第14話 新兵教育 2

 自分の荷物の整理を終え、しばらくランズベルクと、クリス、それにジョディーと談笑をしていると、続々と他の同室と思われる者が部屋に入ってくる。


 マイトランドはさわやかな笑顔でその者達と挨拶をすると、ランズベルク、クリス、ジョディーもそれに続く。


 最初に挨拶を交わした、フィン・フィッツロバートは、白い肌と、赤のくせ毛が特徴的な、首都近郊の街グエスタで鍛冶屋を営む家庭の息子。人間種16歳。身長は165前後だろう。左列一番目上段のベッド。


 グレナダからはあと1人、トッド・ロンカスター。トッドは陽気な男。病気で昨年の徴兵を免れた、世間一般で言う臆病者である。フィンと大して変わらない背丈で、人間種17歳。左列四番目上。


 黒髪短髪の色黒のアルベルト・シェリフは、グエスタとトロンまでの距離を西に行ったところにあるコントラ村の農家の息子だ。人間種16歳。背はマイトランドとほぼ変わらない175前後。左列三番目下。


 コントラ出身者で、アルベルト以外に2人、スナイダーとフォルカン。二人とも160前後で人間種16歳、農家のスナイダーが左列二番目下、裁縫職人見習いのフォルカンは右列五番目上。


 ヘクター・プランツは、180超えと体は大きいが、気が小さいのか声が小さい、坊主頭の茶髪の黒人。林業が盛んなウェバーブリッジ村出身で、日ごろから手伝っていた家業が、きこりだったこともあり、腕はそこらの兵士の1.5倍はあるだろう。人間種16歳。右列2番目下段。


 ヘクターのいとこ、同じ村の出身で、双子の人間種アダムスとイブラヒム。通称アダムとイブ16歳。家は大工で、二人とも大工の見習いで、木材加工を手伝っていた。ほくろの位置と声を除けば、どちらがどちらかわからないくらいには双子だ。アダムは左列五番目下、イブはクリスの上、右列四番目上だ。


 マイトランドの故郷、トロンの村から西へ海まで出たところにある漁村、プエリ村、その村の村長の息子、ジェイク・プエリ。プエリの苗字は代々、村長の家系の長男にだけその名を継ぐことが許されている。もちろん家業は漁師だ。彼も地引網などを手伝っており、太陽の光をたっぷり吸収した、浅黒い肌と、太陽の光を反射するほどの、白い歯が特徴的である。人間種16歳。身長170前後、右列五番目フォルカンの下。


 そのジェイクの幼馴染が3人、エリオットと、ダンそれにロブ。この3人は・・・。

さして特徴がない。3人とも165前後の身長で、細身、人間種、16歳。特徴がないのが特徴と言っていいだろう。3人とも右列上段で、エリオットが2番目、ダンが3番目、一つ飛んでロブが五番目。


 アスガルド大陸東端、そこから船で3日ほど行った島国からの移民集落。その集落から来たシュウ、長い黒髪を後頭部で結ってある、細身、160ほどの人間種の16歳。身長の1.5倍ほどある包みを、大事そうに抱えているのが印象的である。ヘクターの上右列二番目上段。


 商人の息子ルークは、身長165前後に対し、体重100kgはゆうに超えていようかと言 う、いわゆるデブだ。軍に入隊したというのに、常時汗をかきながら芋や黒パンを食べている。2年ほど召集を拒み続けたため、現在18歳。ランズベルクの下段右列三列目のベッドになる。


 最後は首都近郊の湿地帯から召集に応じたリザードマン、アツネイサ・ラウララ。言葉が片言で、身長は180前後、厚い鱗に覆われた体と、前に突き出た口と鼻が特徴的だ。マイトランドの下、右列一番目下のベッドだ。


 トッドの下とフィンの下のベッドが空いているが、まだ来ていないか、徴兵逃れで来ないかのどちらかだろう。


 それぞれ挨拶が終わると、ジョディーが小声で一言クリスに言った。


「このメンツじゃ模擬戦は厳しそうだね。強そうなのが一人もいないよ。あんたを成績上位を納めて憲兵か司令部付隊くらいに入れてやりたかったんだけど。」


「ねえちゃん。そんな事言わないでくれよ。みんな良い人そうじゃないか。それに僕はもう兵隊になるって決めたんだ。ねえちゃんもいるし、なんとか頑張ってみるよ。」


 ウェスバリア軍において、模擬戦の最終成績上位者は、自分の好きな部隊に配置されるというルールが存在するが、ほとんどの場合、成績上位は貴族班、新貴族班が納めるため、平民班はその特典を得ることはできない。

 しかし弟思いのジョディーは、もともと軍へ志願などするつもりはなかったが、体の弱いクリスを後方勤務にできるよう、なんとか模擬戦上位を納めさせたい。その思いから志願兵として軍へ入隊したのだった。


 ジョディーはクリスと話し終わると、部屋の全員に向かって言う。


「そろそろ、あたいは自分の部屋に戻るよ。じきに適性検査と、希望兵科調査、スキル検査が待っている。また後でな。」


 そう言い残し部屋を去った。

 ジョディーが去ってどれくらいたったのだろうか、


ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!


 と建物内に笛の音が響き渡ると、魔力拡声器だろう、声が響き渡る。


「新兵呼集、新兵呼集、総員隊舎前に整列せよ!総員隊舎前に整列せよ!各部屋番号の木札の前に整列せよ!各部屋番号の木札の前に整列せよ!」


 マイトランドも含め部屋にいた全員が一瞬顔を見合わせると、我先にと部屋を出て隊舎前へと向かった。


 マイトランド達は隊舎前に着くと、隊舎入口に近かったのであろう、他の班に習い47と書かれた木の札に一列に整列する。


 先頭は一番先に到着したジェイク、後れを取ったマイトランドはランズベルクと7、8番目に並んだ。


「すげぇ人数だな。こんなにも新兵っているもんなのか?」


 ランズベルクのつぶやきは他のざわつきにかき消されそうになったが、


「私語を慎め!」


 軍の上官になると思われる男の、魔力拡声器での声で辺りは静まり返った。


 全ての人間が隊舎から出たのが確認できたのだろう、正面中央の隊舎入り口前の壇上に人が上ると、また魔力拡声器の軍人の声が響く。


「総員、壇上に注目せよ!ただ今、登壇されたのは、第5期召集兵教育団長、カール・フォン・ベルナー准将閣下である。これより、各部屋に班長、班付きを配属する。班長、班付きは所定の位置へ移動せよ!」


 拡声器の声が指示を出すと、拡声器を持っている軍人の背後から、軍服姿の男達が各列に向かって一斉に走り出し、笑顔の軍人が1人、マイトランド達の列の前にやってきた。

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