打ちした。


「あたいも、クリスも騎兵科にしたよ。」


 やってくれたといった感じで、両手で顔を覆いため息をつくマイトランドに、ランズベルクが笑いながら、


「俺は、なんとなくだが、騎兵科を希望するんじゃないかって気がしてたぜ。あいつ絶対お前に気があるわ。」


 ジョディーが歩兵科を選んでいたら、得られる情報もあったであろう。自分の思惑と逆の事をされ、検査の順番が来るまで、うなだれる結果となった。


 班の最後だったマイトランドの順番がやってくると、身体検査を手早く済ませ、スキル鑑定場へと向かった。


 スキルを魔道具によって鑑定すると、検査官達がどよめきだす。


 マイトランドの発現スキルは、


 神軍、征軍、皇帝の軍勢騎馬、皇帝の軍勢戦車、皇帝の軍勢歩兵、皇帝の軍勢僧正、イーグルアイ+、軍勢効果付与、不撓不屈、堅忍不抜、双剣術、特殊双剣術、馬術、馬上双剣術、銃術、特殊銃術、超回復、体力向上、体力超向上、情報操作、気配察知、魔力感知であった。


 皇帝と名のつくスキルは検査官達も今までに見たことが無かったためか、驚きを隠せない。


「マイトランド2等兵、希望兵科はどこなんだね?」


 検査官が尋ねると、


「はい、騎兵科を希望しています。」


「お前もか、この班はこれで何人目だ?」


 もはや知らないと言う事は罪である。このスキルを流さずに上層部に報告していれば、何かわかったかもしれないのに、マイトランドの回答を聞くと話題はすぐにこの話題に映り、検査官が別の検査官に確認する。


「はい、16名です。」


 ランズベルクの二人後から全員、つまりランズベルクの後のジェイク、ランズベルク前のロブ、ダン、エリオット以外はマイトランド達の話を聞き、騎兵科を希望したことになる訳だ。

 アツネイサが騎兵兵科を希望したことに、リザードマンが馬に跨る姿を想像し笑いをこらえながら、マイトランドは検査官に尋ねた。


「あの、全員適性があったという事ですか?」


「それなんだがな。機密にあたる事項で新兵の諸君には伝えることができんのだ。」


 なんだか含みを持たせるような言い方をする検査官だったが、自分の適正結果が気になるのか、検査官に尋ねた。


「あの、自分の適性はいかがだったでしょうか。」


「マイトランド2等兵騎兵適正有!」


 羊皮紙に書き込まれるのを確認すると、マイトランドは検査官に対し丁寧に一礼し、部屋を出た。


 マイトランドを最後に、班全員の検査が終わったので、班は建物の外に出る。

 建物の外には笑顔のドワイト班長が待っており、当然の様に大声で叫んだ。


「お前達!全員歩兵兵科を選択しただろうな!」


「「「イエッサー!」」」


 班全員で答えると、よほど嬉しかったのか、ドワイトは更に上機嫌になり、


「そうか!班長の様になりたいだろう!よしよし!素晴らしい!デカ物!隊舎まで引率せよ!罰則は無しにしてやる!」


 事情を知っているだけに、マイトランドは内心複雑な気持であったが、罰則が無いことはいいことだ。そう思い、少しホッとすると、


「班長!マイトランドとランズベルクは騎兵科を選択していました!二人の話を聞いていたから間違いないです!」


 そう声を上げたのは、マイトランドの予想では、歩兵兵科のどちらかを選択したであろう、ルークであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る