1章 入隊~新兵教育編

第13話 新兵教育 1

「私はウェスバリア国旗と、それが象徴する我が国の平和と独立を守るウェスバリア軍人の使命を自覚し、法律を順守し、心身を鍛え、技能を磨き、強い責任感をもって任務の遂行に当たり、危険を顧みず職務の完遂に務め、国民と自由と正義の為、神の下分割するべからず一国家であるウェスバリアとウェスバリア軍に、忠誠を誓います。」


 ウェスバリア歴210年春、マイトランドは16歳、立派な青年として、宣誓を読み上げていた。


「ラッセル二等兵、47号室、別命あるまで自室で待機せよ。」


「はい!」


 宣誓を読み上げ、部屋を出たマイトランドに、ランズベルクが話しかける。


「マイトランド、何号室だ?俺は47号室だ。」


 ランズベルクと同室でホッとしたのか、マイトランドは笑顔で答える。


「お前と一緒だ。多分同じ村だったからだろうな。自室で待機だ、部屋に行こう。」


「あぁ、何人部屋だろうな。5人10人かなぁ?女の子は一緒かなぁ?」


「女?そんなわけないだろ。大体志願して軍に入ろうなんて物好きが女にいると思うのか?俺達の村にはいなかっただろう?それを考えたら、物好きは1人か2人いればいい方じゃないか?」


「まぁそうだよなぁ。はぁ。」


 深くため息をつくランズベルクにマイトランドは笑って答える。

 昨年秋に徴兵の制度が変わり、女子であっても希望する者は入隊することができるようになった。


 部屋に向かい長い廊下を歩いていると、他の部屋が目に入ってくる。


「おい、マジかよ。20人位いるんじゃないのか?しかもありゃ二段ベッドだぜ。」


「気にするな。まぁ階級が上がれば、一人部屋がもらえるって聞いたしな。第一戦場で大部屋とか言ってられないだろ?」


 マイトランドの部屋ではないが、部屋の中は中央の通路を挟み二段ベッドが5台ずつ置いてあり、その外側にはロッカーと思われる棚が置いてある。言うまでもないが、プライバシーなど無い。


「同じベッドでいいよな?当然俺が上な!」


 ランズベルクがそう言うと、マイトランドはまた笑顔で返す。


「いいよ。そうしよう。俺も下がよかったし。」


 部屋に着くと、2人の相談は無駄になってしまうことになる。


「マイトランド、これ見てみろよ。ベッドの脇に名前が書いてあるプレートが付いてるぜ。」


「あぁ俺はこっちだ。」


 そう言ってマイトランドは右列一番目の上段を指差す。

 俺の位置を確認したランズベルクは3列目まで行くと、


「うわ。俺も上だよ。誰かに代わってもらえねえかな。」


「なんで変わる必要があるんだ?上がよかったんじゃないのか?」


「そうじゃないだろ。わかんねぇかな。」


 ランズベルクの意図を理解したのだろう、恥ずかしいからか、わからないふりをしてマイトランドが声を出して笑っていると、


「あんた達!うるさいね!この部屋は、あんた達だけの部屋じゃないんだ!少しは静かにおしよ!」


 2人の位置からは顔は見えないが、ランズベルクがこの声に反応する。


「マイトランド!早速物好きがいたみたいだな!女だ!女!」


 ランズベルクはそう言うと、声のする方に歩き出した。

 マイトランドも声の主に謝ろうと、ランズベルクの後を付いていく。そこには女が1人、男が1人座っていた。

 声の主を見て無言のランズベルクを尻目に、マイトランドはうるさくしたことを謝罪する。


「すまない。少しはしゃぎ過ぎたようで。」


 マイトランドが謝ると、その女は、


「わかってくれればいいんだ。あたいはジョディー、声からすると、黒髪のあんたがマイトランドね。そっちの金髪は?」


「こいつはランズベルクだ。ランズベルク、同室になる人にしっかり挨拶しろよ。」


 マイトランドが挨拶を促すと、ランズベルクは挨拶よりも先に、マイトランドに耳打ちした。


「おい、あいつ女か?おかしいと思わないのか?女にしちゃあ腹筋が割れてるし、体も俺よりもでかいぞ。女に化けた男なんじゃないか?」


 ランズベルクの言う通り、彼女は座っているが、どう見ても身の丈はランズベルクよりも高く、ランズベルクが身長170位あるのを考えれば、ランズベルクの疑問も頷ける。


「ちょっと、聞こえてるんだけど?あたいのどこが男だっていうのさ!あ、わかったよ。あんた、あたいの肉体に嫉妬してるね。」


 何処をどう取ったらそうなるのか、やはりそう思ったのだろう、ランズベルクは答える。


「なわけ。なわけねーだろ!馬鹿なこと言うなよ!」


「じゃあ何だって言うんだ?」


「お前みたいなヤツ羨ましいもんかよ。ただ・・・。」


 ランズベルクが言いかけたところでマイトランドが割って入る。


「まあまあ、2人とも、同室の好だ、仲良くやろう。」


 マイトランドの言葉に不思議な顔でジョディーが答える。


「あたい、班は一緒だけど、同室じゃないよ。弟のクリスがこの部屋さ、なぁクリス。」


 ジョディーがそう言うと、向かいに座っていた、細身の男が口を開く。


「ど、どうも、クリスです。よろしくお願いします。」


 マイトランドはクリスに手を出すと、


「マイトランドだ。よろしく!」


 マイトランドはクリスと握手をすると、ジョディーに尋ねる。


「ジョディー、班ってなんだ?軍のことに詳しいのか?」


「あぁ、兄貴が軍に先に入っていたからね。基本的なことは聞いたさ。班って言うのはね、グループさ。グループで模擬戦を戦うんだ。班は運命共同体で、良いことはみんなで分かち合う、もちろん悪いことはなんでも連帯責任さ。」


「ということは、2段ベッドが10個あるから、20人+アルファで班か。」


「察しがいいじゃないか、そう言うことになるね。あたい、あんた達、あと1人ってとこだね。とにかく弟とは仲良くやってくれよ。」


「もちろんだ、ジョディーも今後とも色々教えてくれ。」


 そう言って、マイトランドが手を差し出すと、2人は固い握手をした。

 握手を終えるとマイトランドに促され、ランズベルクもクリスと握手を交わし、ジョディーと握手をしながら、


「同じ部屋じゃなくてよかったぜ。」


「なにぃ?お前・・・。」


 ジョディーはそこまで言いかけると、ふぅと息を吐き、マイトランドに話しかける。


「まあいい、全員そろったら、適性検査を受けに行くことになると思う。荷物があるだろう?さっさと荷物を棚にしまって準備をしたほうがいい。」


「あぁ、ありがとう。そうさせてもらう。」


 マイトランドとランズベルクは2人の名前の付いた棚まで行くと、棚に荷物を片付ける。


 ジョディーの大人な対応に内心ほっとするもランズベルクの今後に頭を抱えるマイトランドだった。

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