第16話 新兵教育 4
腕立て伏せが終わると、班長のドワイトはマイトランド達全員に、
「いいか、これからはマイトランドとランズベルクの罰則を2倍とする。腕立て伏せができない、できなくなったものは代わりに2人に押し付けることを許可する。これは決定事項だ。いいな!」
「「「イエッサー!」」」
「それでは、これから身体検査、スキル検査、希望兵科の調査を行う。よって検査場所まで移動する。部屋長は俺の位置まで来い!」
「イエッサー!」
ヘクターが返事し、ドワイトの位置まで行くと、ドワイトは続けた。
「お前が検査場まで班の行進を引率しろ!1、2、1、2と大きな声でハッキリと呼称し引率せよ!」
「イエッサー!」
ヘクターが元気よく、1、2、1、2と呼称し始めると、
「違う!左足が1だ!全員腕立て伏せの姿勢を取れ!」
言われるがまま、班は腕立て伏せの姿勢を取った。
こんな説明不足の状態で開始される新兵による行進は、指摘できる部分が山ほどあり、検査場と呼ばれる建物まで、実に42回の罰則を科せられた。
ルークの分、脱落者の分をマイトランドとランズベルクで半分にし、1000回以上にも渡る腕立て伏せを実施し終えるまでに、開始時、頭の上にあった太陽は傾き、日も暮れようとしていた。
ドワイトは一人一人に検査の札を渡すと、去り際に、
「貴様ら!希望兵科は俺と同じ歩兵科か重装歩兵科にせよ!いいな!」
「「「イエッサー!」」」
そう強く言い残すと、建物の外に出た。
幸か不幸か、マイトランド達以外全ての班が、検査を終了させた後だったので、マイトランド達しかその場におらず、
「おいマイトランド。ありゃねーぜ。俺達だけ目の敵にされて。俺はもう腕がもう上がらないぜ。」
ランズベルクがドワイトの文句を言うと、マイトランドは苦笑いで答える。
「あぁ、全くだ。でも俺は命令に従おうと思う。希望兵科以外はな。実際こんなもんでへばってたら、首席なんて夢のまた夢だろ?いい訓練ぐらいに思うさ。」
「わーったよ。付き合うぜ。」
ランズベルクがしぶしぶと言った感じでマイトランドに同意すると、マイトランドに後ろから小声でジョディーが話しかける。
「あんたら、何したんだ?初日から目を付けられるなんてさ。ルークなんかは嬉しいだろうけどさ。あたいは複雑さ。」
マイトランドはまた苦笑いで答える。
「何もしてないさ。でも想像はできる。まぁ気長に行くよ。」
「こんなこと言うのもアレなんだけどさぁ、あんたら根性あるね。腕大丈夫かい?気休めにしかならないけど初級でよければ、回復魔法かけようか?」
「心配してくれてるのか?ジョディーは優しいな。ありがとう。でも大丈夫だ。これぐらい何ともない。」
マイトランドが答えると、ジョディーは顔を赤くして、
「そうかい、ならいいんだ。だけど本当にキツくなったら言っておくれよ。それとさ、さっき首席がどうのって言ってたけど、本当に狙ってるのかい?」
「ああ、狙ってる。」
「貴族や新貴族もいるのにどうするのさ。」
「そんなの簡単だろ?勝てばいいだけだ。」
マイトランドの平然と言い切る態度に、驚きを隠せないといった顔でジョディーは尋ねる。
「どうやって?方法でもあるってのかい?」
「そうだな。あるよ。まぁ見てな。」
「わかったよ。それならあたいも協力するよ。あんたが首席ってことは弟の進路もなんとかなりそうだしね。」
「あぁ、そうしてくれると助かるよ。仲間は多いほうがいい。ありがとう。」
そんなマイトランド達の会話に入れなかった、ランズベルクがジョディーに尋ねる。
「おい男女、なんでお前顔が赤いんだ?まさかマイトランドの事好きなのか?」
ランズベルクは恋愛に関しては子供である。事実童貞だ。したがってこの様な発言しかできない。
「あんたねぇ、いい加減にしなよ。あたいはただ、自分が恥ずかしくなっただけさ。班員を見て無理だと決めつけてた自分自身がね。本当に恥ずかしい。」
「なーーーんだ。そうか。つまんねーな。」
「うるさいね。あとあたいはジョディーだ!女だ。次言ったら殴るからな。」
「わーったよ。うるせーな。」
そんな会話をしていると、ランズベルクの番がやってくる。
「じゃあマイトランド、お先!」
「あぁ」
身体検査は、基本的に身体測定だ。身長、体重、肺活量、脈拍などを測定し、軍人として健康であるか、また、正常であるかなどを検査する。
それが終わると、スキル鑑定だ、スキルのみを表示する魔道具で、今スキルは何が発現しているのかを測定する。スキルレベルは数値化されないのが難点だ。
ランズベルクの発現しているスキルは、
上級風魔法、剣術、銃剣術、体力向上、体力超向上、回復弱、特殊剣技、特殊銃剣技、隠蔽、隠密、偽装、馬術、馬上剣術、魔法剣風などであった。
スキル鑑定が終了すると、兵科調査だ。希望兵科を聞かれ、スキルなどから適正兵科であるかを調査するだけの簡単なものだ。
ランズベルクは検査員に希望兵科を聞かれると、
「はっ、騎兵科であります!」
「よし、ランズベルク2等兵、騎兵科適正有!」
羊皮紙に記入されランズベルクの検査は終了した。
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