第15話 新兵教育 3

 その笑顔の軍人は、マイトランド達18名の丁度中央付近に2歩ほど離れて立つと、別の場所で指示をされたのだろう、+アルファのジョディー達3名が来るのを待って、21名の丁度中央に立ち、口を開く。


「注目せよ!俺はドワイト軍曹である。今日からお前達アヒルの班長だ。これからは班長と呼べ!返事はイエッサーだ!わかったか!」


「「「イエッサー!」」」


「よし、それでは部屋長を決める。右から三番目のでかいアヒル!お前だ!」


 右から三番目はヘクターである。ヘクターは気弱な性格だ。当然返事が遅れる。

するとドワイトは、


「おい、貴様、俺の声が聞こえなかったのか?」


 そう言ってヘクターに近寄り、拳を握ると、いきなりヘクターの顔面を殴りつけて、続けた。


「貴様、俺への返事がわからんか!」


「イ、イエッサー!」


 殴られたヘクターは恐怖からか、訳が分らないといった感じで、つい先ほど教えられた返事をしてしまう。


「そうか、わからんか。連帯責任だ。全員腕立て伏せの姿勢を取れ!」


「「「イエッサー!」」」


 そう言うとドワイト自らも腕立て伏せの姿勢を取り、マイトランド達全員に腕立て伏せの姿勢を促す。


「俺が数を呼称する。貴様らはその呼称に続き腕立て伏せをしろ!」


「「「イエッサー!」」」


 皆で10回終えると、腕立て伏せの姿勢を解除され、班長に正対した。


「いいか、何かある度に罰則だ!全員で腕立て伏せをする。わかったか!」


「「「イエッサー!」」」


 このドワイト、少し説明不足な気もするが、これも軍隊である。


「部屋長は貴様だ!デカ物!」


「イエッサー!」


 ヘクターも皆には迷惑をかけられないとばかりに大声で返事をする。

 これを見ていたランズベルクがマイトランドに話しかける。


「あの班長さ、ちょっとヤバイ気がするわ。他の班見てみろよ。ども腕立てとかしてないぜ。」


 ランズベルクの声に気付いたのか、ドワイトが、


「おい!誰が私語を許した!今喋ったやつは一歩前へ出ろ!」


「イエッサー!」


 ランズベルクが返事をして一歩前へ出ると、ドワイトは再び拳を握り、今度はランズベルクの腹へと殴りつけた。


「貴様、俺は私語を許していない!勝手に口を開くな!全員腕立て伏せの姿勢を取れ!」


 そう言ってまた自ら腕立て伏せの姿勢を取った。

 また全員が腕立て伏せの姿勢を取ると、腕立て伏せを始める。


「1、2、3」


 丁度3までドワイトが数え終えると、ドサッという音と供にルークが地面に吸い付いた。


「も、もうできませーん。」


 ルークは控えめに言ってデブだ。ありていに言えば脂肪の塊だろう。先の10回すらも、まともに熟せてはいなかったのだ。


「おい、クソデブ!貴様が続けない限り、腕立て伏せは終わらんぞ!」


 ドワイトがそう言うと、ルークは機嫌が悪くなったのか、


「僕もう帰る!軍隊もやめる!」


 それだけ言って立ち上がると、走ってその場を後にしてしまってた。


「貴様ぁぁぁぁ!」


 ドワイトはそう言って、鬼の様な形相で立ち上がると、


「貴様ら!俺が戻るまでその姿勢でいろ!」


 そう言い残し、ルークを追って行った。

 ドワイトがマイトランド達のいる場所を去って少しすると、ジェイクが腕立て伏せの姿勢を解き、その場に座る。


「おい、お前ら、いつまでその姿勢でいるんだ?班長殿が帰ってくるまで適当に座ろうぜ。あのデブ連れてくるまで結構時間かかりそうだしよ。」


 ジェイクの言葉に反応して、エリオット、ダン、ロブの3人もその場に座り込む。


 ランズベルクは目でマイトランドにどうするか確認するも、マイトランドは続けるようで、仕方なしといった様子で姿勢を継続する。


 また少しすると、トッドも脱落、続いてアルベルト、フィッツも腰を下ろす。


 どれくらい経っただろうか、マイトランド、ランズベルク、ジョディー以外の全ての班員達が諦め、その場に座ると、あの班長の声がする。


「早くしろ、このクソブタ!」


 3人以外の班員が慌てて腕立て伏せの姿勢に戻ると、顔を腫らせて痣だらけになったルークを引きずり、ドワイトが帰ってきた。


「よしよし、しっかり姿勢を取っているな。」


 ドワイトがそう言うと、投げ捨てる様にルークを列に戻した。


「よし、腕立て伏せを再開する。」


 ドワイトが腕立て伏せを始めようとすると、


「ドワイト軍曹、少しお待ちください。」


 ドワイトの腕立て伏せを遮るように、マイトランドの後ろ辺りで声がする。その声はこう続けた。


「私から見て、左から7番目、8番目、20番目以外は休んでました。厳密に言えば最後まで同じ姿勢でいたのは7番目と8番目だけです。20番目は片手を後ろに回して休んでましたね。」


「本当か?コリンズ伍長?」


「はい。最初から最後まで見ていました。間違いありません。」


「よし、よろしい!7番目8番目、名前をその場で言ってみろ!」


 ドワイトがそう言うと、2人はその場で名前を名乗る。


「マイトランド・ラッセル2等兵です!」


「ランズベルク・メレディアス2等兵です!」


 2人がそれぞれ名前を言うと、ドワイトはにやりと笑い、


「貴様らがマイトランドとランズベルクか。」


「「イエッサー!」」


 2人が返事をすると、ドワイトはニヤリと笑い大声で叫んだ。


「よし!他の者は腕立て伏せの姿勢を解け!2名には他の者の分8回×22人分を実施させる!」


 ランズベルクは、なぜこうなったと言わんばかりの顔でマイトランドを見ると、マイトランドはただ頷き、2人は88回分の腕立て伏せを終了した。

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